米価下落に対する緊急総合米対策が発表されてから、2回の自主米入札がおこなわれ、米価の急落は、ひとまづ抑えられた。
これは、全国各地で稲作危機突破のための生産者大会を開き、JAに結集して要請運動をした成果である。もしも、黙って座っていて、政治の善意を待っていたら、この結果は得られなかっただろう。
しかしながら、米価は前年と比べて七%程度下がったままで、回復するまでには到っていない。一部の業界紙は「緊急対策が狙った”価格の回復”からはほど遠い」と評価している。市場は緊急対策の不十分な点を見透かしているのだろう。
緊急対策はどの点が高く評価され、どの点が不十分だったのだろうか。
|
(もりしま・まさる) 1934年群馬県生まれ。57年東京大学工学部卒業、63年東京大学農学系大学院修了、農学博士。64年農水省農業技術研究所研究員、78年北海道大学農学部助教授、81年東京大学農学部助教授、84年同大学農学部教授を経て94年より現職。著書に『日本のコメが消える』(東京新聞出版局)など。
|
●米政策の誤りを正した緊急対策
はじめに評価すべき点を考えてみよう。それは3点ある。
評価すべき第1の点は、在庫米を大量に処理して、米価を回復しようとした点である。
これまでの米政策の根幹は、「米価は下がってもいい。下がれば所得安定のために補助金を出す」というものだった。つまり、「価格政策から所得政策へ」というものだった。これに逆行して、こんどの緊急対策は所得政策ではなく、米価回復という価格政策を前面に押し出した。
評価すべき第2の点は、米価回復のために減反を強化するのだが、そのための補助金を増やした点である。
これまで、補助金から脱却するといってきたが、それに逆行して補助金の一部を増額した。
評価すべき第3の点は、稲作経営安定対策のなかの基準価格を、一部分据え置いた点である。
これまで基準価格は市場価格に連動させてきた。この連動をやめて、多くの農業者が要求する再生産可能な価格、つまり、生産費に近づけた。
以上のように、緊急対策が高く評価される点は、すべてこれまでの米政策の根幹をゆるがし、それに逆行するものである。
このことは、これまでの米政策の根幹における誤りが、米価暴落という緊急事態を招いた原因であることを物語っている。
だから、いまの事態を収拾するには、いまの米政策の誤りを根本的に正すしかない。
しかし、この反省が全く不十分である。心の底から反省したのではなく、政治市場における力関係の中で、JAの強力な要請運動に押されて妥協した結果なのである。ここに緊急対策の限界と問題点がある。
●不十分な緊急対策
緊急対策の不十分な点は、いくつかある。それらを考えてみよう。
その1は、輸入米を聖域として、いっさい手をつけず、減反の強化で米価回復を計ったことである。
その2は、減反補助金を増やしたといっても、それはごく一部にすぎない。しかも一年間だけである。
その3は、稲作経営安定対策のなかの基準価格を据え置いたといっても、生産費と比べて、はるかに安いことである。
その4は、豊作のばあいに、青刈りするという需給調整を新しく導入するが、国産米ではなく、輸入米で需給を調整すべきではなかったか。
このように、不十分な点はいくつもあるが、最大の問題点は、この対策で、いったい米価を回復できるのか、そうして稲作所得を世間並みに確保できるのか、という点である。
緊急対策は、280万トンに膨れ上がった在庫米を、2年後に125万トンに減らして、米価を回復するというのだが、それは、はたして可能だろうか。いま、市場はこの点を疑問視している。
●加工米が米価を圧迫する
2年後に在庫量が125万トンになるといっても、それは政府が名付けた「主食米」だけである。主食米以外に大量の加工米を温存する。
政府は、今後も毎年77万トンという大量の米を輸入しつづけるだろう。SBS(売買同時入札)の振替え分を含めて、輸入米の多くが加工米になる。
政府が名付けた主食米の在庫量が125万トンに縮小しても、加工米が膨大に膨れ上がるだろう。
この加工米が、消費者の低価格米志向のなかで、また、販売店の安売り競争のなかで、実際には主食米に化け、米価を圧迫するだろう。生きた経済のなかで、それを防ぐ方法はない。
だから米価を回復するには、加工米を減らすしかない。そのおおもとである輸入米からの供給を断つしかない。
●在庫米を飼料用と援助用で処理せよ
今後のJAの要請運動は、政府のいう加工米という名前の在庫米が、主食米に転用できないように、飼料用や援助用で処理させて、加工米の在庫圧力を断つという1点にしぼるべきだろう。そうして、2年後の在庫量を、この緊急対策で示した125万トンに、着実に抑えこむことだろう。
このように、外へ向けた要請運動を強力に進めるなかで、内に向かっては、経済連の間で協調販売を促進すべきではないだろうか。
|