農水省は”出前農政”の一環として、8月29日から10月5日まで本省幹部が東京、神奈川、大阪を除く44道府県に出向いた「地方キャラバン」で、農業者はじめ関係者から直接意見を聞いた結果をまとめた。全体で延べ参加者数は約4000人となり、ほとんどの人が発言したという。
意見を聞いたのは品目横断的経営安定対策と農政改革の2点。
【生産現場の農業者からの意見】
品目横断的経営安定対策では、制度の仕組み・内容が理解しづらいので、簡単に理解できるような資料を作って欲しいと要望があった。加入条件・手続きでは、面積の基準を特例以外にさらに緩和して欲しい、5年以内に農業生産法人化しなければならないという条件は厳しい、毎年加入手続きを行うのは煩瑣だ、などの意見があった。また、加入申請書類が多すぎるので、簡素化を望む声もあった。麦の加入申請時期(6〜8月)は早すぎるので、翌年の営農計画がきちんと立った後にして欲しいとの要望もあった。
交付金の対象品目、水準、支払い時期についても多様な要望が出された。対象品目に地域の実情を勘案し、そばやなたねなどを追加して欲しいとの要望があった。緑ゲタ(生産条件不利補正対策のうち過去の生産実績にもとづく支払い)には過去の収量の実勢を反映していないのではないかとの意見があった。交付金の支払い時期が年末となっており、資材の購入資金として間に合わないので、早く支払って欲しいとの要望も。そのほか、ナラシ対策(収入減少影響緩和対策)は(90%補償なので)米価が大幅に下落した際には経営の安定につながらない、拠出の時期(7月)は資金が乏しい、交付金申請手続きは年2〜3回必要で煩瑣だ、などの声が寄せられた。
農政改革関連では、集落営農の取り組みについて、組織化に当たりリーダー不足であること、条件の悪い地域や高齢者が多いところは経営の効率化が困難、などの意見があった。
米政策では、米価の下落が続き、将来が大変不安だ。米の生産調整について、過剰作付けの県や農業者が多く、実施している者が不利益を受けることがないような対策が必要。生産調整を円滑に進めるため、産地づくり交付金の維持・増額を求める声があった。
◆集落の和の乱れを懸念、の声も 【行政・JAなど関係団体からの意見】
農業者からと同様の意見のほか、品目横断的経営安定対策については、集落内部で対策の対象となる一部の担い手と対象にならない多くの非担い手とに別れ、その結果、非担い手が生産調整や共同作業などに協力しなくなるなど「集落の和」が乱れてしまうことが懸念される、と実態が述べられた。(品目横断的対策は)「戦後農政の大改革」と喧伝されたが、中味をみると米、麦、大豆など土地利用型農業の品目に限られ、説明会に呼ばれる機会が少なかった野菜、果樹、畜産地帯の農業者は期待はずれという感じを持ったのではないか、との指摘があった。
また、政策の基本的考え方について、品目横断的対策は一定の改善は必要だが、農業従事者の減少や高齢化が進み、このままでは展望が開けないなか、担い手の育成によって将来に渡って地域の農業を維持して行こうという今回の政策は維持することが必要、との声もあった。
◆緑ゲタ前倒し交付を決定
農水省は今後、省内に若林大臣を本部長として10月11日設置した「農政改革三対策緊急検討本部」(10月15日付既報)で今後の対応策を検討する。検討の基本的スタンスは、「土地利用型農業の体質強化を進め、食料の安定確保を図ること」と、「国際規律に耐え得る政策体系を確立すること」の2点。可能なものから改善して行く方針だ。
若林農水大臣は意見として要望のあった「緑ゲタ」の交付時期を、規定上の12月末から前倒しし、申請手続きが済んでいるものから10月末以降順次支払うよう省内に指示した。
また、10月15日の参議院予算委員会で、自民党の佐藤昭郎議員の米価安定対策についての質問に対し、「19年産米の価格が18年産に対し7〜8%下落しており、品目横断的経営安定対策のなかで、農家の経営的損害にどのように対応できるか検討中」と答えた。 |