農業協同組合新聞 JACOM
 
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シリーズ 卸売市場を考える(8)
韓国における卸売市場流通の特徴と問題点


王 成宇 韓国・天安外国語大学食品流通科教授
1 はじめに
王 成宇先生
1951年生まれ。1978年建国大学校畜産大学畜産学科卒。1982年同大学校大学院経済学科卒。1987年名古屋大学大学院農学博士学位取得。
現在、天安外国語大学食品流通科教授、農林部農業科学技術政策審議会審議委員、同部都売市場制度改善審議会審議委員、(社)韓国市場流通研究院院長。
 韓国では、1985年に最初の公営卸売市場である可楽洞農水産物総合卸売市場(以下、可楽洞卸売市場)がソウル市松坡区に開設され、その後、全国各地で公営卸売市場の開設が相継いだ。その結果、2003年現在、既設の公営卸売市場の数は30市場にのぼり、さらに2市場が建設中である。当然、卸売市場経由率は急速に上昇した。例えば青果物の場合、同経由率は1986年の29%から98年の48%へ、12年ほどの間に20ポイント近い上昇であった。
 こうした公営卸売市場の開設動向や卸売市場経由率の推移から推察できるように、韓国では卸売市場の重要性を認める人々が多く、卸売市場流通によって国内産地の発展を実現し、消費者への安定供給も促進しようという期待が強い。
 しかし、そうではあるものの、韓国の卸売市場流通に問題がないということではない。日本と同様、常にさまざまな問題が存在する。そうした問題を解決するために、卸売市場関連法がたびたび改正されているほどである。
 以下では、韓国において安定供給の促進等を期待されている公営卸売市場を中心とする卸売市場流通システムの特徴点を紹介するとともに、現在の多様な問題点をも指摘し、日本や韓国における今後の卸売市場流通のあり方の検討に資することにしたい。

2 青果物の40%は可楽洞が――卸売市場の種類と取扱高規模

◆青果・畜産・水産物を取り扱う総合卸売市場も

 韓国の卸売市場は、1976年に制定された「農産物流通及び価格安定に関する法律」(以下、農安法)によって、表1に示したように大きく2種類に分けることができる。

表1 農安法の規定からみた卸売市場の種類と概要

区  分

その他の法定卸売市場

設立根拠

農安法第17
(国、地方自治体が開設許可)

農安法第47

(地方自治体が開設許可)

開設者

管理公社(ソウル市、九里市)

地方自治体(広域市、一般市)

民間

施設投資主体

国、地方自治体(特別市、広域市、一般市)

民間

市場数

30市場(ほかに建設中が2市場)

うち青果物取扱市場 30市場

  水産物取扱市場 17市場

  畜産物取扱市場  3市場

うち85年〜89年開設 4市場

   90年〜94年開設 6市場

   95年〜99年開設 11市場

  2000年〜02年開設 9市場

22市場

うち青果物取扱市場 12市場

  水産物取扱市場 3市場

  畜産物取扱市場 8市場

  糧穀取扱市場  1市場

   薬用品取扱市場 1市場

    出所)韓国農林部資料

    注)「農安法」とは「農産物流通及び価格安定に関する法律」の略称である。


 そのうちの一つは公営卸売市場である。これは農安法第17条に依拠して地方自治体または管理公社が開設者となって設立する卸売市場で、現在の開設総数は30市場、建設中が2市場である。この30市場のうちの全市場で青果物を取り扱っているが、水産物を取り扱っているのは17市場、畜産物(食肉)を取り扱っているのは3市場である。ちなみに、日本には存在しない卸売市場、すなわち青果物、水産物、畜産物のいずれも取り扱う総合卸売市場は、30市場の中の2市場である。
 もうひとつは公営卸売市場以外の法定卸売市場、すなわちその他の法定卸売市場である。これは農安法第47条に依拠した民営の卸売市場であるが、公営卸売市場の開設の際の市場統合等によって、その開設数は80年代中期以降、大幅に減少し、現在は22市場にすぎない。このその他の法定卸売市場も青果物を取り扱うことが多く、現在、22市場のうちの12市場で青果物を取り扱っている。これに対し、水産物を取り扱っているのは3市場、畜産物を取り扱っているのは8市場である。
 これらの2種類の卸売市場を日本の卸売市場と比較すると、公営卸売市場は中央卸売市場に相当し、その他の法定卸売市場は地方卸売市場に相当するとみることができる。
 なお、韓国には農安法の規制を受けない零細規模の卸売市場(「類似卸売市場」と呼ばれている)も、現在、46市場ほど存在するが、これらを経由する食品流通は、卸売市場流通ではなく、卸売市場外流通とみなされている。

◆1市場平均19万トン・166億円を取扱い

 上記の2種類の卸売市場について、それぞれの2002年の合計取扱高をみると、公営卸売市場の場合は、青果物が564万トン、4兆9919億ウォン(4992億円)、水産物が25万トン、6502億ウォン(650億円)、畜産物が8万4400トン、4375億ウォン(438億円)であった。したがって、1市場当たり平均取扱高を算出すると、青果物は19万トン、1664億ウォン(166億円)、水産物は1万4500トン、382億ウォン(38億円)、畜産物は2万8100トン、1136億ウォン(114億円)であった。
 また、その他の法定卸売市場の場合は、青果物の合計取扱高が12万2000トン、1153億ウォン(115億円)、水産物が11万3500トン、3265億ウォン(327億円)、畜産物が14万3600トン、3408億ウォン(341億円)であった。それゆえ、1市場平均は青果物で1万トン、96億ウォン(10億円)、水産物で3万7800トン、1088億ウォン(109億円)、畜産物で1万8000トン、426億ウォン(43億円)であった。
 ちなみに、韓国で最大規模の卸売市場はソウル市の可楽洞卸売市場であるが、その2002年の取扱高は青果物で217万トン(国内卸売市場経由量の38%)、2兆500億ウォン(国内卸売市場経由額の40%)、水産物で13万トン(35%)、3900億ウォン(40%)、畜産物で8万トン(37%)、4400億ウォン(56%)であった。可楽洞卸売市場の取扱高がこれほどに大きいのは、人口1000万人を超える大都市ソウル市で唯一の公営卸売市場であることに加えて、青果物、水産物、畜産物を取り扱う総合卸売市場であるからと考えられる。

3 農協出荷でもセリは生産者単位で――物流面からみた特徴と問題点

◆共同選果ではなく共同輸送――農協の利用形態

 公営卸売市場やその他の法定卸売市場を通る流通チャネルを鳥瞰すると、卸売市場が大規模なほどチャネルの複雑さが増す傾向が強いが、最大規模の可楽洞卸売市場のチャネルは、おおよそ図1に示したとおりである。

可楽洞農水産物総合卸売市場経由の流通チャネルの概要


 この図から、まずは流通チャネルの最初の段階である卸売市場への出荷状況をみると、出荷者は生産者(個人、法人)のほか、生産者任意組合、農協、産地流通人(産地商人)などである。任意組合や農協は生産者から荷を集め、そのままトラックに積んで卸売市場法人(日本の卸売業者に相当する)に出荷することが多いが、一部は産地流通センターを設置し、選別や包装等を行った上で出荷している。また、産地流通人は生産者から収穫後の荷を買い集めるだけでなく、収穫前の青田買いも行うなどして荷をまとめ、それを各地の卸売市場法人に委託する方式で出荷している。
 これらそれぞれの出荷者が卸売市場に出荷する割合、すなわち出荷者形態別出荷高シェアを、可楽洞卸売市場の青果物総取扱額(卸売額)に占める割合として計算すると、2000年において生産者23%、生産者任意組合8%、農協59%、産地流通人7%、その他3%であった。意外と農協のシェアが高く、日本と同程度であるといえる。
 しかし、この農協出荷の大部分は日本のような共同選果に基づくものではなく、単なる共同輸送にすぎない。それゆえ、農協出荷の形態で卸売市場に入荷しても、セリにかけるときは生産者単位になり、トラック1台分の荷の販売に1時間以上もかかることもあるといわれている。
 今後、産地側にとっても共同選別の推進は有利販売の視点から重要な課題になると考えられるが、卸売市場にとっても販売の効率化をはかる上で重視しなければならなくなると思われる。
 なお、図1では省略したが、仲卸売人(日本の仲卸業者に相当する)が生産者等から仕入れる直荷引きのチャネルも存在する。その対象となる品目は上場例外品目といわれ、開設者が許可したものに限られるが、可楽洞卸売市場では青果物総取扱高の8〜11%、水産物総取扱高の7%程度にのぼっている。

◆市場内の物流を担う荷役人

 次に流通チャネルの川中段階を中心にみると、主に委託出荷のかたちで荷を受けた卸売市場法人(卸売業者)は、その荷を通常はセリによって仲卸売人(仲卸業者)や売買参加人(売買参加者)などに販売する。現在、可楽洞卸売市場では卸売市場法人は10社(青果物部門6社、水産物部門3社、畜産物部門1社)であるが、仲卸売人は2121名(同順で1673名、399名、49名)、売買参加人は148名(同順で131名、9名、8名)が活動している。
 ただし、実は卸売市場法人や仲卸売人等は卸売市場内での荷の物理的な移動を行うことがない。物理的な移動を行うのは荷役人と呼ばれる人々である(荷役人は卸売市場法人や仲卸売人には属さずに、独立した荷役人組合に属している)。
 荷役人は産地からの荷がトラックで到着すると、それをトラックから降ろし、卸売場に出荷者別、規格別に並べる。時には選別も行う。そして固定ゼリが始まると、セリ人の前でセリ参加者に中身が見えるように陳列し、売買が成立した後はリヤカーなどを利用して仲卸売人の店舗等まで搬送するのである。
 こうしたサービス活動によって荷役人は出荷側(生産者、農協等)と仕入側(仲卸売人等)の双方から同額の料金を徴収している。この料金は卸売価格の変化に応じて変わるのではなく、1箱当たりあるいは1個当たり(スイカ等)で固定しているが、卸売価格と比較すると、おおよそその3〜6%程度である。
 この荷役人は現在、可楽洞卸売市場内で2000名を超えるが、それぞれの荷役人は1卸売市場法人とだけ契約し、固定的な関係にある。そのため、韓国農林部(日本の農林水産省に相当する)は荷役人を卸売市場法人の職員にしようという計画を立てている。しかし、これは卸売市場法人の手数料率の変更ともかかわる大きな問題になりつつある。

◆仲卸業務を代行する仲商人

 荷役人の搬送によって荷が仲卸売人に渡った後については、当然、仲卸売人がその荷の小売業者などへの小分け・配送を担当しているが、実はその担当者は仲卸売人だけではない。仲商人といわれる業者も、小売業者等への分荷を担っているのである。
 この仲商人は開設者の許可を受けた業者ではなく、仲卸売人との個別の交渉に基づいて当該仲卸売人の業務を代行している業者である。したがって、仲商人は交渉相手の仲卸売人から仕入れ、卸売市場内で小売業者などに販売するだけでなく、時には仲卸売人に代わってセリに参加することもある。
 仲卸売人の中には、こうした仲商人を4〜5名ほどかかえ、名義料として彼らから1人当たり月50万ウォンを徴収している者もいる。この場合の仲卸売人は卸売市場法人からの仕入れや、小売業者への分荷を自ら行うことはなく、もっぱら産地からの直荷引きに専念しているといわれている。
 もちろん、このような仲卸売人と仲商人の関係は流通マージンの増大につながるものとして卸売市場関係者からの批判も多く、特に最近では仲商人が仲卸売人不要論を唱えているほどである。

◆可楽洞には1700余人の直販商人が

 流通チャネルの川下に当たる小売段階については、改めていうまでもなく、小売業者が主要な担い手である。ただし、韓国の場合、小売業者は卸売市場内と卸売市場外の両方に存在する。
 卸売市場内の小売業者とは直販商人のことであるが、可楽洞卸売市場の場合、4カ所の直売施設があり、そこで小売活動を行っている直販商人の総数は2003年8月現在で1714名にのぼる。そして、これらのうち青果物を販売しているのは1121名、水産物は420名、畜産物は173名である。
 この直販商人の多くは仲卸売人や仲商人から仕入れて販売しているが、中には産地から直接に荷を引いて販売している者もいる。直販商人の直荷引きは法律上は禁止されているが、特にネギやホウレンソウといった1品目または2品目を専門的に取り扱っている業者の中には直荷引きをしている者が多いとみられる。
 この直販商人については、卸売市場に消費者をも呼び込み、取扱高の増加に役立つ半面、産地からの直荷引きの際に、しばしば価格形成面での不正や代金決済の遅延と言った問題が発生しているともいわれている。

◆急伸する量販店のシェア

 もう一つの種類の小売業者である卸売市場外の小売業者とは、在来型小売店(小売市場の小売店を含む)、デパート、そして量販店(スーパー・マーケット、ディスカウント・ストア)である。韓国ではごく最近まで食料品の小売部門で在来型小売店が大きな割合を占めていたが、外資系小売店の急成長等によって、表2にみるように、ここ数年の間に量販店の売上高が急増し、シェアも急速に上昇した。

表2  韓国における小売業態別食品販売額の推移 

                                                         (単位:兆ウォン、%)

業 態

1998

2000

2003

(推計値)

2005

(推計値)

食品総販売額

30.9(100.0)

 36.2(100.0)

 49.8(100.0)

60.3(100.0)

    

在来型小売業

  2.6( 8.4)

  6.5( 21.0)

 21.8( 70.6)

  3.1( 8.6)

  9.5( 26.2)

 23.6( 65.2)

  4.1( 8.2)

 17.7( 35.6)

 28.0( 56.2)

  5.0( 8.3)

 24.2( 40.2)

 31.1( 51.5)

   出所)(社)韓国市場流通院資料

 韓国においても量販店は産地から直接に仕入れようとする意識が強いものの、現在のところ産地での共同選別などが遅れているため、荷をまとめることができず、産地からの直接仕入れは困難な状況にある。そのため、外資系小売店のような大型量販店の場合は、意外なほど卸売市場からの仕入れ割合が高い。ある外資系小売店の場合、青果物仕入れの85%は卸売市場からの仕入れとのことである。
 しかし、今後、量販店のシェアがさらに伸び、これに応じて産地での共同選別なども進むならば、市場外流通が再び優勢になる可能性も小さくない。事実、可楽洞卸売市場のある卸売市場法人の最高幹部は、卸売市場の品揃え能力の高さだけでなく、これに産地の選別能力の低さと言う状況が重なることによって、量販店の卸売市場仕入れ比率が高くなっていることを認めている。したがって、同幹部は量販店への対応能力をさらに高めるために、近い将来においてピッキング・ハウスを建設し、品揃え・荷揃え能力、保管・調整能力、包装加工能力等を一段と強化する計画を立てている。

4 IT活用、系列化、手数料――商流面からみた特徴と問題点

◆生産者が瞬時に価格を確認できる電子セリ取引

 卸売市場を中心にした商流に目を転じると、まず値決め方法の中心がセリである点が注目される。しかも、韓国のセリは日本の青果物売場でのセリと違って電子セリが一般的である。
 この電子セリは、セリ人の頭上に位置する電光掲示板に、販売対象となる上場品目の出荷者、規格、数量等を表示し、売買が成立するとその価格や買い手についても誰もが確認できるように表示するものである。しかも、電光掲示板とインターネットが接続しているため、出荷者は卸売市場法人や開設者のホーム・ページにアクセスするならば、自宅に居たまま、リアル・タイムで自分の出荷品の価格を知ることができ、価格が低すぎるときには電話で販売中止を依頼することもできる。可楽洞卸売市場の大手卸売市場法人は、毎日1500〜2000人分の価格情報を、ホーム・ページを通して発信しているとのことである。
 こうした電子セリ取引が採用されるようになったことによって、出荷者は価格形成の透明感が増したことを高く評価している(従来の手ゼリでは出荷者にとって価格が容易に分からないため、時には不正な取引が行われていたと思っている出荷者が少なくない)。また、インターネットを通して価格が即座に伝えられるようになったことも、出荷者に安心感を与え、卸売市場出荷志向を強めることにつながっており、電子セリは卸売市場経由率の上昇の一因と言える。
 しかし、当然のことながら、電子セリも良いことばかりではない。重視すべきと思われる問題点を一つだけあげると、それは時間がかかることである。先にも触れたように、韓国では共同選別の荷がほとんどないことから、もともと取引時間が長くなりがちなのであるが、電子セリがそれをさらに引き延ばしているのである。
 現在、トラック1台分の入荷があると、その荷主は10〜20名ほどで、各荷主当たり10回程度のセリが行われる。それゆえ、トラック1台当たり100〜200回ほどのセリが行われることになるが、これを電子セリで行うと、最短でも1時間以上が必要である。これに対し、従来の手ゼリであれば30〜45分程度ですむとのことである。
 いずれにしても、出荷者が信頼する電子セリ取引を今後も継続するためには、同取引の効率化を図る必要があると考えられる。

◆「系列取引」と代金決済方法

 次に、値決め方法そのものではなく、取引きにおける業者間の関係をみると、興味深い点は卸売市場法人と仲卸売人・売買参加人との間で強固な系列化ができていることである。すなわち、仲卸売人や売買参加人は同じ卸売市場内のどの卸売市場法人からも仕入れるのではなく、特定の卸売市場法人だけから仕入れるのである。
 特定の卸売市場法人とは、仲卸売人等が取引保証金を積み立てている卸売市場法人である。この取引保証金は仲卸売人などが仕入れ代金を決済できないときのための担保にほかならないが、可楽洞卸売市場では1仲卸売人当たり平均で約5000万ウォン(500万円)を、現金、定期預金、不動産で積み立てている。この金額は仲卸売人のほぼ3日分の平均取引額に相当している。
 このような系列化ができていることから、当然、代金決済方法もそれぞれの系列ごとに違いがある。例えば卸売市場法人から出荷者への支払いは当日または翌日にオンラインで振り込む方法もあれば、1週間ごとに一括支払いする方法もあるし、両者を併用する方法もある。ただし、いずれの方法とも、卸売市場外取引の決済期間に比べると、著しく短いと言える(卸売市場外取引の場合、決済期間は45日前後が多い)。
 また、仲卸売人から卸売市場法人への支払方法はさらに多様である。例えば可楽洞卸売市場のある卸売市場法人の場合、販売代金の30%を販売日の翌日に徴収し、残りの70%を暦の「10日」、「20日」、「30日」の3回に分けて徴収している。あるいは、日本の場合と同様、1週間等の特定の期間を区切って、その期間に全額を徴収する卸売市場法人も少なくない。
 もちろん、小売業者から仲卸売人への支払方法も多様である。ただし、これは仲卸売人ごとに異なるというよりも、同じ仲卸売人の場合でも販売先の小売業者ごとに異なっている。
 このように、取引の系列化は系列内の代金決済等における柔軟性を高める一面があるといえる。しかし、他面では、取引相手が固定してしまうことから、同業者間の競争関係を弱めていることも間違いないであろう。

◆委託手数料と各種奨励金

 最後に、卸売市場法人の委託手数料と出荷・販売奨励金等をみると、卸売市場間で異なっているが、公式の比率はすべて日本よりも低い。
 農安法によると卸売市場法人の委託手数料率は、青果物、水産物と言った取扱品目に関係なく、現在は卸売価格の7%以下と規定されている。が、実際に各卸売市場で公式に定める比率はこれをさらに下回っている。例えば可楽洞卸売市場の場合、青果物卸売市場法人の委託手数料率は4%、水産物卸売市場法人の同手数料率は3〜4%、畜産物卸売市場法人の同手数料率は1.5%である。
 しかし、実質的な委託手数料率は必ずしも日本より低いとはいえない。というのは、韓国ではこの卸手数料に加えて、先に触れた荷役人の手数料も支払わなければならないからである。両者の比率を合計すると、青果物でおおよそ7〜10%ほどになっている。ちなみに、現在、韓国農林部が考えているように荷役人を卸売市場法人の職員とするとなると、法定手数料率の上限である7%を変更しなければならなくなるであろう。
 公式の委託手数料率だけでなく、出荷奨励金や販売奨励金(日本の完納奨励金に相当する)も、全般に日本よりも低い。例えば可楽洞卸売市場の青果物部門での出荷奨励金は、各出荷者の出荷額(卸売額)の0.45%である。ただし、この出荷奨励金は出荷額が年間1000万ウォン以上であれば、出荷団体、個人出荷者にかかわらず、誰もが受けることができる。
 また、青果部門の販売奨励金は各仲卸売人等の仕入額の0.5%である。もちろん、代金支払いが滞りがちな仲卸売人などには支払われない。可楽洞卸売市場のある卸売市場法人の場合、野菜を仕入れている仲卸売人等の94%に販売奨励金を支払っているものの、果実を仕入れている仲卸売人などに対しては、その75%だけに支払っているにすぎないとのことであった。
 なお、卸売市場法人が支払う市場使用料は、青果物卸売市場法人が取扱額の0.35%、水産物卸売市場法人と畜産物卸売市場法人が0.5%である。そして、開設者はこの市場使用料と、仲卸売人や直販商人等の施設使用料、および入場する全ての車両から徴収する駐車料金等を、卸売市場の運営資金として利用している。

5 おわりに

 以上、韓国における卸売市場流通システムをその特徴点を中心に紹介し、若干の問題点についても指摘した。しかし、現在の韓国社会は急速に変化しつつある。例えば、卸売市場流通とのかかわりで言えば、食品小売部門における量販店の急速な伸長や、中国等からの輸入食品の急増、等である。したがって、今回ここで述べたことは、数年後に大きく変わってしまうかも知れないのである。それゆえ、今後の変化にも十分に注目していただきたい。 (2003.9.11)


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