「JA米」への取り組みをはじめとしてJAグループは生産者とともに市場ニーズにあった売れる米づくりの努力をしている。さらに最近、産地JAでしばしば聞かれるのが統一した栽培方法による米づくり。均質な米の安定供給によって実需者の評価を高めようという動きが盛んだ。
ただ、ほ場によって地力などの条件に違いもあり地域全体で品質向上、均質性を実現するにはほ場条件を十分に把握しておくことも求められるのではないか。
農地利用の集積による大規模化や集落営農の組織化などが進むなか、どう広域で米づくりを管理するか。その技術のひとつとしてITを活用した「日本型水稲精密農業」がある。これまでの研究成果と実用化に向けた課題などを探った。 |
日本型水稲精密農業が実用化へ
◆広域管理がコンセプト
この技術開発を手がけてきたのは、(独)農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術支援センター。
同センターが提唱したのが「日本型水稲精密農業」で、これはほ場一筆を管理単位とする「広域管理方式」での米づくりをめざすもの。精密農業という考え方はこれまでもあったが、それは一枚のほ場内の地力むらに着目して、局所的に施肥管理などを補正していくことを指した。
しかし、米価下落のなか大規模化してコストダウンを図り、さらに品質向上も追求していくには、管理するレベルをほ場内ではなく集落、あるいは地域にまで引き上げる必要がある。同センターの西村さんは「生産者、産地が望む戦略的な売れる米づくり、あるいは売り切れる米づくりに向けた品質管理をどう実現するか」が開発の狙いだったという。
ほ場ごとの生産特性をつかみそれに応じた施肥を行うのは何も目新しいことではない。ただし、同センターがめざした広域管理のためには、データがしっかり収集できて活用できるシステムが必要だった。
そこでほ場一筆ごとの条件をデータとして得るためにまず開発されたのが収量コンバインだ。
このコンバインは収穫作業と同時に収量や水分などを測定する。ほ場番号や面積などのデータがあらかじめ入力されており、ほ場ごとの生産特性が把握できる。また、サンプルを採取してタンパク含量を測定して品質を比較、確認する。
可変施肥機も開発した。収量コンバインで得られた収量、品質データに基づき、翌年の施肥量をほ場を移動するごとに変えられるようセットしたうえで作業をすることができる。
また、ほ場情報を管理し、得られたデータを実際の米づくりに役立てるための地図情報(GIS)とリンクした情報システムも開発した。
◆均一な米づくりを達成
こうした機械やシステムを開発したうえで、平成15年から18年まで新潟と宮城でJA、生産者などと協力して実証試験を行った。
その成果のひとつが図1と図2である。
いずれもタテ軸がタンパク含量、ヨコ軸が収量だ。宮城県の大規模農家のデータで45ヘクタールを経営している。このうち100筆を選びグラフ上に記した。品種はひとめぼれで図1は16年度の結果である。収量とタンパク含有量にかなりのばらつきがあることが示されている。右上方向に記された点は収量も多いがタンパク含有量も高いほ場で減肥の必要があるということになり、左下方向に点で記されたほ場はその逆ということになる。
このデータをもとに可変施肥機を使って、17年産では見直しが必要と思われるほ場については営農指導員や土壌専門家と協議して生産者に施肥設計を変えてもらった。その結果を示したのが図2だ。施肥設計を見直すことによってほ場間のばらつきが小さくなっていることが分かる。
「収量とタンパク含有量というもっとも基本的なデータが得られれば、大規模農家でも肥培管理の精度を高めることができ品質の安定した米づくりに役立つことが分かった」と西村さんは話す。
◆収穫適期・品質予測も
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ほ場のなかで生育情報を
測定できる携帯型装置も開発 |
人工衛星や航空機からの画像データをもとに収穫適期や品質を予測する技術も一部のJAなどで活用されている。同センターの今回の研究では生育情報の測定装置として小型軽量の携帯型(写真)と無人ヘリ搭載型を開発した。
携帯型は入射する太陽光とイネから反射される光の強度を同時測定し、その違いから生育指数を算出するもの。これまでの測定結果から、装置が算出した生育指数がイネの葉の窒素含有量に高い相関を示すことが明らかになっている。
実証試験では、生育期に定期的にデータを収集することで測定値から籾数を推定し収穫適期が判定できるという。高品質な状態での収穫によって適正な水分の籾がカントリー・エレベーターなどに搬入されることになり乾燥施設の負担軽減にもつながることが期待できるし、施設の計画的な利用もできる。
ただし、収穫前の品質予測にはまだ課題が多いという。センサーの算出する生育指数がイネの葉の窒素含有量と相関を示しても、それは玄米のタンパク含有量など品質との関係を必ずしも示すものではないらしい。収穫前にほ場段階で食味まで予測する技術は可能なのか。
「タンパク含量は天候などの要因が絡むため収穫前の正確な予測は難しく絶対値は示せない。ただ、ほ場を相対的にランクづけして集荷の際に区分する目安としては活用できそう」。
携帯型は人工衛星や航空機などを利用した画像分析よりもコストはかからない技術で人間がほ場に入れば手軽に測定できる。ただし、生育期間中に複数回、全ほ場を対象にして測定するのは実際は困難。当面は地力別に限定したほ場での調査や、人工衛星・航空機といった広域リモートセンシング技術との併用が現実的と西村さんたちも考えている。
今回の実証試験ではほ場ごとの収量とタンパク含有量が把握できる技術があれば広域でも肥培管理による品質の均一化が可能であることを示した。協力した生産者の米は実際に実需者の評価が高まり、販路も広がったという。
そのうえで図1と2をもう一度眺めてみると、図上にばらつく点を「ほ場一筆」ではなく「集落」だと考えてもいいのではないか。西村さんによると今回の実証試験で施肥設計を見直しても、結局、収量や品質に変化がなかったほ場もあったという。
「栽培法の統一化ではなく、そうしたほ場、あるいは集落では、むしろ品種の変更こそ重要になるのかもしれない。多様なニーズに機動的に応える米産地づくりの技術として活用されれば」と西村さん。まずは収量コンバインが20年産から市場に投入できるようメーカーでは準備を進めているという。