品目横断的経営安定対策、新たな米政策など農政の大きな転換にあたってJAグループは現場の実態をふまえた検証のうえ進める必要があるとしてきたが、農政転換の初年度となった今年、米価下落に象徴される大きな不安が生産現場には広がる事態となった。
JAグループはこうした現場の声をもとに今年秋から米政策、品目横断的経営安定対策などをめぐって、生産調整の実効性確保に必要なメリット措置や国の役割と責任の強化、多様な担い手を政策対象にできる要件の見直しなどを項目とした政策要請運動に取り組んできた。これを受けて政府・与党でも検討が進み、このほど19年度補正予算も含む関連対策が決まった。対策の内容と今後のJAグループの方針についてJA全中の一箭水田農業対策課長に解説してもらった。 |
JAグループの政策要請活動と
米政策・品目横断的経営安定対策の見直し
◆計画生産の徹底と水田農業の発展に活用を
19年度から品目横断的経営安定対策と新たな米政策が実施に移された。
今年度は、その導入初年度だったわけだが、生産現場からは、たとえば、品目横断的経営安定対策の複雑さについてや、昨年までの対策に比べて、手取りが期待していた水準には達していないなど、この新しい政策の導入をめぐって懸念や不満が出てきた。また、この政策の対象とされる担い手になろうにも面積要件などのハードルが高くそもそも担い手になれないではないかなどの声も出ていた。
一方、米政策では農業者、農業者団体が主体となって生産調整を行うという新システムに移行し計画生産をめざしたが、残念ながら、需要減等の環境もあり生産は過剰基調となり米価が大幅に下がってしまった。
この米政策についても生産現場から見直しへ要望が高まり、JAグループとして「米政策・品目横断的経営安定対策」について必要な見直しを求め、10月以降、考え方を整理して与党・政府への要請活動を行ってきた。
もちろん、自由民主党も10月中旬以降、農業基本政策小委員会を中心にこれらの政策の見直しについて精力的、集中的な検討を行い、その検討に合わせてわれわれJAグループも要請事項の絞り込みを行うとともに、節目で代表者集会の開催や、党幹部、さらに農水大臣、財務大臣を含む政府関係者への要請活動を行ってきた。こうした要請活動には全国段階のみではなく県段階、JA段階でも取り組んできたところである。
その結果、12月20日に「米政策・品目横断的経営安定対策の見直しに係る関連予算・対策」が決定された。
関連対策の内容や予算措置の規模については、厳しい財政事情のなかでわれわれの懸念や要望に応えてもらった内容・水準であり、今後の米の計画生産や水田農業の発展につながる支援になるだろうと考えている。
今後は、決定した生産調整実施者へのメリット対策、品目横断的経営安定対策の要件見直し、支援措置の充実などを十分に活用して、計画生産、また担い手づくりをいかに推進していくかがJAグループの課題になる。そのためにJAグループの方針を早急に決定し組織をあげた取り組みをするべく、平成20年1月17日の水田農業対策委員会、都道府県中央会・全国機関会長会議で方針を決定し、全国で取り組みを徹底していきたい。
今回は生産現場からとくに要望の強かった米の生産調整に係る行政、すなわち国、県、市町村の関与の強化についても関連対策のなかで改めて推進方策が示されている。
この点はこれまでと異なるものであり、生産調整について行政がもう一歩前に出て、生産調整非協力者、あるいは非協力者から集荷している業者に対する指導の強化を含め、生産調整の実効確保に向けた行政の責任と関与の強化を求める農業者の要請に応えたものであり、20年産から生産者、JAグループとして行政との連携のうえ計画生産の達成に全力を上げていきたい。JAグループとしてもこの取り組みが需給安定と稲作経営の安定につながることになると考えている。
飼料用米生産への支援など生産調整メリットを生かす
◆生産調整の定着化を支援
今回の対策は大きく分けて(1)米の生産調整実施者支援充実対策、(2)米価下落緊急対策、(3)先進的小麦生産等緊急支援対策からなる。
このうち生産調整実施者への支援充実対策では「地域水田農業活性化緊急対策」がもっとも大きな柱となっており、対策額合計1111億円のうち500億円を占める。
これは19年産の生産過剰分の7万ha、米の需要減にともなう20年産生産目標数量削減分の約3万haを合わせた10万ha相当の生産調整を実施するための緊急支援対策であると理解している。
具体的には2つのメニューが提示されている。
1つは、麦・大豆・飼料作物、あるいはソバ、ナタネ、野菜なども含めた地域振興作物の作付けによって、生産調整面積をさらに拡大する生産者について、5年間、この取り組みを実施するという契約を結ぶ前提で「長期生産調整実施者緊急一時金」を支払うもの。これまで生産調整を実施し目標を達成してきた生産者には10aあたり5万円、生産調整に協力していなかった生産者には同3万円が交付される。
2つめのメニューは、飼料用米を含む非主食用米による生産調整拡大に対する緊急一時金である。対象作物は飼料用米のほか、バイオエタノール原料米、米粉用米などで、これによる生産調整拡大を3年間実施するという契約を結ぶ前提で10aあたり5万円が交付される。
いずれも20年産について1回限り交付される「踏み切り料」とされており、この2つのメニューからいずれかを選択して生産調整面積の拡大を図ることになる。ただし、具体的にこれらのメニューをどちらを選ぶか、あるいはどんな割合で組み合わせるかなど、求められる生産調整の実効性確保のためにどのような作物を作付けるかは各地域ごとの地域水田農業推進協議会で決定していくこととされている。JAグループとしても実施のためのスキームづくりや必要な支援対策も今後、提起していく方針だが、この緊急対策を活用して計画生産の達成に全力を挙げていきたいと考えている。
◆米価下落対策も充実
生産調整実施者の支援策としてはほかにも、麦・大豆の作付けの過去実績がない生産者について、麦・大豆による生産調整拡大に取り組んだ場合には、当該拡大部分について支援(いわゆるゲタなし)する仕組みも措置された。
また、麦・大豆等による生産調整面積の増加にともなう品目横断的経営安定対策のうちの生産条件不利補正対策(ゲタ対策)も175億円が措置された。これは麦・大豆作付けによる同対策への加入が19年度当初の加入見込みよりも多かったため、および20年度の麦・大豆作付の拡大分に対応した措置である。
米価下落緊急対策では、いわゆるナラシ対策(収入減少影響緩和対策)について、米価の下落幅が10%を超えた場合には、生産者の拠出なしで補てんを措置してもらう対策も決まったほか、品目横断的経営安定対策に加入していない生産調整協力者に対しても、同様の米価下落対策として稲作構造改革促進交付金が措置された。
来年1月にJAグループの取り組み方針を確認
◆政策見直しとJAグループの役割
また、小麦主産地緊急支援対策とてん菜主産地緊急支援対策が措置された。
近年、生産性を向上させている地域では、今年度から導入された品目横断的経営安定対策の緑ゲタの支払い額が昨年までの対策に比べてその水準が大幅に落ちたという状況があり、それに対する緊急支援ということである。
そのほか麦、大豆の豊作により、播種前契約によって結んだ数量を大幅に超えた生産部分について黄ゲタが支払われないという問題についても19年度予算のなかで対応することも決まった(追加契約麦流通円滑化対策)。
同時に、品目横断的経営安定対策の面積要件を見直し、水田農業ビジョンに位置づけられている認定農業者や集落営農組織にも加入の道を開く市町村特認制度の創設と認定農業者の年齢制限の廃止・弾力化などの見直しも行われた。
生産者への交付金支払いの一本化と申請手続きの簡素化も行われる。
交付金支払いの一本化については、緑ゲタ、黄ゲタの支払い時期を大幅に前倒しし、麦でいえば緑ゲタは出来秋の7月から8月の支払いになり、黄ゲタについても翌年の3月までに支払われる制度だったが、今後は年内に支払われるように見直された。
これについてはJAグループとして立て替え払い実施の要請を受けたため、年内に政府から支払われる黄ゲタ相当分について緑ゲタと同時期、7月〜8月に生産者に一括して振り込めるように立て替え払いに取り組み、生産者の資金繰りに対応していきたい。
農協系統に対する要請としては経済事業に係る資材価格等の引き下げもあり、JAグループとしてこれまで取り組んできた計画的なコスト削減に引き続き強力に取り組みたい。
いずれにしても米については主食用の需要が減退していくというトレンドには変わりはなく、そのなかで水田農業を維持し、安定的に所得を確保するためには主食用米以外の作物を定着させて振興させていく以外にはない。
今回の関連対策を十分活用し、中長期的に米以外の作物を振興して行く取り組みが不可欠であり、あわせて低コスト化に向けた取り組みや、主食用米の生産調整による需給と価格の安定につとめていかなくてはならないと考えている。