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『野菜ソムリエ』活況見せる養成講座 消費拡大への期待も


 子どもや若者の野菜離れで日本人の野菜消費量は米国人よりも少ない。そして輸入増大、価格暴落による産地廃棄。そうした中で野菜の食べ方を提案する「ソムリエ」が消費拡大や食育の戦力として浮上。その養成が民間から行政、JAグループへと広がっている。ソムリエはワインなどの酒のプロをいう。その職名に野菜を冠した民間資格が野菜ソムリエ。日本では昔から八百屋が「奥さん、これは魚のアラと一緒に似るとうまいよ」などと客に食べ方を教えてきた。対面販売の減った今、そうした伝統を野菜ソムリエが引き継ごうとしている。

◆民間資格取得者増える

 野菜ソムリエ養成事業の先発は日本ベジタブル&フルーツマイスター協会。福井栄治理事長は、日商岩井の商社マン時代にスーパーを回り、青果の調理法や保存法などに詳しい売場担当者が少ないことを痛感。
 食文化向上に向けた専門家の育成が必要だと、平成13年8月に協会を設立し、養成講座を開設した。
 当初は農業者や食の業界のプロを対象にしたが、いざフタを開けるとOLや主婦が受講者の7割を占め、また男性は2割弱だった。講座は1回2時間で、7回受講後に筆記試験をパスすると、野菜ソムリエの初級、正式名称でジュニアマイスターの資格が取れる。
 さらに勉強を重ねると、中級のマイスターから、上級のシニアマイスターに進むコースがある。講座の開設地は東京、大阪をはじめ全国14都市にのぼる。
 すでに受講者は合計5200人余り(6月末)、ジュニアマイスターの資格取得者は4200人になった。

◆農業者優遇の制度も

 しかし農業者の受講が少ないため、受講費と受験費計12万円を無料にする農家向け奨学制度(募集定員3人)を昨年つくった。
 さらに今年度は、当初の目的に立ち返って農業者など「所得の半分以上を食に関する業務から得ている」人なら、受講しなくても受験できる「ジュニアベジタブル&フルーツマイスター検定試験」を実施。合格者がジュニアマイスター資格を得られるようにした。受験申し込みは9月末まで。
 一方、福井理事長は、別会社で「野菜ソムリエの店Ef(エフ)」7店を都内などに出店。ジュニア資格者を配置している。厳選した農家から直接仕入れる都市型ファーマーズマーケットで年内には計30店の店舗展開を計画している。

◆岩手では行政が助成

 産地では行政もソムリエ育成に乗り出した。岩手県盛岡地方振興局農政部は、農業者やJA職員に協会の資格を取得させるため、受講費用のうち7万5000円を助成する。園芸産地の営業力を高めるねらいだ。
 盛岡地方(11市町村)は県内随一の野菜産地で16年度の生産額は67億円。だが市場出荷がほとんどで消費者ニーズが伝わりにくい。 そこでJA職員らが大消費地の量販店に直接出向くなどして、消費者の声を産地に返すとともに、盛岡野菜の特徴や魅力をPR、食べ方などを提案できる人材を育成することにした。
 主な品目はホウレンソウ、キャベツ、キュウリ、トマト、ネギなど。エコファーマーによる生産も多い。耕畜連携による土づくりも進んでいる。県では、そうした現場の取り組みを消費者にアピールし、また地元消費者の産地見学を組織するなどの役割もソムリエに期待している(同農政部)。
 当面の助成対象者は10人程度とし、9月に仙台市内で開く協会の集中講座を受けることになっている。

◆JA向けは通信講座

 一方、JAグループでは(社)地域社会計画センターが6月から通信教育で、野菜ソムリエ養成講座を始めた。「JAファーマーズマーケット(FM)戦略研究会」メンバー店の従業員やパートを対象に、売場でお客への提案ができるプロを養成する目的だ。
 JAのFMは急成長している。しかし生産者への提案は盛んだが、消費者への提案はほとんど手つかずの状態ではないかという実態を踏まえて開設した。
 お客の質問には、野菜や果物の、▽栽培方法の特徴▽旬や鮮度の見分け方▽栄養成分と、その働き▽調理方法▽保存方法などがあるとし、講座内容は、これらに対応した。さらに「お客とのコミュニケーション」も重視。イベント企画やクレーム対応なども、きめ細かくテキストに盛り込んだ。
 第1期生として今14人が受講中だ。期間は4ヵ月。10月上旬に資格認定試験を受け、合格者は「JAファーマーズマーケット野菜ソムリエ」に認定される。こうした人材開発でFMの魅力がさらに高まることが期待されている。
 FM戦略研究会は、JA直営のFM店からなり、一昨年発足した。メンバー店舗は15店。各店の販売額は3億円以上に上っている。
日本ベジタブル&フルーツマイスター協会=東京都渋谷区神泉9ー5。電話03(5489)8636。

野菜ソムリエの店長がお客の相談に乗るEf武蔵小山店。
野菜ソムリエの店長がお客の相談に乗るEf武蔵小山店。

◆常連客をつかむ ソムリエのいる店

 野菜ソムリエがいる「Ef」店は6店までが都内の商店街に立地する。どことも、しゃれた店構えで、ソムリエは赤いスカーフを首に巻く。とはいえ、こじんまりした専門店。ソムリエ兼店長という店が多い。
 品川区にある武蔵小山店の場合も脇坂真吏店長がジュニアマイスターの資格を持つソムリエだ。バイトの店員と計二人で、お客の呼び込みもしている。
 お客の質問の定番は、まず「味」だと脇坂さんはいう。というのは例えばトマトにしても大小の品ぞろえが多いので、どれが、どんな味かお客は品定めの助言に頼ってくるそうだ。
 次に多いのは、やはり料理法。ゴーヤを手に「チャンプル以外に、もっとおいしい食べ方がないの?」といった問いかけだ。
 こうした日頃のコミュニケーションの成果で常連客が増えているともいう。
 「Ef」店を展開中のエフ・アグリシステムズ(株)では向こう3年間で計100店に増やす計画だ。

(2005.8.2)


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