去る1月11〜12日、都内で恒例の日生協政策討論集会が開かれた。第1日は小倉修悟会長の挨拶のあと、例年の新年度方針案は提示されなかった。代わって、山下俊史副会長による「なぜ今ビジョンか」、山内明子国際部長「ヨーロッパ生協の構造改革」、伊藤潤子理事「組合員ビジョンワーキングチーム報告」、伊藤敏雄専務理事「新ビジョン1次案提案」、以上4報告・提案があった。いわば「新ビジョン案」一色である。2日目は7の分散会で本部提案に対する討論及び全国各地の情勢報告だった。
報告によれば、生協全体の今年3月末決算は、前年比すれすれの事業高伸び、前年比ダウンの剰余が想定された。相当厳しい決算がでそうである。
さて今回提案された「日生協新ビジョン(案)」の5構成を要約しておこう。
1、事業「ふだんのくらしにもっとも役立つ事業」:食を中心に500店のSMチェーン(450坪)づくり、将来は1000店に
2、 経営「コスト構造改革を徹底する経営」:低収益・高コストの構造改革で2%の経常剰余の安定確保
3、連帯「くらしへの最大貢献をめざす事業連帯構造の確立」:「リージョナル事業連合の統合の質」を高める
4、組織「社会に開かれた組織」:組合員の自主的・自発的な参加でネットワーク型組織運営
5、社会的役割「消費者組織としての社会的役割の発揮」:地域コミュニテイの担い手になり、行政とのパートナーシップ、生協組織のブランド化を進める
以上だが、JA関係者には、たとえば「連帯」とは耳慣れない言葉であろう。つまり日本生協連本部と約600個別生協との事業協同のありかたのことだ。JA経済事業でいえば、この10年間の経済事業改革、つまり全農全国本部と県本部、それに市町村広域JAの事業改革といえば、判りやすかろう。つまり文章化が難しく、一筋縄では行かないテーマなのである。
◆「新ビジョン」は協同組合に希望もたらすか
本文は用語解説を含めて、A4で44頁。決して短い方針案とはいえないかもしれない。
では、2年がかりで海外調査、論議・起草してきた背景、狙いはなにか。本部提案説明を踏まえれば、以下のことだろう。
(1)2010年を想定して、国際流通資本の日本上陸、全国各地での店舗競合が激しく、この経営危機認識を徹底すること
(2)過ぎた10年間、必死の経営構造改革を進めてきたが、なお未完成で不徹底であること
(3)現在までの地域事業連合の到達点を見据え、3000億円前後の地域(リージョナル)事業連合を全国10ブロック程度、形成すること、
さてこれをどう評価すればよいか。最大の焦点、事業連合のあり方に絞って、3点問題提起したい。第1は、そもそもユーコープ(かながわ、しずおかなど)、生活クラブ(岩手から愛知まで)、首都圏コープが自主的に進めてきたのが地域事業連合だった。1990年が事業連合元年といわれる所以である。日本生協連の指導力が発揮されるか。
第2は、ダイエーに端的な食品中心の生き残り再編で、スーパーのSCM(サプライ・チェーン・マネイジメント=最適経営)は一層強化される。生協店舗事業は、運営技術を一層高度化しても、生鮮品を除いても、全国一律仕入集約など可能だろうか。
第3に、スーパーには、副店長制度など、難局しのぎの目潰しがある。組合員参加が切り札の生協に店舗で、相当思い切った改革の具体化が必要であるが、可能だろうか。
◆JAの経済事業への影響と共感
分散会では、これがビジョンかという痛切な批判もあった。また社会的役割として当然の如く、日本農業の10年後に触れた記述も欠かせまい。6月総会までの全国各地の討議に待ちたい。
今野 聰 (財)協同組合経営研究所元研究員
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