◆農業倉庫保管中の災害に補償制度
平成16年は、上陸した台風が過去最高の10個、梅雨前線の活発化などによる豪雨、そして10月の新潟県中越地震など、自然災害が多発した年だった。
これらの災害で多くの人命が奪われ、家屋が倒壊したり流出し、いまだにその復興がかなわない人たちもたくさんいる。JA共済連によれば、自然災害共済金の支払額は2472億円と前年度比627.9%の大幅な増加で、なかでも9月の台風18号では、1065億4202万円(27万9779件)が支払われている。これは平成3年9月の台風19号(支払額1488億2092万円)、平成7年1月の阪神・淡路大震災(同1188億8729万円)に次ぐものだという。
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水圧で壊されたシャッター |
農作物に与えた被害も莫大なものがあり、その影響は今後の農業経営にとって計り知れないものがある。農作物の被害は水田や畑だけではなく、農業倉庫など収穫後の保管施設にもおよんでいる。
国内農業の基幹品目である米麦についてJAグループは、JAなど農業倉庫業者が農家から販売委託を受けた米麦を倉庫に保管中に、火災や水害をこうむった場合に補償する機関として「農業倉庫受寄物損害補償基金」(農倉基金)を設けてこうした災害に対する備えを整えている。 ◆JAグループの縁の下の力持ち
昭和48年に発足した農倉基金の水害に対する補償制度が、15年度までに支払った補償金額の総計は6億2789万円だが、16年度は集中豪雨と台風23号など大型で強い台風による被害が多く、6億6200万円と過去30年の合計額を上回る過去最高の損害補償額を支払った。
損害補償の内訳をみると、集中豪雨が2件(内1件は麦)、台風16号が1件、台風18号が3件、台風21号が2件、台風23号が8件の合計16件となっている。その他に台風18号で3件損害見舞金が支払われている。
こうした損害補償はJAに出荷され農業倉庫に保管されている米麦に対してのものだから、自分で販売しようと考えてJAに出荷せず農家に保管され被害にあった場合には、個人の責任となり何の補償もされないことになる。
「補償の仕組みを知り、支出を受けて助かった。農倉基金はJAグループの縁の下の力持ち的存在だと再認識した」「生産者にも積極的にPRし、系統集荷率の向上に努力したい」という声が農倉基金に寄せられているという。これこそが「協同の力」といえるのではないだろうか。
農業倉庫保管の被災米は全額補償 水害補償額約4.8億円 −JAたじま (兵庫県)
◆2万6000俵強が水没被害
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豊岡農業倉庫 |
昨年10月20日、台風23号の接近により豊岡市、出石町、日高町などの兵庫県北部の但馬地域では、昼過ぎから激しい暴風雨に見舞われた。降り始めからの総雨量は豊岡市で234mmを記録。市内を流れる円山川の堤防が決壊した。JAたじま豊岡農業倉庫、伊佐農業倉庫も床上まで水没し、保管していた15年産・16年産米が甚大な被害を受けた。
JAたじまの豊岡農業倉庫、伊佐農業倉庫のある円山川右岸は、海抜0メーター地帯で、昔から水に対してはたびたび苦しめられてきた。二つの農業倉庫も嵩(かさ)上げをしてあったが、今回の水害では堤防が決壊したため、換気口などから水が浸入し、多くの米が水没した。
豊岡農業倉庫の水害時の在庫数量は満庫(5万俵)に近い4万6434俵(60kg換算)。そのうち、水濡れを免れたもの1万9968俵。被災したものは、保管米の約6割の2万6466俵におよんだ。そのうち、加工用原料として761.04トンを販売し、960.73トンを産業廃棄物として処分した(水分等を含んだ実トン数)。また、伊佐農業倉庫の水害時の在庫数量9231俵(60kg換算)のうち、水濡れを免れたもの7760.5俵、被災してコンテナ詰め後、乾燥して業者に渡したものは1470.5俵。
農倉基金からの損害補償は、コシヒカリ、フクヒカリなど銘柄と等級に準じて支払われ、その補償額は、両倉庫合わせて4億7867万円となった。JAは、台風の直前に農業倉庫に集荷されていた米も含めて銘柄による差はつけたが、JAが補填してすべて1等米として生産者に補償した。
◆補償がなければ生産者にとっては死活問題
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今井克己営農課長 |
JAの米集荷率は50%を切っており、自己保管していた農家の多くもかなりの被害を受けた。
今はいろいろなチャンネルがあり、必ずしもJAに出さなくても米の販売はできる。しかし、こうした災害に合った場合の補償はない。しかし、JAに出荷した米については、すべて補償されている。
しかし、「すべて補償されたとしても、生産者の落胆は大きいと思います。もし、補償がなかったら、死活問題であり、米作りをやめてしまうかもしれません。もしものことを考え、あまった手持ちのお米はJAに預けてくださいと生産者に呼びかけ、集荷率のアップをめざしたい」と今井克己同JA営農課長はいう。
また、JAは生産者から信頼されるために、豊岡農業倉庫の改修をJA独自の予算で行い、水に対する備えを万全なものにしたいと考え、170cmの水位に耐えられるよう、換気口などのつけ替え工事を行う。工事は4月末から始まり、7月中に完成予定だ。
◆集落営農、生産法人化で農業継続の動きも
JAたじま管内水稲生産農家全2万世帯のうち、JAへの出荷農家は約8000世帯。なかには自家保管していた米の被害が大きく、今後、農業を続けるか態度を決めかねている農家もある。しかし、これを機会に数世帯が集まって集落営農、生産法人化する例も現れた。
「災い転じて福となす、という諺もあるように、今回の水害で被害を受け、トラクターなどの農業機械を失った生産者が集まり、集落営農、生産法人化をめざし、農業を再開しようという動き」がある。
JAもそのような動きを支援するために、兵庫県が16年度創設した営農継続用機械整備事業を活用している。この事業はJAが事業費の4分の1を負担し、残りを国(1/2)と県(1/4)が負担するもので、すでに2億数千万円の予算でトラクターなどをJAが買い入れ、生産法人等に貸し付けを予定している。「そのことで、個人では将来の見通しが立たなかった農業を、今後も続けていこうと頑張っている生産者が出てきています。嬉しいことです」と今井課長はいう。
水害から立ち上がり、新たな道を模索している生産者が出てきていることは、JAたじまにとっても大きな希望となるだろう。
万一の災害から
農家・JAの経営を守る補償制度
河合 利光 (財)農業倉庫受寄物損害補償基金理事長
昔から怖いものの代名詞として「地震、雷、火事、親父」といわれています。この「親父」は元々は「山嵐」を「おやじ」といい、「台風」のことを指すというのが定説のようです。
昨年は過去最高の10個の台風が日本列島に上陸しました。兵庫県豊岡市、京都府舞鶴市を襲った台風23号は、住宅などの損壊ばかりでなく、出来秋の米を満載した農業倉庫にも多大な損害を与えました。この他にも台風や集中豪雨によって16件の農業倉庫の水害被害が起こり、水害補償額は、水害事故補償制度設立(昭和48年)以来の最高の約7億円に達しました。
当基金はその名称が示すように、JAなど農業倉庫業者が農家から販売委託を受けた米麦を倉庫に保管中に、火災や水害の被害にあったときに補償する機関です。昨年の水害で多大な損害を受けたある地域では「JAは水害でつぶれるのでは」という噂が流れましたが、JAが当基金の水害補償制度で被害は全額補償されることを説明し、組合員が安心したという話を聞きました。災害は起きて欲しくはありませんが、もしものときの備えとして当基金の存在価値が見直されたわけです。
近年、農業倉庫の火災事故は減少していますが、水害事故は、地球温暖化によると思われる異常気象などの影響による災害が世界中で多発しており、増加傾向にあるといえます。この補償制度がなければ、万一水害事故が起きた場合、農家経営はもとよりJA経営に重大な事態をもたらします。当基金の補償制度をもっとPRしていただき、JAグループの米集荷率向上に少しでも役立てていただければ幸いです。 |
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