バイオエタノール用原料需要の急激な増大や途上国の経済発展などによって世界の食料情勢が大きく変化しているが、その変化を把握、分析するために設置された農水省の国際食料問題研究会は、4月10日の会合で人口大国、中国とインドの食料需給の情勢について意見交換した。
世界人口の4割を占める中国とインドは、今後の急速な経済成長が見込まれており、その動向は世界の食料危機の引き金となりかねないという声もあるが、まずは実態を知ることが重要になる。ここでは農水省が研究会に提出した両国の農業生産と食生活事情などのデータを紹介する。 |
中 国
◆人口増加率は低下
中国の13億2000万人(04年)で世界人口の21%を占める。農業人口は64%。ただし、1979年に「一人っ子政策」を実施したことにより人口増加率は80年代から90年代までは前年比1%台だったが、2000年以降1%を下回り徐々に低下してきた。
予測では2030年頃の14億人程度をピークにその後は人口減少社会に転じるとされている。
(図1)
しかし、農村部では労働力確保、老後の安定のために罰則を恐れ戸籍登録のない子どもを産む傾向があることから、国が把握している以上の人口という可能性もあるという。また、04年以降、上海では一人っ子どうしの結婚では2人めを産んでもよいなど産児制限が緩和されている。
◆コメの消費が減少傾向
1人1日あたりの供給カロリーは1970年の2013kcalから03年には2872kcalと増加しているが最近は伸び率が鈍化。2900kcal弱で頭打ちになっていると考えられている。日本人は1人2748kcalだ(17年度。酒類含む総計)
1985年に米は供給カロリーのうち985kcalを占めていたが、03年には79kcalへと減少。替わって畜産物は同期間に198kcalから549kcalへと2.8倍増えた。油脂類も2.5倍増えている。(図2)
所得向上にともない、畜産物のなかで需要が大幅に伸びているのが豚肉だ。1人あたりの年間消費量は1990年には20kgだったのが03年には35kgとなっている。日本人では1年間約12kg(17年度)だから3倍近い消費量になる。所得向上にともなって鶏肉と牛肉の需要も伸びたが近年では頭打ち。(図3)年間消費量は牛肉5kg、鶏肉11kgで日本人とほぼ同水準となっている。
中国では経済発展にともなう外国との交流が活発になるなか、宗教的制約もないことから各国のファストフード店やコンビニが多数進出、農水省の調べではケンタッキーフライドチキンが1700店、マクドナルドが760店、セブンイレブンが1100店出店しているという。
◆進むジャポニカ種への転換
穀物生産は北部(華北と東北)ではとうもころし、南部(華東、西南、中南)は米の生産が盛んで、小麦は東北を除いた全域で生産されている。
穀物生産量は04年度で4億1300万トン。このうち米は約1億8000万トン(籾)になる。品種は多収量のインディカ種が主体だったが、食味のいいジャポニカ種の導入も進み中国全土で4200万トンの生産量になった(03年)。全生産量の26%を占める。とくに北部の黒竜江省や吉林省では100%ジャポニカ種を作付けており両省合わせて1100万トンの生産量になる。
このほかジャポニカ種の生産量が100万トン以上の省が7省ある。
ただ、中国の農地面積は1996年から05年の9年間で日本の農地面積の1.7倍にあたる約800万ヘクタールが減少したとされる。05年の中国農業部の統計では1億2200万haとなっている。
とくに灌漑設備が整い、年に複数回作付けができる農地が多い東南部での減少が目立っており、工業用地への転用と食料価格の低迷による農民の意欲減退などが農地面積減少の原因といわれている。
単収はハイブリッド種の導入、灌漑面積の拡大、肥料の投入などで増加し、1980年代には米で年率4.3%、小麦で2.8%の伸び率を実現したが、2000年代になってからは米が2.0%、小麦はマイナス0.2%と鈍化している。
◆需要拡大品目の生産強化
経済発展にともなう食生活の変化に対応して、中国では油脂類(パーム油と大豆油)と魚介類の輸入が増加している。大豆の輸入量は01年度の1000万トンから07年度は3100万トンを超え大豆の最大輸入国なった。
一方、食料輸出も増加している。これは日本向けの魚介類と野菜の輸出が増えているためで、魚介類輸出額43億6000万ドルのうち、日本がトップの27億8000万ドルになる。野菜も輸出額30億ドルのうち、日本向けが10億ドルを占める(05年度)。
こうした食生活の変化が進むなかでも農水省によると、油脂類と大豆は自給率が50%、43%と低下しているが、穀物、野菜、果実、また畜産物でも自給率は100%程度を保っているという。
また、中国政府はWTO加盟など国際化に対応するため(1)耕地と作付け面積維持による食料自給の堅持、(2)畜産物など需要拡大が見込まれる品目の生産拡大、(3)野菜など高付加価値農産物の輸出拡大など、2010年を目標年次とした第11次国家5か年計画を06年に決めている。
中国の食料・農業政策は省ごとにあらゆる品目を自給するという方針だったが、この計画では需要拡大見込まれる畜産物や小麦、果樹などの品目については省を越えて国全体で適地適作を推進する政策に転換したという。
イ ン ド
◆人口増加続くインド
インドの人口は10億8000万人で世界人口の17%を占める。総人口のうち農業人口は52%。
1980年代以降、人口抑制強化がタブー視され中国のような厳格な産児制限は実施されていないため、人口は増加を続け、2050年には17億人と世界一になると予想されている。(図4)
北西部は小麦の生産が多くチャパティーなどのパン類が主食で、米の生産が多い南東部は米飯が主食。中部は米と小麦を主食としている。
人口の8割、8億3000万人の人々はヒンズー教徒でそのうち約2億人が菜食主義者だという。非菜食主義者であっても肉食は週に1度以下が多いのだという。ヒンズー教では牛は「聖なる牛」とされおり食べることはなく、また、豚はヒンズー教、イスラム教ともに不浄な動物とされることから基本的に食べることはない。
こうした宗教上の制約を反映して所得水準は向上したものの、牛肉、豚肉の需要はほぼ横ばいで伸びていない。消費量が伸びたのは高級品とされる鶏肉だ。(図5)
1人1日当たりの供給カロリーは1985年の2143kcalから03年には2460kcalまで増加した。この間、米の消費量は95年をピークに減少し始めている。その一方で油脂類が増加していると考えられている。(図6)
◆輸入少なく高い自給率
インドの穀物生産量は最近では2億4000万トン程度で推移している。
緑の革命による高収量品種の導入や化学肥料の投入で単収は増加したが、2000年代に入り鈍化、小麦では年率0%、米ではマイナス0.7%だという。
ただ、食料輸入は少なく穀物、畜産物、魚介類など主要食料はほとんど輸入していない。食生活の変化で輸入が増えた油脂類では自給率68%と低下したが、主要品目は100%水準を維持しているとみられている。
インドには国が最低支持価格により米、小麦、砂糖、食用油などの対象品目を無制限に買い入れる「公的分配システム」がある。1990年代には買い入れ価格を引き上げた結果、政府の在庫が膨らみ財政負担も増したため、輸出も含めて大量に市場に放出した。その後、買い入れ価格を引き下げたために在庫が縮減し、米・麦の輸出は減少。農水省は、インドが世界の食料需給にどのような影響を与えるかは、この公的分配システムの運用が大きな要因となるとしている。
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