農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
生産者・産地の思いを伝え、着実に消費者の支持が広がる
JA全農のお店吉祥寺がオープンして半年


JA全農のお店 吉祥寺

 販売力の強化をめざすJA全農が、「消費者のもっと近くに」を自ら実践し、販売のノウハウを蓄積することを目的に「JA全農のお店・吉祥寺」をオープンして半年が経った。東京でも比較的意識の高い消費者が多いといわれるこの地域で、国産ならではの安心感・鮮度・美味しさを提供する同店が、固定客をしっかりつかむことができたのかどうか。これまでの経過とこれからについて、御手洗辰夫店長に取材した。


◆多彩なイベントで集客 80万円売り上げる日も

 昨年12月10日のオープンから半年、久しぶりに訪れた店内は野菜や精肉、惣菜などのコーナーはほとんど変わっていないが、JA東京むさしと提携した「地場野菜」コーナーが入り口付近に設けられたり、宮崎産の日向夏やゴーヤなどを原料とした飲料水である「チカラ」シリーズが並べられるなど、いくつかの変化が見られた。
 また、この半年間に秋田・三重・宮崎・神奈川の県産フェア、和菓子のフェアなどいくつかのイベントにも積極的に取り組んできている。そして、それらのイベントで好評だった宮崎の飲料水や三重の伊勢茶などが、常時、店頭に並べられ売られている。さらに、6月には、鳥取や鹿児島県産のラッキョのつけ方の講習会、全農パールライス東日本の田んぼでの田植え体験、福島県産フェアなど、多彩なイベントが計画されている。
 この半年間でお店は地域の人たちにどう評価されているのだろうか。
 オープン当初の12月は別にして、今年の1月〜3月の来店客数は1日平均500人で売上げは50万円弱だったが、4月〜5月は、来店客数520人/日、55万円強/日と着実に増えてきている。売場面積から考えると「65万円/日まで伸ばしたい」とJA全農大消費地販売推進部の小野正部長はいうが、それは難しい数字ではない。なぜなら、県産フェアなどのイベント開催日には70〜80万円くらいの売上げがあるし、「フェアがなくても最近は60万円売り上げる日がある」(御手洗辰夫店長)からだ。

売上げの20%強は農産加工品 青果売場
売上げの20%強は農産加工品
青果売場

鮮度と品質・価格を重視する消費者

 「まだ半年ですから、地域に定着したかどうかは分かりません」と御手洗店長は慎重だが、この地域の消費者のニーズを的確につかんだ品揃えや価格設定をしていることが、着実に効果を発揮しているといえる。
 吉祥寺駅南口(井の頭公園側)の住宅地は中高年層が多く、商品を選択するときに、姿形ではなく「鮮度と品質・価格」を重視する。だから曲がったキュウリでも鮮度がよければ購入する。その反面、こだわり商品でも評価されなければ売れない。そうした消費者ニーズに応えるような品揃えをしている。
 そして、1人当たり購入アイテム数も当初の2.5くらいから3アイテムに増え、5月は5アイテムになったし、1人当たり売上額も3月までの1000円弱から5月には1100円/日に伸びた。

量販店のバイヤーも注目する県産フェア

一般販売ルートに乗っていない商品に量販店のバイヤーが関心を示す
一般販売ルートに乗っていない商品に量販店のバイヤーが関心を示す

 売上げの構成は、開店当初からメインにしている青果物が38%、精肉と米がそれぞれ13%、惣菜関係が15%、そして農産加工品が20%強となっている。農産加工品のウェイトが高いことが注目される。
 県産フェアの開催にあたっては、野菜だけではインパクトがないので、農産加工品を含めて総合的に考えてもらうように要請しているという。それは「全国のJAブランドで、営業ルートに乗っていない、埋もれている商品を掘り起こしたいから」だ。
 県産フェアやフェアで好評だった農産加工品を店頭に並べると、新しい商品を探している量販店などのバイヤーが見に来るという。そして、気に入れば産地へ問い合わせがいき、商談に発展することもある。そういう意味で、この店はJAのアンテナショップの役割を果たしていることになる。だから、JAや県の農産加工品担当者に「ぜひ、見に来て欲しいし、これから夏に向かうので、アイスクリームとかの商品提案をして欲しい」という。

◆こだわり食材求めるレストランとも

御手洗辰夫店長
御手洗辰夫店長

 御手洗店長は、全農大阪青果センターで約10年青果物の営業を担当してきた。いままでに扱ったアイテムは300くらいあるという。そうした商品知識を活かして、チェーン展開はしていないが、素材にこだわりをもつレストランへ食材を納入する仕事も始めた。
 全農の青果センターや畜産センターとレストランとをつなぐデポ(中継基地)としての役割を果たそうということだ。現在、1軒のレストランと取り引きが開始されたが、今後も「素材を総合的に提案して、こうした仕事を拡大していきたい」と考えている。
 
 オープンして半年、まだ多くの課題はあるが、国産農畜産物の良さを消費者にアピールし、その販売ノウハウを蓄積する本来の機能だけではなく、一般の販売ルートにまだ乗っていないJAブランドの農産加工品のアンテナショップとしての役割。チェーン展開はしていないが、食材にこだわりを持つレストランなどへ素材を総合的に提案する仕事など、店の機能は広がりをみせ、着実にその存在を認められつつある。
 「生産者や産地の思いを、確実に消費者に伝えていきたい」。そのことで、さまざまな課題を克服し、この店を成功させたいと御手洗店長は語ってくれた。全農では、吉祥寺に次ぐ第2の店を今年度中にはオープンしたいと考えている。そういう意味でも、吉祥寺の店のリーダーとしての役割がますます重要になってくるだろう。

(2005.6.9)


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