生産者と消費者が協力して田んぼのなかの虫や植物を調べ、環境保全型農業など今後の農業のあり方を探ろうという「田んぼの生き物調査」についての第1回シンポジウムが3月12、13日、東京・大手町のJAビルで開かれた。調査に参加した生産者グループやJA、生協のほか、研究者、農業試験場関係者など約90人が集まり、16年度の各地の活動報告とともに、今後、営農に役立つデータ収集をするため、全国展開に向けたプロジェクト発足などを話し合った。 |
この調査のきっかけとなったのは、JA全農大消費地販売推進部と首都圏コープが平成13年に始めた「田んぼ交流生き物観察」。消費者に虫取りなどを行ってもらい自然と農業体験を通じて生産者との交流を図った。
こうした取り組みをもとに16年度は、調査データを環境保全型農業など営農に役立てることをめざして、年間を通じて田んぼの生き物の生息状況を調べる「たんぼの生き物調査」に改めたもの。
参加したのは、JAささかみ(新潟)、大潟村産地会議(秋田)、JAみどりの(宮城)、ちば緑耕舎(千葉)の4産地。生き物調査には「NPO法人めだかの学校」や首都圏コープ、生活クラブ生協など生協も参加して実施した。
4産地では、いずれも「冬期湛水水田(ふゆみず田んぼ)」と「不耕起栽培」に取り組んでおり、そうした農法による田んぼの環境変化とともに肥料・農薬をできるだけ使わない農法の可能性を探ることが同調査のテーマとなっている。 ■イトミミズが作る「トロトロ層」
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会場には水槽に入れた田んぼの
「トロトロ層」も。 |
冬の間にも田んぼに水を張る冬期湛水水田は、もともとはハクチョウやガン、コウノトリなど湿地を必要とする生物の生息地づくりとして始まった。ただし、300年前の会津藩の農書にも書かれており、土づくりに有効な方法であることが示されているという。
そのメカニズムについて、宮城県立田尻高校教諭で地元で「ふゆみず田んぼ」の取り組みを進めてきた岩淵成紀さんは「イトミミズが増え、それが土中の養分を食べて排出することで表層に柔らかい層ができるから」と話す。田んぼに足を踏みいれたときにふわふわの感触がする「トロトロ層」と呼ばれる土だ。これが良質の米づくりにつながる。
東北農学部の伊藤豊彰助教授は、通常の乾田不耕起栽培では土が硬いため苗の活着が問題となるが「トロトロ層の発達で田植えのしやすい条件になっている」という。 ■抑草効果と省力化に産地も注目
トロトロ層にはイトミミズだけではなく多くの生物が生息している。渡り鳥の生息地になればその糞も肥料分となる。
また、サヤミドロやラン草など藻や浮き草が繁ることによって、日光がささないため雑草が成長しにくい抑草効果もある。
この調査ではこうした土づくりなどに働いている生き物のほか、カエル、クモなどの稲の害虫駆除をしてくれる生物がどれだけ増えているかも調べている。
シンポジウムで生産者からは「自分の田んぼにどんな生き物がいるか考えたこともなかった」、「ただ生産の拡大だけでいいのか、と地域環境も含めてトータルに農業を考えなければと思っている」などの感想があったほか、不耕起栽培や抑草効果に着目して「うまくいけばトラクターもいらない。未知の農法だと地域の若者を引きつけている」、「雑草対策が大変で有機JAS認定取得を途中で断念する生産者がいるが、冬期湛水なら可能性がある」(JAみどりの)といった期待の声も聞かれた。
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第1回田んぼの生き物調査シンポジウム(東京・大手町、JAビル。3月12日) |
■環境支払い政策の提言も視野
単収が慣行栽培にくらべてやや少ないことや、冬期に田んぼに水を引ける場所が限定されていること、長期間継続するとかえって生物多様性が失われるなどの課題もある。
ただ、この調査が注目されるのは、「田んぼに貴重な生物がいることを評価するだけではなく、それが営農にどのように役に立っているのかデータ分析を目指している点」(岩淵さん)だ。
多くのデータを集めるためJA全農大消費地販売推進部では、「全農安心システム」に取り組んでいる産地や生協との産直産地などに調査を広げていくことが課題だとしている。
新基本計画には、環境支払いを視野に入れた直接支払い制度の導入が盛り込まれた。「環境支払いの内容を明確にして国民に理解してもらう必要がある。田んぼの生き物調査はその先取り」(全農大消費地販売推進部・原耕造次長)だとして、生産者と消費者の連携で収集したデータを政策提言に利用することも検討する。
なお、全農グループや生協グループ、NPOにより田んぼの生き物調査プロジェクトを設置。冬期(早期)湛水・不耕起栽培の試験と生き物調査の全国展開を図る方針にしている。
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