農業協同組合新聞 JACOM
   
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消費者の理解を求め情報発信で透明性を
「環境支払い」でシンポ (9/5)


 「農業生産のあり方を環境保全に貢献する営みに転換していく」という新基本計画を受け、農水省は来年度予算の概算要求で農業環境政策の展開に向けた予算枠を飛躍的に増額した。一方、各県も環境保全型農業を支援する政策フレームを模索中だ。そうした中で、16都道府県は「環境直接支払い」に焦点を合わせた研究会を立ち上げ、8月29日には、都内で「環境直接支払いなどの農業環境施策の必要性と有効性」をテーマにシンポジウムを開いた。研究会は今後、こうした議論を積み上げて、政府に提言するという。シンポの議論を要約してみた。
農業環境施策を議論したパネルディスカッション=東京大学の武田ホール
農業環境施策を議論したパネルディスカッション=東京大学の武田ホール

◆負荷低減目ざして

生源寺眞一教授

 「農業は環境にやさしいと思うのは大間違い」と農林漁業金融公庫の村田泰夫理事。農業生産は自然を改変し、環境の負担となる。「奨励金が単収増の意欲を高め、肥料・農薬の多投を招くという政策による環境汚染もある」とも批判。
 「欧州では農業が環境に負荷を与えるとの認識が日本より強く、畑作と水田作で環境観が違うようだ。とにかく農業のマイナス面を国民に伝えること、情報開示が大事」と東京大学大学院の生源寺眞一教授は基調講演の中で提起した。
 マイナス面を県民に知らせている滋賀県の國松善次知事は「16都道府県の研究会は負荷低減を目ざす本格活動の手始めにシンポを開いた。今後とも効果的な施策を考え、国政として展開させたい」と、シンポのねらいを語った。

◆まず規範をつくる
ケン・アシュ次長

 シンポには海外から2氏を招いた。OECD(経済協力開発機構)食料農業水産局のケン・アシュ次長は負荷低減をはかる農業環境政策には「環境支払いや税制などの経済的手法や法的規制、情報提供がある」と基調講演の中で解説。
 またドイツ・キール大学のラタシュ・ローマン教授はEUの手法について「法的規制の土台の上に農法規範を設け、これの順守が環境支払いの要件だが、対象農家の選び方には競争入札がある」などと講演した。
 農水省生産局環境保全型農業対策室の天野雅猛室長は、日本でも「3月に農業環境規範をつくった。国から各種の支援策を受ける場合に、規範の実践が求められるというクロスコンプライアンス(交差要件)も今年度から導入した。規範の実践を要件に、別の施策の補助金も受けられるというもので、すべての農家に取り組んでほしい」とした。さらに「先進的な取り組みに対する支援に向け、どの地域の負荷低減が急がれるかを調査し、農業者と消費者の意向を早くつかみたい」と報告した。

◆生きものを指標に

 欧米では、すでに環境直接支払いが実施され、支払いを受ける契約農地は、スエーデンの場合、全農地面積の30%、フランスは15%などとなっている。
 日本では滋賀県が平成16年度にいち早く「環境農業直接支払交付金」制度を導入し、政府にインパクトを与えた。國松知事は、琵琶湖を、きれいにしなければという動機を語った。
 農業者らと知事が協定を結び、化学合成農薬と化学肥料の使用量を慣行の5割以下に削減し、濁水の流出防止など環境への負荷を削減する技術で栽培した場合に支払いを受けられる制度だ。
 同県農政水産部の橋本俊和部長の報告によると、協定締結は7月1日現在で1159件、面積にして4282ヘクタールとなり、今後どんどん増える見込みだという。協定面積は水田が大半だ。
 10アール当たり交付単価は水田3ヘクタール以下分と露地野菜が5000円、施設野菜と果樹が3万円(品目特定)、その他となっている。財源は環境農業基金を設け、県民の寄付も受けている。
 一方、福岡県は直接支払いを実施する際の物差しとする生きもの調査をモデル地区で進めている。同県農政部の下村聡次長の報告によると、その時期の生物の種類別調査票を農家に配り「増えた」「減った」などをチェックする方式だ。
 対象は約90種、うち重点は17種。白サギや害虫のウンカなども含まれている。

◆食と農の距離縮める

 パネルディスカッションではパネリスト8人が多面的に議論。JA全農大消費地販売推進部の原耕造次長は「農業環境規範といっても、消費者にはピンとこない。全農は食と農の距離を縮めるために、消費者の親子づれと生産者が一緒に参加する生きもの調査を、全農安心システムの産地で実施している」と発言。
 「環境支払いの基準は難しいが、福岡のように指標となる生き物を示せば、消費者にもわかりやすいのではないか」とし、さらに、新たな経営所得安定対策との関係など支払い基準にかかわる課題も挙げた。
 このほか▽日本では個人よりも地域に支払うほうが効果的▽難しい説明は消費者に浸透しない。生物の多様性を指標にすればわかりやすい▽環境政策問題には多くのセクションが関わっているが、連携が足りない。研究者も団結すべきだーなどの議論があった。

◆生源寺教授の基調講演から◆

 規制や経済的動機づけと並んで、消費者の自覚的な選択によって環境保全型農業を促すアプローチも大切だ。生産者としては、健全な生産プロセスから生まれた農産物であることを表示するなどの工夫で消費者に伝達しなければならない。消費者の力で環境保全型農業に変えていくという川下から川上へ政策を引き上げていくことが大事だ。  

◆アッシュ氏の基調講演から◆

 EUでは共通農業政策をWTO協定の「緑」にするため、市場価格支持から、直接支払いに切り替えた。そして農業環境スキームと環境協定農家のモニタリングを強化している。しかし環境規範が適切に定義されていることはまれである。クロスコンプライアンスの有効性は限定的だ。農業政策と農業環境政策は同一の方向を目ざすべきだ。

◆ローマン氏の講演から◆
ラタシュ・ローマン教授

 EU諸国では、化学肥料を多く使う農家と協定するなど間違った選択をする場合もあり、また順守事項を守らないモラルハザードがイギリスで4分の1、ドイツで3分の1もある。しかし摘発は難しい。麦や牛乳以外は動機づけが弱いこともある。もっとコスト効率を高めなければいけない。また税金を使うのだから透明性も高める必要がある。

◆環境にこだわって −滋賀県の事例

 化学合成農薬と化学肥料の使用を慣行の半分以下に抑えるなどした作物を「環境こだわり農産物」として県が認証する制度があり、認証マークをつけることができる。その栽培面積は4年前に比べ10倍以上の4265ヘクタールとなった。
 こうした段階を経て昨年度から環境直接支払いを実施した。認証農産物を作っている農家が知事と協定を結べば、支払いを受けることができる。また協定を結ぶことで、環境こだわり農産物生産計画の認定を受けたものとみなされる。
 環境農業直接支払交付金の交付単価は、こだわり農産物を作ることによって減る収量と、付加価値がついて高くなる販売価格や、生産費差をみて算出する。
 交付金支払いは、個別農家だけでなく、広域的な水質保全と農村景観を改善する取り組みに対しても行われている。合わせて同制度の今年度事業予算は約2億円(当初)となっている。

(2005.9.5)



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