日本有機農業学会(会長:中島紀一茨城大学教授)はわが国で総合的な有機農業を推進するための基本法とする「有機農業推進法試案」をこのほどとりまとめ、8月19日、岩永農林水産大臣や有機農業推進議員連盟などに提言した。
同学会によるとわが国の有機農業実施面積率は0.5%程度。これは有機JAS制度など有機農産物の表示制度はあるものの、有機農業そのものを推進する法制度や政策がないことが原因と同学会では指摘。一方、EUでは1990年代初頭は現在の日本と同じ実施率だったが、有機農業も対象とした環境直接支払い制度の導入など92年のCAP(共通農業政策)改革などによって最近では4%近くまで実施面積が増えている。
こうした実施率の差は「日本とEUで有機農業への支援政策があるかないかの違い」(同学会)だとしてわが国の有機農業推進のための基本的な法制度の提言に向けて検討してきたもの。
試案は3章25条から構成されているが、特徴は生産だけでなく流通、消費も含めて包括的に有機農業を推進するための基本法に準じる性格の法律と位置づけたこと。農業生産のみならず環境や教育なども含む総合的な施策推進を法律で裏付けることが狙い。
有機農業の定義は、化学的に合成された肥料や農薬を使用しないことや、遺伝子組み換え技術を利用しないこととしているが、外国や遠方からの有機資材に安易に依存しないよう、推進すべき基本理念として「(有機農業を実施する)ほ場およびそれに近接する地域における自然循環機能と生物多様性を一層推進させる」有機農業であることを強調している。
また、そうした自然循環機能など維持が実際にどれだけ実現しているか、生物多様性の調査などを行いその程度によって直接支払いの水準を決めていく政策に仕組みを打ち出している。さらに有機農業の推進が農業者と消費者の交流などを活発にし人間関係を発展させ「地域の賑わい」を取り戻すことをめざすことも同法案の基本理念としている。
同学会では、同法案は単に有機農業を広めるためではなく持続可能で暮らしやすい社会を実現しようとするものであり、粗放化、低集約化、低投入といった発想のEU型の有機農業の理念とは異なるとしている。
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