厚労省、農水省が今回、食品安全委員会に諮問したのは、米国内の規制と日本向け輸出プログラムよって管理された牛肉と、日本で流通している牛肉の安全リスクが同等かどうか、だ。
具体的には米国は(1)特定危険部位を全月齢から除去、(2)20か月齢以下の証明される牛由来の牛肉であることを政府が証明する「牛肉輸出証明プログラム」をつける、という措置をとるが、それが国産牛肉のBSE感染リスクと同等かどうかということである。
昨年4月から始まった牛肉貿易再開問題での日米協議では、日本側はBSE検査をしない米国の国内措置についての評価が困難と判断した。ただ、日米協議では米国の輸出証明プログラムの上乗せ措置などに12月に合意したため、そうした措置で流通する20か月齢以下の牛肉を対象として評価を求めたと厚労省は説明する。
背景にはもちろん国内で20か月齢以下は検査しないという変更がある。それは米国に対しても20か月齢以下の検査は求めないということになる。
ただし、厚労省は、国内対策の見直しを諮問したのは昨年5月。12月の日米合意の前だったことを強調し、「全頭検査は科学に基づいていない。科学的合理性に基づいて見直しが必要と考えていた」と説明する。
◆輸入再開急ぐ流れは公然の秘密
調査会では、まずこうした諮問そのものを食品安全委員会がどう考えるかについて議論があった。
諮問内容について委員会が検討できるか、という質問も出されたが寺田委員長は「リスク管理側と内容を検討すると、委員会が独立性を失うという批判が出るため、そうした検討はやってこなかった」としながらも今後については「今までやらなさすぎた」と語っている。
とくに議論になったのは、米国のBSE対策そのものが対象ではないことだ。
プリオン専門調査会の吉川座長は国内対策の見直しについての答申も「20か月齢以下の牛肉は安全と言ったわけではない」と指摘。と畜方法や飼料規制、サーベイランス体制などBSE対策全般の充実を前提とした答申だったと強調した。したがって、米国産牛肉につても対策全体が見えなければリスク評価はできないということだ。こうしたことから、調査会が結論を出せるのか疑問視する声もある。
また、金子座長代理が強調したのは食品安全委員会の「科学的評価」の受け止められた方だ。
「今回の諮問はリスク管理する側がはめた枠について限定的に評価するもの。そもそも米国の措置について評価するものではないことをはっきりさせる必要がある」などと指摘したうえで、かりに安全性が同等であると答申された場合、「科学的に評価されたのだから」と輸入を再開するのは問題があるとした。
理由は委員会の役割はリスク評価に限られているからだ。「なぜ、輸入するのかは、改めてリスク管理側の責任として国民に説明すべきだ」との意見も多く、寺田委員長も「答申後に国民とのリスクコミュニケーションをすべき」と強調した。
国民の間には委員会の科学的結論を「最後の砦」と受け止める気持ちもある。しかし、「政策の評価まではできない」(金子座長代理)、科学的評価はあくまで「政策決定のための一部にすぎない」(寺田委員長)とこの審議の性格が強調された。
また、委員のなかにはこれまでの国内対策の見直し審議について「米国を意識したことは一度もない」と言う委員もいるが、山内委員は、国内対策の見直しの後に「輸入再開のための条件を検討するという流れははっきりしている。公然の秘密ではないか。諮問の経緯について説明不足では信頼を失う」と指摘した。これは多くの国民の気持ちを反映したものだろう。
独立した機関としての食品安全委員会の役割と、農水、厚労省のリスク管理の責任を改めて問うことから審議は始まった。国民が納得できる審議が期待されている。
◆全頭検査の継続を ―米国の消費者運動家が訴える
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5月21日には「BSE問題緊急フォーラム」
が開かれた |
国内のBSE検査体制の見直しと輸入再開に向けて議論が進むなか、5月21日に開かれた「BSE問題緊急フォーラム」(全国食健連主催)では、米国の消費者運動家、ロドニー・レオナルド氏(写真上・右)が「予防原則に立つ全頭検査こそ正しい」と全頭検査継続を日本の生産者、消費者に訴えた。
レオナルド氏は、基本的に米国は健康リスクに目をつぶった政策をとり、リスクを消費者に押し付け、食肉産業が儲けるという構図になっていると批判した。日本や韓国に輸入再開を迫る理由も「産業界の強欲さ」であって、両国への輸出再開で20億ドルの儲けが増大すると見込み、「しかし、それは日本と韓国にリスクを押し付けること」と指摘した。
また、米国でも食肉検査官がいるが「現場で検査を行っているのではなく、食肉工場が米国政府の方針を守っているという前提で、確認と証明のみ行っているもの。日本のように100%検査しないのに、すべて安全だと証明できるのか」と実情を話した。
会場からは米国では安全・安心に関心があるのかという質問も出たが、「米国では生産者の顔が見えない。どんどん食料が機械的に生産されるようになって安心を求める気持ちは日本よりも強いのではないか」と話し、最近は都市近郊に農場が増えてきており、そこで生産される農産物が都市住民に歓迎されていることも紹介した。
輸入再開の条件は「両国が全頭検査を行うのが最善の方法。米国の消費者運動にとっていちばん頼りになるのが日本の運動」などと強調した。
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