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農協時論

集落営農の確立こそが要 東京農工大学 学長 梶井 功


傾聴に値する「谷津発言」

 本紙のインタビューで、前農林総括政務次官・現自民党政務調査会会長代理の谷津義男氏にお会いしたとき、氏は最後につぎのように語っておられた。傾聴に値する発言と私には思えるので、引用させていただく (本紙7月30日号をもう一度見てほしい)。

梶井 功氏
 
(かじい・いそし) 大正15年新潟県生まれ。昭和25年東京大学農学部卒。39年鹿児島大学農学部助教授、42年同大学教授、46年東京農工大学教授、平成2年定年退官、7年東京農工大学学長。主な著書に『梶井功著作集』(筑波書房)『新農業基本法と日本農業』(家の光協会)など。

 「農業団体は政治活動も大事ですが、もっと大事なのは自分たちのなかからどう生産性を上げていくか、要するに営農ですね、それに力を入れなくてはならないと思うんですよ。今、農協のあり方を見ていますと、商社になっているんじゃないか。私はこれはとんでもない間違いを起こしていると思います。
 営農活動に力を入れれば、農協そのものの経営がおかしくなるという人がいるんです。しかし、本来の農協のあり方、営農指導に力を入れるという姿勢を堅持したうえで、なおかつ経営的におかしくなるというなら、そこは国がなんとかしてやろうじゃないか。やるべきではないかと私は思うんです。」

 この発言を聞いて、私は対談後の印象としてこう書いておいた。
 JAへの注文としての 『本来の農協のあり方、営農指導に力を入れるという姿勢を堅持したうえで、なおかつ経営的におかしくなるというなら、そこは国が何とかしてやろうじゃないか、やるべきではないかと私は思うんです』 という発言は重要である。
 21世紀へ向けてのJA組織のあり方を今度のJA全国大会は決めようとしているが、いま与党政務調査会会長代理の座にあり、前歴からいって、ことさらに農政に大きな影響をもつ人のこの発言には、JA組織本来のあり方を模索しているJA構成員に訴える多くのものがあると私は思う。組織討議のなかで、そして大会の場でも、おおいに論議をしてもらいたい論点である。

自給率45%達成のために

 JA組織も組織をあげてその成立を望み、かつ努力してきた食料・農業・農村基本法ができ、その施策を具体的に示す基本計画も発表された。平成22年度までに現在41%の食料自給率を45%にあげようということが、農政の当面の最大の課題になっている。50%以上を主張していたJA組織としては、面目にかけても達成しなければならない課題である。

 その課題達成の要になるのが、「水田を中心とした土地利用型農業活性化大綱」 が提起している麦、大豆、飼料作物の水田作物としての本作化実現であることは、大方の異論のないところであろう。自給率引上げのために、これら作物の生産増を重視することは、正しい。とくに水田を活用し、その機能をフルに発揮させることは、現時点での最重要課題だと私は考える。コメは余っているが、耕地は不足なのであり、生産装置としてもっともすぐれている貴重な水田を遊ばせることなく、自給率引上げに必要な重点作物にどれだけ活用できるかに自給率引上げの成否はかかっているといってもいいのである。

集団的対応でこそ可能に

 本年度から取り組まれている水田営農確立対策は、その水田への麦、大豆、飼料作物の本作としての定着を目指しているが、この対策では、経営確立助成にとも補償をプラスすれば、最高は平均的稲作所得を上廻る10a当たり7.3万円が用意されている。麦、大豆、飼料作物が水田の本作として稲とならんで定着するためには、これら作物が稲作に匹敵する所得を安定的に確保できることが必要になるが、10a当たり7.3万円の助成額は多くのところでその条件を充たすことだろう。

 しかし、その最高の助成額を確保するためには、”地域ぐるみ” での水田農業振興計画のもとでの4ha以上の団地化とか、1年2作あるいは2年3作とかの水田高度利用を行わなければならないことになっている。とも補償も前提とされている。いずれも個別経営のみでつくれる条件ではなく、地域としてのまとまった組織的対応を必要とする。飼料作物など、利用農家が点在していることを考えれば粗飼料流通の組織化が前提にならなければならない。麦、大豆、飼料作物いずれも、効率的生産のためにはそれぞれに適した高性能機械の導入を必要とするが、それも集団的対応でこそ可能になるというのが一般的であろう。

 ということは、自給率引上げという自らも掲げた課題を達成するためには、集落営農的な、あるいは集落営農とまではいかなくとも地域での組織的な対応を可能にするかどうかが成否のカギになることを意味する。地域での営農の組織化は生産過程に密着した課題であり、それはまさにJAの営農指導の力量が問われている領域である。あらためて指導事業のJA事業のなかにおける位置づけに思い至ることがあっていいであろう。最初に谷津議員の発言を引用させてもらった所以である。

農の力発揮する戦略に注目

 こういった趣旨からいって、”「農」と「共生」の世紀づくり” を第22回JA全国大会議案の冒頭に掲げたJA組織が、”21世紀を切り拓くJAグループの取組み方向” を示したその議案のなかで、農業について ”農の力を発揮する地域農業戦略づくり” をいっていることに、ことのほか注目したい。

 その地域農業戦略には ”自給率向上をめざす地域の生産販売計画や農地の有効利用、地域農業を支える担い手の明確化と育成目標、その育成・支援の具体策を盛り込む” のだという。そしてそれを ”市町村レベル、地区・集落レベルそれぞれに作成し、これを積上げることにより、JA全体の5ヶ年を見通した「地域農業戦略」” にするのだという。地区・集落計画としては ”地域農場システムづくりに基づく作付計画、担い手育成、農用地利用調整、施設・農機等整備の計画づくり” をし、市町村段階のJA地域農業戦略は、JAの ”生産・販売企画専任者” を ”配置” してつくる地域営農センターで、”水田農業振興計画を始めとする作物別の生産・販売計画、担い手育成、農用地利用調整等を盛り込んだ戦略” にするのだという。そしてJA全体としては広域営農センターで ”市町村単位の作物別生産・販売計画を積み上げ作成” し、”部門別に目標設定し、達成状況を評価” することになっている。

農業づくりの成否がかかる

 この段階別地域農業戦略づくりの要が、地区・集落計画になることは、いうまでもない。JAとしての生産・販売計画作製は、これまでもずいぶんやってきている。どこのJAでもそれなりの経験はあるだろう。が、今回の地域農業戦略づくり、とくに地区・集落段階のそれは、作目別部会の生産・販売目標を積み上げた感が強かったいままでの生産・販売計画とは趣を異にする。集落での担い手を確定し、そのあり方に従って農用地の利用調整をやろうというのである。”地域農場システム” の内容は必ずしも定かではないが、”担い手の育成・支援” のところで ”集落営農” について ”オペレーター等の機能の明確化、栽培技術の統一、経営の確立をすすめ、条件が整えば、担い手を核とした法人化をすすめます” といっているところからすると、集落等一定地域で営農の個別性は生かしながらも、あたかも一農場であるかのように生産計画をたて、作付地を集団化し、作業受委託を組織していこうというのであろう。現状にあった組織化をやろうということであり、賛成できる。が、それを町村内の地区・集落全部でやり、それを市町村段階に積み上げるというのは、容易なことではない。容易なことではないが、しかしそこに21世紀の我が国の農業づくりの成否がかかっていることを繰り返し強調しておかなければならない。その営農指導に力を入れることが ”経営的におかしくなるというなら、そこは国がなんとかしてやろうじゃないか” といってくれているときでもある。



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