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「平均削減率」を提示 −農業モダリティ改訂版


 WTO(世界貿易機関)のファルコナー農業交渉議長は2月8日、昨年7月に提示した農業分野のモダリティ案の改訂版を提示した。
 改訂版では、関税や国内支持の削減率、重要品目の数やその扱いなどについては、昨年の原案と同じ幅を持たせた提案となっているほか、上限関税については引き続き盛り込まれていない。ただ、一定のルールによって関税を削減したのちにも100%を超える高関税品目が残った場合は追加的に関税割当(TRQ)を拡大するとの考えや、重要品目を含め関税削減率全体として「平均で54%以上」とする新たな提案も示されている。
 農水省は改訂版についてさらに精査が必要としているが、今回の改訂版の提示によって「交渉はいよいよ正念場を迎える」として、日本は上限関税の不適用、重要品目の十分な数と柔軟性の確保を「最重要課題」としてG10との連携を図りながら、粘り強くわが国主張を反映させるよう交渉に臨む方針だ。

◆平均削減率目標には反対

 改訂版では「上限関税」についての項目は引き続き盛り込まれずこの点は日本としても評価できるとしている。
 しかし、一定の方式で関税削減を行った後に100%を超える高関税品目が「有税品目、または全品目」のうちの4%以上残る場合は、追加的な関税割当(低関税輸入枠)の拡大を求めている。昨年の議長案では、有税品目の5%以上、とされたいたことにくらべ、無税品も含めた全品目とする案との両論併記とし、さらに数値も下げてはいる。ただし、追加的な関割拡大の対象について「すべての重要品目」と明示している。農水省はこの追加的拡大を求める提案は「上限関税に替わる考え方」だとして、「そもそも高関税品目ほど削減率を高くするという階層方式には同意している。それ以上の追加的削減につながる措置は、二重支払い」だとして「しっかり反論していく」としている。
 また、階層方式による一般品目の関税削減率の数値幅は前回からの変更はないが、今回、階層方式に加えて関税削減率全体が「平均して54%以上」とする案が新たに示された。
 対象は重要品目も含めるとしており、いわば関税削減率全体の達成目標を定めるものだ。重要品目の扱われた方など不明な点も多いが、一定のルールで各品目の関税を削減した後に、平均して「54%」の削減率が達成されていなければ、その目標が達成されるよう「階層方式による削減率を実質的に変えて全体として54%削減になるようにする」(農水省)考えとみられ、若林農相は12日の会見で「そのようなしばりは重荷」だと基本的には反対していく方針を示している。

◆重要品目数に変更なし

 関税削減率を一般品目にくらべて緩やかする「重要品目」の数については昨年の原案と同様、4〜6%とされている。ただ、その計算の基礎を「有税品目」、または無税も含む「全品目」と両論併記となった。わが国をはじめG10は、無税品目も「これまでの市場アクセス改善努力の結果」だとして、計算の基礎を全品目とすることは当然との主張をし重要品目の十分な数の確保を図る。日本の関税化品目は約1350品目。これが有税品目では1000品目程度となる。
 重要品目の数については8%まで拡大できる選択肢も示しているが、その場合はさらに国内消費量の一定量の関割拡大を求めるなど
代償措置が付与されている点でわが国の考え方が反映されているとはいえない。
 今後、WTO農業交渉は2月15日に議長案改訂版についての評価を行う全体会合が開かれ、18日の週に少数国会合が開かれる見通しになっている。
 4月以降に閣僚級会合が想定されているとされるが、若林農相は閣僚級会合についてスイス・ダボスでの非公式会合で、項目を10項目程度に絞って政治決着をみるとの議論があったことに触れ「非農産品、ルール分野など(農業以外の分野も含めて)そこまで主要な項目を絞ることができるか。来週(18日からの週)始まる協議でどんな進展がみられるのかによるのではないか」と述べ提示された議長改訂版のままでは閣僚級会合はできないとの見通しを示した。ただ、「年内に終結をみるのは世界経済にとって大事」との立場で交渉に臨む考えだ。
 JAグループでは、当面、今回提示された農業と非農産品分野の議長案改訂版を精査し、各国の動向についての情報収集をすすめながら3月の全中理事会で今後の運動の進め方について提起する予定としている。

●08年2月8日の農業モダリティ議長案改訂版の概要
(下線部が変更部分、[ ]は今後の議論に委ねられる数値等)

【階層方式による関税削減率】
階層方式に従い譲許税率から関税を毎年均等に削減(非従価税品目については従価税換算を実施)
・関税率0〜20%以下→[48−52%]削減
・ 同 20%超〜50%以下→[55−60]%削減
・ 同 50%超〜75%以下→[62−65]%削減
・ 同 75%超〜     →[66−73]%削減
先進国は最低で平均[54]%の削減

【重要品目の数】
先進国は[有税]タリフライン数の[4][6]%までを重要品目に指定可能。
(1)タリフラインの30%以上が最上位階層に含まれる加盟国、(2)または6桁で関税譲許を行うことによりタリフラインの絶対数に不公平が生じる場合は、関税割当の拡大を条件に[6][8]%まで重要品目に指定可能

【重要品目の取り扱い(関税割当の拡大程度)】
重要品目の関税削減率が、一般品目の関税削減率より、(1)2/3の場合、国内消費量の[4][6]%の関割拡大、(2)1/3の場合、同[3][5]%拡大、(3)1/2の場合、同[3.5][5.5」の拡大。
関税割当による輸入数量がすでに国内消費量の10%以上で、かつ一般品目の関税削減率からのかい離が1/3の場合、関税割当拡大は国内消費量の[2.5][3.5]%以下、かい離が1/2の場合、同[3][4]%以下。 すでに国内消費量の30%以上のとき、拡大は[2][3]%以下、または[2.5][3.5]%以下。
重要品目の数を2%増やし[6][8]%とした場合、追加した2%相当数の品目については、さらに国内消費量の[0.5][1]%拡大。
重要品目の指定単位を(1)タリフライン単位とするか、(2)消費量データのあるセクター単位とするかは両論併記。

【上限関税】
「上限関税」という項目はなし。
関税削減後も100%を超える高関税品目が〔有税〕タリフライン数の4%以上残る国に対しては、すべての重要品目に対して、平均〔 〕%の追加的な関割拡大幅の増加を要求。

【特別セーフガード(SSG)】
先進国向けSSGは実施期間の開始とともに廃止。または○数を削減したうえで維持。あるいは○段階的に廃止。
【その他】
熱帯産品に該当する品目については階層方式の関税削減率を上回る自由化を行う。

(2008.2.15)

 

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