農協時論 | |
大規模経営・法人経営がJAに求めていること |
東京大学大学院農学生命科学研究科 助手 木下幸雄 |
第22回JA全国大会議案『「農」と「共生」の世紀づくりに向けたJAグループの取り組み』によれば、地域農業振興と農業の多様な機能の発揮を果たすために、担い手の育成・支援が急務の課題であるとし、地域農業の将来を支える担い手を明確化し、その育成に対してJAは支援を積極的に行うこととしており、将来を支える担い手としては、集落営農のほかに、大規模経営や農業生産法人が例記されている。 同調査は、無作為抽出で主に耕種部門を経営する全国500の農業生産法人を対象とした郵送によるアンケート調査であり、回答数244、回答率48.8%であった。回答を得た経営の平均面積は41.4ha、平均販売額は8,195万円であり、全国でもトップクラスの販売額を誇る経営が大多数を占める。また作目別では、稲作中心の経営が37%、園芸作中心の経営が39%、それ以外のタイプで24%である。 ◆ JA利用度は低く、“JA離れ”がみられる 大規模経営・法人経営はJAとどの程度の関係があるのか、JAの利用度について見てみよう。まず、彼らとJAとの大きな接点は資金調達である。56%の法人がJAから事業資金の融資を受けており、またこれが生産資材購入の動機の1つとなっている。
生産資材購入面でのJA利用度を見ると、平均購入金額は、肥料252万円、農薬165万円、農業機械211万円、農業用資材435万円であり、合わせて1,058万円となっている。このうち、JAからの購入金額割合は、各々41%、37%、33%、28%、全体では6割相当がJA外からの購入である。JAからの生産資材購入の理由は、組合員だから(回答率(複数回答)51%)というのが他の理由に比べ圧倒的に多い。一方、JA外から購入してJAを敬遠する理由は、資材価格が高いこと(46%)、新技術・新資材・マーケティング等の役立つ情報が入手できないこと(37%)とJA利用のデメリットが挙げられている。これらの評価は資材全般に共通する。ここで興味深いのが、JAとの取引では、価格の不利性だけでなく、経営に有用な新たな情報提供の不足を感じている点である。その一方で、地元業者や農業資材専門店との取引は、価格が安い上に、情報が入手できるという点に魅力を感じている。 このように、全国でもトップクラスの販売金額をあげている大規模経営・法人経営のJA利用度は低く、彼らのJA離れが見られる。これは、彼らのような優れた経営者は、経済面で有利な取引を行い、また、新たな情報に敏感で、有用なものは積極的に経営に導入し、新技術・新作物導入やマーケティング活動を展開していくことが多いためであろう。彼らの重要な情報入手先は、新生産資材関連、新技術関連、マーケティング関連のいずれの情報も業者・メーカーが圧倒的に多く(回答率(複数回答)平均69%)、JAは少ない(平均19%)。また、技術情報では農業改良普及センター(28%)、マーケティング情報では口コミ・市場・消費者・マスコミ等の「その他」(22%)も有効な入手先である。 ◆ 単協レベルでの工夫ある取り組みに期待 大会議案中、大規模農家・法人の育成支援として、農用地利用調整と連担化、作業受託組織等システムの確立といった担い手を中心とした生産体制の確立、生産資材の低コスト化と利用量を勘案した価格設定、多様な流通チャンネルに対応した販売支援と連携、雇用労働力の確保と労災保険・共済加入の促進、税務・経営分析と経営の多角化への対応、法人設立時の支援が掲げられている。これらの方向性は、彼らのJA利用の実態からすればおおかた妥当なものである。が、問題はこれらをどう実現するか、実現は単協レベルでの工夫ある取り組みにかかっている。 例えば、大口利用による価格面での有利な取引については、サプライチェーンの構築と物流合理化によって低コスト化を図ると同時に、組合員平等扱いという従来からの運営原則から、組合員間の性格の違いを考慮し、効率性も重視する運営原則へと転換することが避けられない。農家の性格が多様化してきている中、農家間の利害が必ずしも一致しない可能性があり、JAのバランスの取れた対応が求められるのである。地域の生産体制の確立に向けてはJAが地域農業マネジメント機能を発揮することも必要であるが、そのためにはJA内でふさわしい人材を育成・登用し、さらには彼らの懸命な活躍と農家との連携・綿密な情報交換が求められる。また、JAの情報提供も重要である。情報の提供方法はインターネット等の発達で極めて効率的なものとなった。が、問題は情報の中味である。経営発展に繋がる新技術・商品・品種情報、消費者ニーズを捉えるマーケティング情報、確実に競争が激化している海外農産物の情報等、幅広い情報収集・提供に力を注ぐことが必要となろう。 |