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明けましておめでとうございます。
平成19年の輝かしい新春を迎え、皆様の御健勝をお祈りいたしますとともに、農林水産行政の責任者として、所感の一端を申し述べ、年頭の御挨拶とさせていただきます。
私は、昨年9月26日に、小泉内閣を引き継いだ安倍内閣において農林水産大臣を拝命いたしました。私にとって農林水産行政は、農林水産省の職員として携わったことにはじまり、衆議院議員になってからも、農林水産政務次官や初代の農林水産副大臣をつとめるなど、一貫して取り組んできた政策分野であり、格別の思いがあります。新年に当たり、任務の重大さを改めて認識し、懸命に職務にまい進しようと、決意を新たにしているところであります。
振り返れば、昨年は、日本海側を中心とした記録的な豪雪、梅雨前線による豪雨、台風や低気圧など多くの災害に見舞われた年でした。被災された関係者の皆様に、改めて心からお見舞い申し上げます。これらの災害では、農林水産関係においても各地で大きな影響がでており、被害を受けた農林漁業者の方々への支援に、引き続き万全を期してまいります。農林水産業は自然を相手にした営みであり、自然の力から大きな影響を受ける産業です。本年が、大きな自然災害が無く、豊かな自然の恩恵の下に実りの多い年となることを心から祈念しております。
農林水産業と農山漁村は、食料の安定供給はもちろんのこと、国土や自然環境の保全、良好な景観の形成といった多面的機能の発揮を通じ、国民のくらしにおいて重要な役割を担っていますが、従事者の減少・高齢化やグローバル化の進展などに伴い、大きな転換期を迎えています。
こうした折であればこそ、これまでの政策を徹底して点検・検証するとともに、固定観念にとらわれることのない新たな発想や創意工夫により、農林水産業を発展させていくという姿勢が重要であると考えております。私は、本年が我が国農林水産業の新生元年となるよう、自ら先頭に立ち、当面する以下の課題に全力で取り組んでまいります。
第一に、新たな経営安定対策の導入など食料・農業・農村基本計画に基づく施策の具体化を進めてまいります。
本年4月から、担い手を対象とした新たな経営安定対策の導入、米政策改革推進対策の見直し、農地・水・環境保全向上対策の導入という三本の柱からなる政策改革が一体的に実施に移されます。これら対策を円滑に実施するため、関係機関・団体とさらなる連携・協力を図り、制度の周知、担い手の育成・確保等に万全を期す所存です。
また、担い手に対して、さらなる施策の集中化・重点化を進めることが重要です。新たに認定農業者向け資金の無利子での貸付けや関係機関・団体による経営支援の窓口の一元化など、生産現場の実態等を踏まえた経営支援を総合的に推進します。生産や流通などの各段階を通じた食料供給コストの縮減の取組についても強力に推進し、特に、農協改革、とりわけ経済事業改革を進めます。
農業の体質強化のためには、優良農地の確保と担い手への面的なまとまりのある農地の利用集積、耕作放棄地の発生防止と利用率の向上等が喫緊の課題となっています。特に、新たな経営安定対策の実施に伴い、集落営農づくりが加速化される中で、農地の利用に関しても様々な課題が出てきています。こうした状況を踏まえ、農地に関するすべての制度・事業についての点検・検証を行い、農地政策の改革を進めていきます。
国民に対する食料供給に関しては、食料自給率の向上を目指し、引き続き消費、生産の両面にわたる取組を進めます。また、最近、中国をはじめとする途上国の経済成長などに伴い、海外からの食料調達の事情に変化が生じてきていること等を踏まえ、国際的な食料需給や貿易に関する実態をはじめとして幅広い観点から検証を進めます。
食品の安全確保については、国民の健康保護を最優先に考え、国民各層への情報提供や意見交換に努めながら、科学的原則に基づいたリスク管理を徹底します。また、消費者の選択にとって重要な役割を担う食品表示について、表示の実態や社会的ニーズ等を踏まえながらその適正化に努めます。さらに、「教育ファーム」など農林水産業に関する体験機会の提供や、「食事バランスガイド」の活用を通じた「日本型食生活」の普及啓発等政府一体となって食育を推進します。
農山漁村の活性化は、国全体としての重要課題です。個性的で特徴的な農山漁村空間に対する国民の期待が高まる中で、定住、二地域居住、都市・農村交流等の居住者・滞在者を増やすための取組を後押しする施策を総合的に展開します。また、野生鳥獣による被害が深刻な問題となっていることを踏まえ、関係省庁と連携しながら、対策の充実・推進を図ってまいります。
第二に、我が国農林水産業の持てる力を最大限に引き出すべく、創意工夫をこらし、「攻め」の姿勢で新たな課題に積極的に挑戦してまいります。
近年、農林水産業・農山漁村においては、固定観念にとらわれない、各種の意欲的な取組が現れてきています。我が国農林水産業を21世紀にふさわしい「戦略産業」として発展させていくため、農林水産業の経営構造改革、消費者等のニーズに対応した食料供給の実現を図ることに加え、こうした新たな動きを積極的に後押ししていくことにより、農林水産業・農山漁村の新境地の開拓につなげていきたいと考えています。
農林水産業や食品産業は「技術」に支えられた産業であり、我が国の高度な技術力を大きな発展に結び付けていくことが重要です。イノベーションの力を活用した機能性食品や新素材の開発、知的財産の保護・活用などにより、新たな需要を創造して新産業分野の開拓を推進してまいります。
海外の需要に目を向けた輸出の取り組みも重要課題です。世界的な日本食ブームや中国をはじめとするアジア諸国の経済発展に伴い、高品質な我が国の農林水産物や食品へのニーズが一段と高まっていくものと考えています。品目ごとの戦略的な輸出の促進により「おいしく、安全な日本産品」の輸出を平成25年までに一兆円規模にすることを目指します。
また、海外における日本食の信頼性を高め、日本食ファンを世界中に拡げるため、海外の日本食優良店についての基準の策定・普及を進めてまいります。
バイオマスの利用については、農林水産業において、従来の食料生産等の枠を超えた新たな領域を開拓するものであり、農林水産省が先頭に立ち、関係省庁と連携を図りながら、加速化を図ってまいります。具体的には、農地や森林資源などを最大限利用して、国産バイオ燃料を現在のガソリン消費量の一割程度まで生産拡大することを目指します。
このほか、東アジアを視野に入れた国内食品産業の活性化や定年後の団塊世代や若者等の農林水産業への就業支援を行うなどの再チャレンジ支援などにも積極的に取り組みます。
第三に、森林・林業政策についてであります。
森林は、二酸化炭素の吸収による地球温暖化防止のほか、国土の保全、水源のかん養、災害の防止など多様な役割を担う「緑の社会資本」です。このような森林の恩恵が将来にわたって享受されるよう、昨年9月に閣議決定された森林・林業基本計画に基づき、より長期的視点に立った森林づくりの推進、国産材の利用拡大を軸とした林業・木材産業の再生を推進します。
特に、地球温暖化防止対策の推進は、京都議定書をとりまとめた議長国である我が国にとって、国際的な責務です。吸収源としての森林の果たす役割は極めて重要であり、国際約束を2008年から果たしていくため、関係省とも連携を図りながら安定的な財源の確保に努めつつ、森林の整備・保全など森林吸収源対策を推進します。また、地球規模での環境保全等にとって重要な課題である違法伐採対策を積極的に推進します。
第四に、水産政策についてであります。
水産業・漁村は、国民の食生活に欠かせない水産物の安定供給のほか、環境・生態系の保全、居住や交流の場の提供等の多面的機能を有しています。このような水産業・漁村の有する機能が適切に発揮され、国民の期待に応える水産業・漁村を確立するため、本年3月、水産政策の基本指針である水産基本計画を見直すこととしています。
この見直しに当たっては、省エネ・収益性重視の漁業への転換をはじめとする漁船漁業の構造改革による国際競争力のある経営体の育成、産地の販売力の強化と流通構造の改革の推進、公海資源を含む水産資源の回復と管理の取組の強化、漁港・漁場・漁村の総合的な整備と水産業・漁村の多面的機能の発揮などについて、水産政策を再構築してまいります。
以上のような農林水産行政の展開に当たっては、我が国農林水産業が国際経済社会との結び付きを強めていることを踏まえ、WTO、EPA交渉などの国際交渉に積極的に取り組んでいくことが必要です。
WTO交渉については、我が国は、「多様な農業の共存」を基本理念とし、柔軟性があり、輸出国と輸入国のバランスの取れた貿易ルールの確立を目指し交渉に臨んできたところです。交渉は7月以降中断しておりますが、各グループ内や二国間での協議が行われている他、各交渉議長も事務レベルでの協議を始めております。我が国としては、関係各国との連携を緊密に図りながら、交渉の進展に向けて引き続き積極的に寄与しつつ、林野、水産分野も含めて我が国の主張ができる限り反映され、今次ラウンドが成功裡に終結するよう最大限の努力を傾注します。
EPA・FTA交渉については、WTOを中心とした多国間貿易体制を補完するものとして、政府一体となって、アセアン諸国をはじめとする各国・地域との交渉に積極的に取り組みます。
特に、農林水産物の大輸出国である豪州とのEPA交渉については、検疫など「攻めるべきもの」は「攻め」、「守るべきもの」はしっかり「守る」との方針の下、重要な農林水産物が「除外」又は「再協議」の対象となるよう、粘り強く交渉に当たってまいります。
以上、年頭に当たり、今後の政策展開を中心に私の所感の一端を申し述べました。
農林水産行政は、現場に密着した政策課題であると同時に、国民の毎日の生活に深くかかわっているものです。このため、生産現場の取り組みや消費者の声を積極的に政策に反映させながら、透明性の高い政策運営により、国民の信頼と支持が得られる政策を推進していく所存ですので、御支援と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
(2007.1.4) |