環境にやさしい燃料電池の本格的な実用化時代に備えてJA全農は、燃料電池運用のノウハウを蓄積するための実証試験に乗り出す。家庭用の自家発電に的を絞り、全農営農技術センター(神奈川県平塚市)の宿泊棟に燃料電池を置いて、9月から平成19年8月まで出光興産と共同で実施する。原油高の中で、各種の新エネルギーの需要を見込み、新たな事業展開の糸口とするねらいもある。
試験内容は、燃料電池の(1)性能や信頼性と耐久性の検証(2)運転と点検とメンテナンスのノウハウ蓄積(3)経済性の評価。
センターには全国のJAから受講者や研修生が来るため、燃料電池への認識を高めてもらう趣旨もある。 燃料電池は水素を、空気中の酸素と電気化学的に反応させて電気と熱をつくるシステムで、原理は水の電気分解の逆反応だ。
水素源には都市ガスなどがあるが、全農は利用世帯の多いLPガスから抽出する。出光との共同試験になったのは、同社がこの技術で進んでいるためだ。
電池の種類は、固体高分子形とした。これは小型化やコストダウンが可能で、家庭用として注目されているタイプ。
出力は4人家族にとって効率的な700ワット。発電時の排熱(60〜70度)で温水をつくり、給湯槽にためる。
これらのシステム装置を宿泊棟の一角につくって運転。電力と温水を管理人室に供給し、2年間試験を続ける。経済性が評価されれば、システムの商品化が見込まれる。
試験実施にあたり、9月13日15時から現地で起動式を挙げる。
◆大きな省エネ効果 普及には提案力が
燃料電池は有害物質の発生が少なく、温暖化防止に役立つクリーンエネルギーだ。すでに自動車用の試験販売が行われており、22年からの普及が見込まれる。家庭用の普及は20年からという予測だ。
電力会社から各家庭に送られてくる電力には約6割のロスが生じている。給湯器によるロスも1割ある。 ところが各家庭が燃料電池による自家発電をすればその場でエネルギーが消費されるため、ロスは電気と熱を合計しても2割強にとどまる。その効果は大型火力発電所からの送電と比べた場合、二酸化炭素の削減で2割から3割に及ぶ。
しかし家庭用燃料電池本体の大きさは、出力によって違うが、小型冷蔵庫ほどのイメージだ。貯湯槽も必要で、いくら環境にやさしいといっても、普及の要件は、まず経済性。
このためシステム提案力が重要となり、その家庭や業務のエネルギー需要を把握し、ニーズに合わせて効率的な提案していくべき商品とされる。
こうしたことから顧客と付き合いのある燃料事業者によって事業化されるのが最適といわれるが、業者には設置・施工技術とともに燃料供給やメンテナンス、集中監視などのアフターフォローも必要となる。
全農の試験は、こうした燃料電池普及の要件を検証し、新分野を開拓する。
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