◆従価税と従量税の違い
関税の種類には、価格に対して一定の割合で関税をかける「従価税」と、1kgあたりなど輸入量に対して関税をかける「従量税」がある。
多くの国で関税率の適用方式は品目によって、従価税か従量税かを選んでいる。日本では牛肉や関税の低い野菜などが従価税で、米などを従量税としている。
違いは、国際価格が低下した場合、従量税のほうが国内農産物を保護するのに有利に働くところにある。
かりに国際価格1kg100円の農産物があったとして従価税で100%、従量税で1kg100円の関税をかけているとする。国際価格が1kg100円であれば、どちらの方式でも100円に関税100円(従価税100%=100円)をプラスして1kgの輸入価格は200円で同じだ。
ところが国際価格が50円と半値になったとする。
この場合、従価税では国際価格50円に対しての100%の関税、つまり50円が上乗せされることになり輸入価格は100円になる。
一方、従量税では国際価格が50円になったとしても、1kgあたりの関税は100円と決めてあるため輸入価格は1kgあたり150円と従価税を採用した場合よりも高くとどめられる。
逆に国際価格が上昇した場合は従量税のほうが不利になるが、市場競争によって価格低下が見込まれる重要品目には多くの国が従量税を採用している。すなわち、高関税品目の多くには従量税が採用されているようだ。
わが国も米の関税は1kg341円と従量税を採用。それを従価税に換算した場合の関税率として490%としているが、これはひとつの指標として示しているにすぎない。
◆「階層方式」の導入で換算方法が焦点に
事務レベル会合で従価税への換算方法が議論されているのは、昨年夏の大枠合意で関税の引き下げ方式に、関税率の高さで農産物を分け、高関税品目ほど大幅に引き下げる「階層方式」を採用することが決まったからである。
階層の種類をいくつにするか、また、階層のなかでの関税引き下げ方式をどうするかなどは今後の交渉のひとつの焦点である。
ただし、階層方式を採用する以上、ある基準で各国農産物関税のいわばリストを作成し、そのうえで階層の区切り方や数などを詰めていく必要があることから従価税への換算方法が検討されるようになったのである。
◆基準単価めぐり輸出入国間で折り合わず
もっとも議論はそう簡単にはまとまらない。3月14日からのWTO農業委員会の技術会合では、換算方法について集中的な議論が行われた。
これまでの議論では換算するのに用いる統計データは1種類とすることとし、各国が自国の貿易統計をもとにWTOに通告している輸入単価で従量税を従価税に換算することにおおむね合意が得られた。
しかし、米国やケアンズ・グループ、インド、ブラジルなど輸出国からその輸入単価と国連のデータである世界平均輸入単価の差が大きい場合はWTOデータを使うべきではないと反発した。
具体的にはWTOデータが世界平均輸入価格を40%以上上回るような品目は別の扱いをすべきというものだ。
こうした主張を受けて日本をはじめとしたG10やEUも含めて議論した結果、技術会合では、2つの換算データの差が20%以内であればWTOに通告したデータを使って換算してもよいという点まではほぼ合意されたという。しかし、差が20%を超える場合については議論がまとまっていない。3月はじめのケニア・モンパサで開催された非公式閣僚会議では従価税換算方法について今回の会合で合意することとされたが結論は持ち越しになった。
輸出国にとっては当然、自国に有利になるような換算データを基準とすべきだとする。さらにこれまでの交渉の過程で関税は従価税だけにするべきと主張している。
これに対して日本など輸入国は反対だ。今回の技術的な検討から、関税率は従価税のみとすべきという議論にならないよう、2月に来日したEU農業団体連合会のファイター事務局長は講演のなかで「従価税換算が階層方式において必要だといわれているが、すべての関税を永続的に従価税に転換することは受け入れられない」と輸出国の主張にクギを刺した。
いうまでもなく従量税に換算することに合意したからといって、それはあくまでルールづくりのための一手段。最終的な関税率の適用方式をどうするかはまた別の問題だ。しかし、関税の大幅な削減を主張する輸出国とはこうした技術レベルの会合でも厳しく対立しており、その議論の行方には注目しておきたい。
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