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農協時論

21世紀日本農業の展開方向とJAの役割
 −農村取材のなかで見えてきたこと− 農政ジャーナリスト 鈴木俊彦


「まだら模様」と「役割分担」

 「農業をやるのもわしら一代限りです」 毎月農村を取材に歩く筆者は何回この言葉を耳にしたことだろう。また、 「この集落で農業を専業としてやっているのは、うち1軒だけです」 との声もしばしば聞く。現に先日、大分県の国東半島で洋ランを栽培している従弟の加温ハウスを訪ねたときも、こうした声を従弟から直かに耳にし、改めてその感を深くした。
 新基本法の制定前後から、とりわけ食料自給率に関する危機感と自給率向上のための論議が高まっているが、自給率向上の大前提となるのは担い手問題である。担い手問題を抜きにした論議は説得力を欠く。ややもすると自給率の数字ばかりが独り歩きして、空疎な議論となりがちである。自給率という目標数値は努力のあとから付いてくるものなのだ。

 21世紀が目前に迫り、日本の農業がこの先どのように変化するのか。多様な担い手はいかに確保されるのか。そして農政はどのような展開を見せるのか――。
 生産者農家はもとより、農業関係者はみな期待と不安が相半ばする思いで、等しくこれらの問題への関心を深めているはずである。

 ズバリ結論から先に述べると、キーワードは「まだら模様」と「役割分担」である。
 21世紀の農村社会は、有限会社を中心とする農業生産法人に加えて、商業資本や農外資本によるインテグレーション(統合)攻勢も進み、一段と企業化した農業経営が無視できないシェアを占めるだろう。しかしもう一方では、兼業農家を中心とする家族経営が農地の資産的保有という形で生き続けることと思われる。つまり、企業的経営と家族経営が共存する形での“まだら模様”が21世紀の農村社会の基調的なデザインとなっていくはずである。
 その場合、施設園芸と中小家畜部門では企業的経営が大きく進出し、土地利用型耕種部門では家族経営が作業受託者の助けを借りる形で辛うじて生き残っていくだろう。肉牛肥育や酪農等の大家畜についても、北海道に見られるとおり、家族経営が主流となって維持されていくものと思われる。

鈴木俊彦氏
〈すずき・としひこ〉 1933年静岡県生まれ。早稲田大学法学部卒。家の光協会「地上」編集長、電波報道部長を歴任。農政ジャーナリストの会、日本ペンクラブ会員。著書「農村取材記者の眼」「JA生き生き戦略」など。

耕作放棄防止のために

 「まだら模様」は、JAグループの組織形態についても同様なことが言えるだろう。一方では組合員数1万人を越すマンモス広域農協が大きな地歩を占めていく。既に1県1JAとなった奈良県をはじめ、香川、鳥取などの各県では超広域型JAが登場している。他方では、合併の道を選択せずに、いわゆる「銘柄JA」として小規模のまま存続し続ける“個性派”も残存していく模様だ。
 農村社会も農業経営も、そしてJAも“まだら模様”という絵柄を浮き立たせて、21世紀へのサバイバルを図っていくものと思われる。JAの連合会も共済事業の他は当分「まだら模様」を続けるだろう。

 農村社会において最も憂うべき現象は耕作放棄の増大で、いまや20万ha近くにまで広がっている。この耕作放棄を防止するためには、多数派の兼業農家と少数派の専業農家との間の“橋渡し”が必要である。その役割を担うのがJAだ。
 兼業農家は、農地を所有しているものの労働力が不足している。「土日農業」とか「ウィークエンド・ファーマー」と言われるように農作業を片手間で続けてきたものの、若い世代の農業離れで片手間農業も先細りとなっている。
 他方では農業機械を揃え労働力も充分な専業農家が経営規模の拡大を志向している。機械をオペレートする能力はあっても肝心な農地が不足し稼動率が低いままというケースが多い。

 この兼業・専業双方の農家のニーズを満たし耕作放棄を解消していくためには、やはりJAの仲立ちが必要である。JAが農地法第3条第8項による農地保有合理化法人の許可を得て、農地の売買・貸借事業を自ら行う資格を取得することが望まれる。そのことにより農地の利用権設定が円滑に進み、作業や経営の受委託もスムーズに進展していくからだ。

地域営農のシステム化

 JAには地域営農マネジメント・システムのオルガナイザーとしての役割も期待される。わが国には10万8659の農業集落がある。1集落の農地は50ha前後だ。そして1集落に平均3戸ほどの専業農家が存在するので、農地の賃貸借や作業・経営の受委託が進むと、専業農家は10ha前後の農地を耕作できる形となる。JAが中心となってこうした農地の保有合理化を進める形態が地域営農マネジメント・システムである。
 専業農家の稀少価値から地代(借地料)はこの先限りなくゼロに近づく。このシステムが軌道に乗ると、集落は一つの「農場」と同様に機能することになる。これが「集落農場」のパターンともなるわけだ。
 このようにJAの管内でも、一つの集落内においても、専業農家と兼業農家の「役割分担」が今後の営農の重要なカギとなる。集落内のさまざまな「役」の分担については、不利益平等負担も含めて納得のいくワークシェアリングが今後強く望まれる。

 JAを中心とする、このような営農システムが、いわば21世紀農業の基本型となるが、株式会社も条件付きで農業への参入(農地の所有)が認められることになった。農外資本の出資比率や法人議決権には4分の1(25%)以下という制限条件が付けられている。しかも「農作業時に常時従事する役員が過半を占めなければならない」と釘を打たれている。株式会社の参入といっても、当面は資金調達を一層必要とする有限会社からの転進(内発的発展)に限られるだろう。
 しかし、総合商社等を中心とする農外資本が現地の農家集団と連携し契約栽培(飼育)という形で農業経営に足を踏み入れる方式は増大するだろう。商業の場合、流通の川下ではスーパーなどの量販店と繋がるケースが多いので、やはり警戒が必要だ。
 農業サイドとしては、集落内の流動農地を独占的に引き受ける特定農業法人を集落営農の中に位置付け活用していくことが望まれる。JA出資の農業生産法人を設立する積極策も各地で見られるようになった。

 一般的に農業生産法人は、農外の若者が農業に参入する際の受け皿としても大きく機能する。若者たちは法人の従業員としてスタートし、ゆくゆくは法人の経営者をめざす。このパターンを「日本型アグロ・ラダー」(農業階梯)と名付け勇気付けている学者が広島県立大の笛木昭教授である。

 ともあれ21世紀の日本農業は「まだら模様」と「役割分担」をキーワードとして展開していきそうである。そのなかでのJAの役割を積極的かつ明確に位置付けた第22回JA全国大会決議の実践に心より期待したい。

 



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