WTO(世界貿易機関)交渉は、農業交渉だけが先走って、いよいよ本格的に始まろうとしている。加盟各国は年末までに、基本的な主張を提示することになっている。
わが国は、米の輸入問題について、どのような主張でもって交渉にのぞもうとしているのだろうか。
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(もりしま・まさる) 1934年群馬県生まれ。57年東京大学工学部卒業、63年東京大学農学系大学院修了、農学博士。64年農水省農業技術研究所研究員、78年北海道大学農学部助教授、81年東京大学農学部助教授、84年同大学農学部教授を経て94年より現職。著書に『日本のコメが消える』(東京新聞出版局)など。 |
◇米は国内で自給
新聞報道によると、政府は一昨年の関税化を決定したときと同じように、またしても3つの選択肢があるのだという。いずれも、こうすれば、こういう譲歩を迫られる、ああすれば、ああいう報復を受ける、というものを羅列して、どこまで我慢できるか、というたぐいの選択肢である。
これでは、今後、短くとも3年間つづくWTO交渉での、わが国の基本的な主張は理解できない。いったい政府は、米の輸入はもうごめんだというのか、それとも、もっと輸入したいというのか、さっぱり分からない。
こんどは国論を統一して交渉するというのだから、それなら、もっと明快な主張をすべきだろう。
かつて、わが国が主張したように「基礎的な食料は国内で自給する」という何ものにも侵されない権利、つまり、食料主権をWTO交渉における基本的な姿勢として、鮮明に主張すべきである。
減反しているのに輸入しつづける、などという理不尽な政策はやめる、というべきだろう。
そうして、米は国内で自給する、ということを交渉の戦略目標に掲げ、それを実現するために、当面は輸入義務のゼロを目指した大幅な縮小と、輸入禁止的な高率関税の維持と、稲作のための各種補助金は削減しない、という主張をすべきである。
◇輸入米の影響を直視せよ
なぜ、そのような明快な主張ができないのか。それは、いままで6年間の輸入実績についての分析と、それに基づく評価がなされていないからである。
政府は分析のための資料を持っている。しかし、分析を指揮し、分析結果を総合的に評価する責任者、つまり政治家がいない。
それはなぜか。それは政府与党の政治家が、決して触れてはならぬタブー(禁忌)だからである。
もしも仮に、このタブーを破って、輸入米が国内需給におよぼす影響を分析すればどうなるか。分析の結果は、輸入米による供給過剰が米価下落の原因であることが明らかになるし、減反強化の原因であることが明らかになってしまう。
そうなると、歴代の政府は虚偽の言動をしてきたことになる。すなわち、歴代の政府は、93年12月に行った「米のミニマム・アクセス導入に伴う転作の強化は行わない」という閣議了解を遵守する、といってきたが、しかし、実際にはミニマム・アクセスに伴って減反を強化してきた。この言行不一致が分析の結果、曝け出されてしまう。
いまの野党の大部分は歴代の政府の与党を経験してきた。だから、野党を含めて大部分の政治家の言行不一致が白日のもとに曝け出されてしまう。それを覆い隠すために、分析してはいけない。だからタブーにしてしまったのである。
◇加工米も米だ
では、歴代の政府は、この言行不一致を、どのような詭弁を使って隠してきたのか。
それは「加工米は米ではない」とする詭弁である。一部の政治家は、加工米を米として認知せよ、と主張したが、その声は消されてしまった。
そうして、政府は輸入米の多くを加工米として売却してきた。その結果、加工用の国産米の生産を縮小せざるを得なくなった。つまり、減反を強化して国産米の生産を縮小した。
この事実を93年の閣議了解と整合させるために、政府は「加工米は米ではない」と言いだし、加工米の生産の縮小は減反強化ではない、という官僚的な詭弁を作りだして、それを押し通してきた。
しかし、それもいまや出来なくなった。輸入量を増やし、また、SBS(売買同時入札)を増やすにつれて、政府が加工米という名前で売却した米が加工用で処理しきれずに、業務用の主食米へ回るようになった。
そのうち、政府は「業務米は米ではない」と言いだすのだろうか。
業務用のつぎは、家庭内で消費される低価格米が狙われるだろう。
これは牛肉の輸入拡大の経過とまったく同じである。牛肉のばあい、輸入牛肉は、まず加工用に仕向けられ、つぎに業務用、さらに家庭内の低価格牛肉へ、という順序で国内市場を蹂躙してきた。そして、いまや牛肉の国内自給率は35%にまで落ち込んでしまった。
◇食料主権を声高く
米にこの轍を踏ませてはならない。それには「加工米は米ではない」とする詭弁を拒否しなければならない。
政府与党はもちろん、野党の政治家の大部分は、これを詭弁とは認めていない。だからJAが先頭に立って「加工米も米だ」と主張し、米が過剰で米価が暴落し、減反しているときは輸入しない、という食料主権の声を高く主張すべきだろう。
「米は自給すべし」とする84.2%(2000・7月、総理府調査)の国民は、JAの主張を支持するにちがいない。
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