農業協同組合新聞 JACOM
   
農協時論

卸売市場の今後のあり方
――国際シンポジウムの成果をもとに――

藤島 廣二 東京農業大学国際食料情報学部教授 

ふじしま・ひろじ 
昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。平成8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授(現在)、12年同大学国際食料情報学部食料環境経済学科長。日本農業経済学会員、日本流通学会員、食料・農業・農村政策審議会臨時委員。

  農林水産省は来年の通常国会に卸売市場法の改定案を上程する予定である。その目的は「食品流通の効率化等を図るための卸売市場制度の改正」である。
 しかし、今回の「卸売市場制度の改正」はある意味で「網羅的」なこともあって、その基本的な方向を容易に見出すことができない。うがった見方をすると、「卸売手数料の弾力化(自由化)」だけが目的のようにも思われる。
 それゆえ本稿では、先の9月25日に開催された国際シンポジウム「日・韓・台の比較から卸売市場流通の将来を考える」の成果(表を参照)を基に、卸売市場制度の改正のあり方、すなわち卸売市場の今後のあり方にかかわって3点ほど提案し、改正論議に一石を投じたい。

◆商流費と物流費の峻別と物流費削減の推進 

 国際シンポジウムの中で明らかになった主な点の第1は、韓国、台湾とも、卸売業者の商取引手数料(情報交換費用、価格形成費用、代金決済費用等)と場内物流手数料(運搬費用、分荷費用、保管費用等)とを区分していることである。例えば韓国の可楽洞卸売市場の場合、公表されている手数料は卸売業者の商取引手数料に限られ、青果物で卸売額の4%、日本の卸売手数料の半分ほどであるが、これとは別に場内物流手数料が品目などの違いに応じて3〜6%ほどかかる仕組みになっているのである。
 このことは今後のコスト削減を推進する上で、商取引費用(商流費)と物流費用(物流費)との区別の必要性と、特に物流費の削減の重要性(品目間での物流費格差の存在はコスト削減の余地を示すものと判断できよう)を示唆するものと考えられる。しかも、物流費の削減は市場内と市場外の双方で可能であるし、削減比率も大きい。
 例えば、産地の集出荷場から卸売市場の卸売場の間で一貫パレチゼーションを実現すると、トラックへの積み込みやトラックからの荷下ろしのための合計作業時間は、パレットを利用しない場合に比較して3分の1程度、あるいはそれ以下になる。加えて、積み込みや荷下ろしをフォークリフトで行うため、運転手として比較的賃金が安い高齢者や女性を採用することも可能となる。また、10tトラックに替えて20tトレーラを利用することができるならば、輸送費の半減も夢ではない。
 いずれにしても、これからの卸売市場は商流費と物流費を峻別し、後者の物流費を中心とするコスト削減に力を入れるべきであろう。

◆価格安定化のための仕組みの構築

 シンポジウムの中で明らかになった主な点の第2は、日本とは大きく異なり、韓国、台湾とも、出荷者(生産者等)側が卸売市場での価格形成に関与できることである。すなわち、IT化の進んだ韓国では、出荷者がインターネットを通してリアルタイムでセリ価格を把握し、暴落時には売り止めを指示することができるし、台湾では出荷者側が最低のセリ価格を指定できると法律に定められている。
 売り止めは供給量を制限し、価格の暴落を防ぐ方法であり、価格の指定は指定価格以下の価格を拒否することである。したがって、いずれも価格低下の防止に限られるものの、価格の安定化のための仕組みにほかならない。
 日本でも価格安定化のための仕組みに関する社会的ニーズは、改めて強調するまでもなく、年々高まっている。しかも、価格暴落の防止だけではなく、暴騰を防止する仕組みに関するニーズも極めて高い。できるだけ早期に卸売市場制度の中に価格安定化の仕組みを組み込むよう努めるべきであろう。
 ちなみに、暴落の防止は韓国で行われている生産者による売り止め、あるいは卸売業者による受託拒否等によって供給量を制限することで可能になるであろうし、暴騰の防止は卸売市場間の転送や緊急輸入等による供給量の増加によって可能になるであろう。

表  卸売市場に関する日・韓・台の比較
項 目 台 湾 韓 国 日 本
(1)卸売市場経由率 青果物 38%(下降傾向) 青果物 48%(上昇傾向) 青果71%(下降)、水産69%(下降)、食肉17%、花卉84% <1999年>
(2)開設者・卸売業者   開設者と卸売業者の区別なし
台北市卸売市場:台北農産運銷公司   (卸間競争なし)      
可楽洞卸売市場
 開設者:ソウル市特別農水産物公社
 
 卸売業者:青果6社、水産3社、
畜産1社
中央卸売市場
 開設者:地方自治体
 卸売業者:単数または少数複数
 
(3)卸売市場のタイプ  青果物市場、水産物市場等の専門市場
(市場経由率の低さの一因?)
可楽洞市場は、青果、水産、畜産(食肉)の総合市場  食肉は専門市場のみ
総合市場は青果、水産、(花卉)
(4)1市場への集中度  台北市第1卸売市場:
 青果物数量20%、金額24%
可楽洞卸売市場:
 青果物数量38%、金額40%
大田市場(2000年):
 青果物数量:4.8%、金額5.4%
(5)取引方法   セリ
価格指示(指値)  
電子セリ(透明化)
価格情報の瞬時伝達→売り止め
取引の24時間化
セリ、相対
(希望価格) 
(6)卸への支払の保証  保証金の預託(6万NT$/人+α)  保証金の預託(5,000万ウォン/仲卸)
(取引の系列化、卸間競争の抑制)
組合全体で保証(連帯保証) 
(7)手数料   商取引手数料:3%(台北市場)、5%
 (出荷側、仕入側の分割、)
場内荷役手数料(送貨工):
1.5〜2%
商取引手数料7%以下(可楽洞は4%)
場内荷役料(荷役人):3〜6% 
野菜8.5%、果実7%
水産物5.5%、食肉3.5%
花卉9.5%
(8)取引奨励金  先進地視察(予算は100万NT$=0.01%)          出荷奨励金0.45%(1,000万ウォン以上)
販売奨励金0.5%(代金完納者)
出荷奨励金1%
完納奨励金1%
(9)小売販売 スーパーマーケット(場外) 直販商人(場内) (禁止)
(10)直荷引き  ? 仲卸売人(8〜11%)、直販商人 仲卸業者
(11)市場使用料  卸売額の0.3%(賃借料)  可楽洞卸売市場:
 青果卸0.35%、水産・畜産卸0.5%
中央卸売市場:青果卸0.5% 
(12)選果等  共選、プリパックの遅れ→セリ、スーパーによる市場外 共選、プリパックの遅れ→セリ  選果、プリパックの先進地 
(13)その他   駐車料金→公社の収入  


◆総合卸売市場化の推進

 シンポジウムで明らかになった主な点の第3は、韓国の可楽洞卸売市場が青果、水産物、食肉の総合市場で、青果物卸売市場流通量に占める同市場のシェアが38%(流通額に占めるシェアは40%)と驚くほど高いことである。しかも、専門市場だけの台湾では市場経由率が低下傾向にあるのに対し、韓国では市場経由率は上昇傾向にあると言われている。
 日本の卸売市場をみると、中央卸売市場はもとより、地方卸売市場の中にも総合市場はあるものの、その総合化は「青果物+水産物」が中心で、衛生面の規制のため食肉部門を取り込んでいる卸売市場はない。したがって、スーパー等が青果物、水産物、食肉の生鮮3品を仕入れるためには、複数の卸売市場と取り引きしなければならないのである。
 仕入れ業者の立場からすれば、専門市場よりも総合市場の方が、また日本の総合市場よりも韓国の可楽洞卸売市場の方が便利なことは言うまでもない。しかも、今日の日本のように加工青果物が年々増えている国では、生鮮青果物だけでなく、加工青果物も取り入れた総合市場の方が便利であろうし、また加工青果物の取り込みは市場経由率の低下を食い止め、逆に経由率の上昇につながる可能性をも高めよう。
 かくて、今後の卸売市場の発展を図る上で、総合市場化の推進は積極的に取り組むべき課題と言えよう。

(科研「地域貿易協定進展下における東アジア農業の競争と協調条件の解明」(代表・八木宏典)により韓国と台湾の調査を行った。) (2003.12.1)


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