新たなエネルギー源や素材原料として、バイオマス(生物資源)の利用市場が成長を期待される中で、JA全農は、稲を原料にしたバイオエタノールの製造・利用事業が可能かどうかの調査を始めた。新潟県を調査区域として、JAにいがた南蒲の管内に製造工場を建設、原料稲を近隣から搬入することを想定し、来年2月まで実施する。水稲を原料にしたバイオエタノールの実用化検証は世界でも初めてだ。
サトウキビを原料にしたバイオエタノール産業は、ブラジルで先行しており、日本でも民間企業の取り組みに次いで、政府も近く沖縄県下で実証事業を始めるが、ほかの原料作物にはトウモロコシなどがある。
各国とも需要拡大策としての側面もあって主要作物を原料にバイオエタノールを製造し、これをガソリンに混合して自動車燃料に利用する国が増えている。
日本では、コメの過剰基調から、転作が進む中で、ほ場条件などによる不作付け水田が全国的に発生しており、全農はエタノール原料として水稲に着目した。
調査は(1)原料稲を生産するに当たっての地域の合意(2)製造工場の成立要件(3)エタノール混合ガソリンの利用状況の3点で実施し、ガソリンに匹敵する混合エタノールの品質と価格の可能性を分析する。
この調査は経産省の補助事業。同省が農業団体案件を採択するのは珍しい。関東経済産業局長による「バイオマス等未活用エネルギー事業調査事業」という。
事業化計画によると、製造プロセスは、超多収量の品種を生もみでJAのプラントに収集、保管し、玄米を糖化し、発酵させ、脱水してエタノールをつくる。
もみ殻は、熱化学的にガス化し、これを燃料に発電して、エタノール製造に使用。効率的なエネルギー循環をはかる。発電量は1時間約570万キロワットを予定。
また工場設置予定場所はJA新潟南蒲の管内(三条、見附、加茂3市と長岡市の旧中之島町、田上町)。
製品は地場消費するが、ガソリン97%、エタノール3%の混合ガソリン(E3)の新潟県内での利用量は25万キロリットルを目安とした。
要件となる原料稲の供給可能性は同JA管内で調査し、県域全体での供給量を推定する。
なお、全農の17年度事業計画は「環境保全型農業の普及」を掲げ「行政などと連携したバイオマスの利活用」を目ざしている。
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JAにいがた南蒲管内の水田風景=カントリーエレベーターは、この写真のほかにも4基ある。 |
◆エネルギー供給源へ 農村に新たな展望も
石油など化石燃料の二酸化炭素排出で地球温暖化が進み、異常気象が目立つ中で、バイオマス燃料の普及が期待される。とくに全農の計画は、水稲に焦点を合わせただけに水田活性化の上でも大いに注目される。
「京都議定書」は、バイオマスエタノールを「カーボンニュートラル」の燃料と位置づけ、自動車が排出する二酸化炭素の削減効果を期待している。
政府は、2010年度に輸送用燃料として導入されるE3などのバイオマス燃料は原油換算で50万キロリットルと見込む。これは国内ガソリン消費量の1%だ。
バイオマスエタノールは議定書が日本に義務づけた温室効果ガス「6%」削減達成を助けることになる。
バイオマスの供給源は▽家畜排せつ物▽食品廃棄物▽稲わらなど、そのほとんどが農村だ。大豆、ナタネなども脚光を浴び、欧米では農産物の生産過剰対策としてエネルギー作物の栽培が定着している。遅れている日本で、全農による取り組みの意味は大きい。
農村を食料生産の場としてだけでなく、エネルギー供給源として、とらえれば新たな展開も期待できる。
アサヒビールと九州沖縄農業研究センター(生研機構)は昨春からサトウキビを原料としたバイオマスエタノール製造プロセスの開発試験を始めたが、これを前に、高収量で高機能のサトウキビ「モンスターケーン」を開発した。政府が今年8月から開始した沖縄県伊江村での実証事業も、同じ品種を使う。
全農の場合も、コメの品種が課題で、超多収量の品種を候補とした。さらに大きな課題は価格水準だ。1リットル40円のブラジル製バイオマスエタノールにどこまで迫れるか、調査結果が注目される。
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