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地域での担い手育成が急務 −経営所得安定対策大綱決定 (10/27)

 農業生産者に経営規模などの要件を設定して「担い手」として位置づけ、施策を集中する新たな経営所得安定対策大綱を10月27日、政府・与党が決定した。
 経営所得安定対策の柱は、農業経営に着目した「品目横断的経営安定対策」。これは、輸入農産物の販売価格差が顕在化している麦、大豆などの対象品目の生産に対して生産コスト是正のために面積当たりで支援する直接支払い制度(生産条件格差是正策)と市場価格変動の経営への影響を緩和する対策の組み合わせて作りあげることが新基本計画で決定していた。
 その具体化に向けて最大の焦点となっていたのが、施策の対象となる担い手の基準。JAグループは経営規模など全国一律の基準で決めたのでは、多くの生産者が対象からはずれ、米の生産調整への影響など地域農業に混乱をもたらすことから、地域自らが農地利用の集積や生産計画なども含めて将来像を描くなかで特定した担い手を対象とすべきだと政策提言してきた。地域実態は多様であることをふまえて、地域ごとに描く多様な将来像を支援していくべきとの主張だ。
 大綱では、担い手とする経営規模を16年度から導入された稲作での担い手経営安定対策の要件(認定農業者/都府県4ha、北海道10ha、集落営農20ha)が基本原則としつつも、中山間地地域や受託組織の現状、さらに面積ではなく野菜などの複合経営にも着目し経営規模に特例措置を設けた。また、都道府県知事の判断でさらに担い手すべきと考えられる生産者を支援対象として要請できる制度も導入する。(表参照
 集落営農では、経営規模だけはなく、組織としての販売収入管理などの体制づくりと地域農地の集積目標、法人化計画の作成などの条件を設けた。課題のひとつになっていた受託組織も担い手に位置づけられたが、生産した農産物の販売名義を持つことや集積面積目標なども示した。
 大綱の基本は担い手への農地利用集積であり、自民党の松岡利勝農業基本政策小委委員長は「19年度に5割が担い手に集積することが目標」と語っている。その担い手に地域の多くの生産者がなれるような仕組みづくりが問われることにもなった。
 JA全中の宮田勇会長は大綱決定にあたって「地域の実態への配慮がなされているとはいえ、その成否はひとえに今後の現場の努力いかんであり、生産者・関係者が一丸となって地域の担い手づくりに全力をあげて取り組むことが不可欠である」と表明した。
 一方、経営所得安定対策とセットで導入すべきとされてきた農業資源・環境保全策は担い手以外もその対象となることから具体策の早急な提示が期待されていたが、今回は農業用水の保全などへの支援を基礎としてより環境、農業資源の向上に配慮した活動を上乗せ支援していくという大枠は示された。今後の具体策の詰めが課題だが担い手づくりと同時に地域農業資源を守る具体的な活動への取り組みを強めることも重要になる。
 米政策改革では、担い手経営安定対策と担い手の稲作所得基盤確保対策については品目横断的対策に移行させ、担い手以外を対象にした米価下落対策の導入が決定した。19年度から農業者、農業団体による需給調整システムに移行することが国の方針だが18年度の推進状況を検証するなかで稲作に関する具体策も検討されていくことになる。
 また、WTO農業交渉の行方次第では生産条件格差是正対策の対象も品目も広げなければならない可能性もあり、WTO交渉に全力を上げることも生産者の将来展望を拓く重要な課題となっている。

『経営所得安定対策等大綱』の概要

●品目横断的経営安定対策

《生産条件格差是正対策》
・市場で顕在化している諸外国との生産条件の格差を、販売価格では賄えない生産コスト部分を直接支払いで支援。

【加入対象者】
(1)認定農業者
(2)特定農業団体、一定の条件を備える集落営農組織

【集落営農が備えるべき条件】
(1)規約の作成
(2)経理の一元化(集落(代表者)名義の口座開設、集落名義の農産物販売、販売収入の口座への入金)
(3)地域農地の3分の1以上の集積目標設定(生産調整面積の過半を受託する組織は当面、2分の1)
(4)生産法人化計画の作成
(5)中心農業者(候補者)の農業所得目標設定

【経営規模要件】
・基本原則=認定農業者/都府県4ha、北海道10ha、集落営農/20ha
・物理的制約で模拡大できない地域=基本原則の概ね8割(集落営農では16ha)、中山間地域では5割。
・地域の生産調整面積の過半を受託する組織=20ha×生産調整率(7haを下限)の範囲内。中山間地域は20ha×生産調整率×5/8
・複合経営で相当水準の所得を確保している場合=基本構想の過半の農業所得を確保し、かつ、対象品目の収入、所得または経営規模が概ね3分の1以上。
(上記の特例でも難しい場合は知事が合理的な理由を付して国に要請できる)

【算入できる面積】
・権原のある「田」と「畑」の合計(経理一元化面積に限定)
・作業受託分は、基幹作業を受託し販売名義を持ち、販売収入の処分権を持っている場合は算入できる。

【対象品目】
・麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ

【交付額の算定方法】
・交付額は対象品目ごとに面積当たり単価と過去の生産実績(支払い基準面積)を掛け合わせた合計。
・規模拡大などの変動があった場合は支払い基準面積を修正

(生産量、品質支払い)
・対象品目ごとに数量当たり単価(全国一律)と毎年の生産量を掛け合わせた合計が交付額。
・数量当たり単価は品質格差を設定。

《収入変動緩和対策》
・販売収入変動の影響を緩和するため品目ごとの当該年の収入と基準期間の平均収入の差額を合計・相殺し減収額の9割を積み立て金範囲で補てん。

【加入対象者】
・生産条件格差是正対策と同じ

【対象品目】
・米、麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ

【農家負担】
・農家1:国3


●米政策改革推進対策

・担い手経営安定対策と稲作所得基盤確保対策(担い手加入部分)は品目横断的経営安定対策(収入変動緩和対策)に移行。
・担い手以外を対象にした米価下落対策を新・産地づくり交付金のなかで措置。
・米価下落対策は(1)生産者拠出を廃止し、面積あたりの定額補てん。(2)担い手への集積に取り組む場合の加算を設定などが骨子。


●農地・水・環境保全向上対策

・(1)農地、農業用水などの保全向上に関する地域ぐるみの効果の高い共同活動
 (2)農業者ぐるみで環境保全に向けた先進的な営農活動
 (3)活動の質をステップアップさせる取り組み、を協定に位置づけた活動を支援。
・具体的な活動を列挙した「活動指針」を国が策定。取り組みが必須の「基礎部分」と基準以上の活動の「誘導部分」を設定。
・活動組織内の農地面積に応じて交付。
・相当程度のまとまりをもって化学肥料、化学合成農薬の使用を大幅に低減する先進的営農には上乗せ支援。

(2005.10.31)


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