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農協時論 |
人口減少時代こそ食料の自給率向上を |
太田猛彦 東京農業大学地域環境科学部教授 |
◆人口減少社会を初めて総合的に検討 そのような状況の中で、日本学術会議(第19期)は、人口減少社会においてこそ、わが国は食料もエネルギーもその自給率を向上させるべきであるとする対外報告「人口減少時代の“豊かな”社会−わが国の人口・食料・エネルギー問題−」を発表し、筆者はそのとりまとめ役を務めた。この報告は、農業関係においては、WTO交渉におけるわが国の主張に関連して農業・森林の多面的な機能の重要性を理論づけた日本学術会議の2001年の「答申」、水産業・漁村の多面的機能に関する2004年の「答申」につぐ、農業の基本政策に関わる重要な報告と思われるので、その内容を紹介し、若干のコメントを加えたい。 最初に述べたように、この対外報告は、わが国における人口減少および年齢構成のアンバランス化の問題は21世紀の日本社会にとってきわめて重大な問題であるにもかかわらず、総合的な検討はまだ不十分であるとの認識のもとで、日本学術会議「人口・食料・エネルギー特別委員会」が2年にわたる審議ののち公表したものであり、“人口減少社会”を総合的に検討した最初の報告書と思われるので、その骨子をまず簡単に紹介する。 ◆経済的成長から文化的成長への意識改革を すなわち、わが国が人類全体の持続可能な社会の構築に貢献し、自らも豊かな21世紀社会を実現するには、その前提条件の一つとして、わが国における人口減少問題を克服する必要がある。その場合、私たちは積極的に人口減少を受け入れ、そのメリットを生かして持続可能で豊かな社会を構築するべきである。そのためには、物質的豊かさ志向から“新たな”豊かさを追求する社会を目指すことになる。それは、わが国の国家目標を経済的成長から文化的成長とも呼べるものに転換する必要があることを意味する。 ◆許されない食料の大量輸入 特別委員会は上述のような総合認識のもとで、特に食料とエネルギーの問題を取り上げ、集中審議を行った。食料に関していえば、アメリカやEUの先進諸国だけでなく、中国、インド、バングラデシュ、パキスタンなど1億人以上の人口大国がいずれも90%以上の食料自給率を有している中で、不足しがちの世界の食料を日本のみがこれまでのように大量に輸入し続けることは許されなくなるだろう。 ◆自給率向上には兼業農家などの収入安定が不可欠 対外報告は、人口減少がそのまま自動的に食料自給率の向上につながるものではないことを指摘したあと、その自給率向上の可能性に関して概略以下のように分析している。 ◆エネルギー自給率向上へエネルギー作物の生産も 一方、対外報告はエネルギーに関しても、化石エネルギーから自然エネルギーやバイオマスエネルギーなど「再生可能なクリーンエネルギー」への転換、すなわちエネルギー自給率の向上の必要性を打ち出している。具体的には、カーボン・ニュートラルなバイオマス経由の液体又はガス燃料、さらに最終的にはそれらからの水素の製造による水素エネルギー社会の実現が理想的であるとされた。 ◆豊かな地域社会の再建こそ急がれる 長期にわたって続いてきたWTO農業交渉も、いよいよ2006年には最終局面を迎えようとしているように思えてならない。わが国は先の「答申」で理論づけられた「農業の多面的機能」の、特にモンスーンアジアでの有効性をより強力に主張するとともに、国内では食料の自給率向上政策をさらに真剣に議論していく必要があろう。そのためには、人口減少時代に入りいっそう過疎化が進むと予想される“地方”での地域社会の再建が、それも“豊かな”地域社会の再建が、デカップリング政策を取り入れた農林業の改革を含めて急がれるべきである。 注)上記対外報告は日本学術会議のホームページ |
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(2006.1.30) |
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