農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
加工用に対応して自給率を向上 「野菜政策に関する研究会」報告書
藤島廣二座長(東京農大教授)に聞く


 平成13年から実施されてきた「野菜の構造改革対策」が16年度に終期を迎えたことや基本計画の見直しなどを踏まえ、野菜政策に関する基本的な視点と今後の野菜政策における具体的な対応方向を検討してきた「野菜政策に関する研究会」の報告書が3月にまとめられた。報告書はかなり広範囲にわたっているが、研究会の座長である藤島廣二東京農業大学教授に、野菜産地にとって重要なポイントを聞いた。

藤島廣二 東京農業大学教授
藤島廣二 東京農業大学教授

◆輸入品への「攻めの姿勢」を明確にし、自給率を向上

 ――今回の報告書の特徴はどういう点でしょうか。
 藤島 今回の報告書は、輸入野菜に対する「攻めの姿勢」を明確にして、自給率の向上をはかることを最大の目的としています。
 昨年、輸入野菜が増えましたが、そのシェアは多分、20%近くになっていると思います。しかもその半分以上は中国からです。輸入が増えると、そうした特定の相手国の状況の変化によって、日本向けの供給が不安定になる可能性が大きくなります。
 そうした問題を解決するためには、自給率の向上が必要ですが、その自給率向上のために、セーフガードや関税といった国境措置を強化するのではなく、国産野菜の生産・流通面の改善を推進しよう、というのがこの報告書の大きな特徴だといえます。
 自給率を向上することで、国内産地に恩恵をおよぼすだけではなく、国境措置を強化しませんから、消費者によりいっそう豊かな食を提供する可能性が高くなると思います。
 ――それをこれからの野菜政策の基本にするということですか。
 藤島 報告書では「安全で安心な国産の野菜を国民・消費者に対して安定的に供給することを野菜政策の根幹として位置付ける」と書いているように、自給率向上といっても産地側だけに立っているわけではありません。消費者側も考慮して、全体として食の豊かさを維持する、あるいはいっそう豊かにするような自給率の向上をめざすということです。
 ――2001年に3品目でセーフガードを発動しましたが、野菜全体としてみると、こういう対策では効果が期待できないということですね。
 藤島 そうですね。ネギ・シイタケでセーフガードを発動したことで野菜全体の輸入量が減ったかといえば、01年はそれまでで最大の輸入量があったように、効果は限定的であったといえます。野菜全体に対してセーフガードを発動できればいいのでしょうが、現在の国際情勢の中ではそれはできませんから、品目は絞らざるをえない。となると、あまり効果はないということになってしまいます。野菜は品目間の代替性が強いものですから、1〜2品目の輸入を制限しても、他の品目で増えてしまうのです。

◆需要が増えている加工用・業務用対策が一番のポイント

 ――報告書を読むと、自給率向上のためには、加工・業務用が非常に重要だと強調していますね。
 藤島 この10年間で野菜生産量は15%減り、作付面積は20%減っています(図1)。しかも最近の食の動向を見ると「食の外部化」が進んできて、野菜の加工・業務用が55%以上を占めています。

図1 野菜の作付面積と生産量の推移

 野菜の輸入量は馬鈴薯を除いても、昨年あたりですと、生鮮換算数量で年間300万〜330万トンくらいにのぼっていますが、そのうち生鮮物はせいぜい100万トンで、あとは加工品です。加工品の中ではとくに冷凍品が増えていて(ただし平成14年と15年は冷凍ホウレンソウの残留農薬問題のため減少しました)、しかも冷凍品の中での輸入のシェアは90%前後もあります(図2)。需要が増えれば、その分輸入が増えるという構造になっているのです。

冷凍野菜販売量

 冷凍野菜は7割以上が業務用ですから、今後も食の外部化が進むにつれて輸入がさらに増え、自給率が下がるということになると思います。
 つまり、生鮮物に対する輸入対策だけでは限界があるということです。しかも生鮮物だけに限ってみれば、特定の品目で輸入が多いものはありますが、生鮮全体では輸入は7〜8%でほぼ自給はできています。
 そういう意味で「攻め」の対策は加工品対策にならざるを得ないわけです。
 ――それは従来にはなかった考え方ですね。
 藤島 野菜や果物の国内産地は家庭用・生食用が中心で、政策的にも輸入対策は家庭用・生食用が中心でしたから、これは新しい視点だといえますね。

◆将来像を明確にした産地に重点的に支援を強化

 ――そういう意味で「国際競争力のある産地づくり」をする必要があるということですね。
 藤島 国境措置をせずに自給率を向上させる。加工品に対応することで自給率を向上させるという意味あいでの産地づくりということです。そうした産地づくりをする場合の中心的な考え方は、加工品中心ですから従来とは大きく違ってきます。
 一つは、生産力の強化を行なうために、将来的にこういう方策をとって輸入物に対抗するといった将来像を明らかにした産地への支援の重点化など産地の絞込みが必要だということです。
 もう一つは、価格安定制度を支援の重点化にあわせる形で見直す必要があります。つまり、加工・業務用出荷を重視している産地であるとか、契約取引を積極的に推進している産地であるとか、生産法人のように大型化を進めている生産者であるとか、そうした産地・生産者を育成できる価格安定制度も考えていかなければいけないと思います。

◆規模拡大・機械化で低コスト化をはかる

 ――国際競争力をつけるためには、コストの問題も避けて通れませんね。
 藤島 従来からの高付加価値化も進めていく必要がありますが、加工用で競争力をつけるためには低コスト化に重点をおいていかざるを得ません。報告書では「産地計画において、競争に耐え得るレベルに設定した価格を目標とした低コスト化戦略を位置付ける」と低コスト化を強調しています。
 具体的には、生産面では法人化を進めたり、認定農業者などによる大型化・機械化を進めることです。認定農業者に絞っていいのかは議論があるところですが、加工用・業務用と家庭用とを分けて考えると、加工用・業務用ではコストの問題もあり、ある程度、大型化しないと対応しきれないと思います。そのほか、規格の簡素化とか低コスト耐候性ハウスの活用などが考えられます。
 流通面では、報告書に書かれている以外にも、段ボールの複数回使用とか、通いコンテナの活用や包装・規格の簡素化など、低コスト化に向けた工夫が必要だと思いますね。一次加工したりする施設を設置するときには、産地側だけが利用するのではなく、卸売市場や量販店も共同利用できるようなものにし、それを行政が支援することも必要ではないかと私は考えています。

◆規格を統一したリレー出荷や加工業者への支援も

 ――加工用の生産を増やした場合、昨年のように台風などの影響で家庭用が逼迫したときにどうするかというような問題が起きませんか。
 藤島 台風など野菜がなくなったときに、冷凍など加工野菜があれば対応できますが、そうした在庫がないと輸入野菜が入り、それを契機に輸入が定着してしまいます。そうならないためにも、野菜加工業者への支援を行い、国内での生産量を増やすことが必要です。また、国内での加工野菜の生産量が増えないと、加工用野菜を生産しても販売先がないということになります。
 ――「安定的に供給することが野菜政策の根幹」とありますが、そのためにはリレー出荷などがイメージされているのでしょうか
 藤島 それも重要だと考えています。ただし、リレー出荷する場合に難しいのは、産地ごとに違う規格の統一ですね。輸入の場合には、輸入業者が「この規格で」と指示していますから、規格は一本になっています。これが輸入品の強みになっています。それに対抗するためには、消費地に施設をつくり複数の農協・産地が共同利用し、その施設が規格を統一するようなことも必要かも知れません。

◆加工用産地に転換できるような思い切った国の施策が必要

 ――いまの産地は家庭向け生食用中心ですが、それを加工用に転換するには、いろいろな問題があると思いますが。
 藤島 産地としては、従来とは異なる方法を取らざるを得ないわけですから、取れるような状況をどうやって国がつくりだせるかです。
 いまは、狭い面積の中で収益をあげるような生産をしています。それを加工用にするためには、いずれにしても規模を大きくし、低コスト化を進めねばなりません。さらに加工用野菜の販売先(冷凍食品工場など)を増やすことも必要です。それが可能となるような国や行政による支援が重要だと思います。さらには、冷凍野菜を加工する業者にも、国産野菜を使えば何らかのメリットが出るような支援も必要だと思います。それがなければ、どの産地も取り組まないと思います。
 しかし、加工用対策にシッカリ取り組まないと、輸入の加工品がどんどん増えて自給率は下がります。仮に生鮮野菜の輸入量が増えなくとも、加工野菜の輸入量が増えることによって、野菜全体の供給過剰は起こりますので、その場合には生鮮野菜の価格も下がることにもなると思います。
 そういう意味でも、この報告書の主旨にそい、この考え方に産地がついてこれるような国の思い切った施策が必要だと思います。

(2005.4.28)


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