農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事
 
規制改革会議答申にJAグループが反論


  政府の規制改革・民間開放推進会議は昨年12月27日、第三次答申をとりまとめた。答申では農業分野についても、「改革と競争を通じたオープンで公正な経済社会の実現」の項目で取り上げられ、認定農業者制度、農地制度、農業委員会制度とあわせ、農協についても内部管理態勢の強化、不公正な取引方法への対応強化、農協経営の透明性確保などについて具体的施策が記述されている。しかし、最終答申のとりまとめまで、農水省など関係省庁との答申案協議の経過が一切明らかにされず、また、その記述が農業・農協について最近の変化や実態をふまえていない点も多いとして、JAグループは1月18日の全中理事会で答申に対する「反論」をまとめた。政府は26日に新たな組織として「規制改革会議」を設置し、6月を目途に規制改革に関する「新3か年計画」を策定する方針だが、JAグループでは公正な見地からの検討やJAグループの意思反映に取り組むことにしている。

規制改革・民間開放推進会議第三次答申に対するJAグループの反論(総論要旨)
■構造改革が進まないのは現在の農業政策や農協に原因があるとの考え方に一貫して立脚。農協に対する嫌悪感をあらわにした記述も散見、到底容認できる内容ではない。農業分野に関する記述の意図、偏見は明らか。
■市場原理主義による規制撤廃だけを単純に論ずるべきではない。食料自給率の向上、安全・安心な食料の安定供給、農業の果たす多面的機能をふまえて論ずるべき。今回の答申で示された認識は協同組合運動に対する悪意に満ちたものと受け止めざるを得ず大変残念。
■協議内容が実質非公開。透明性が欠落、現代的な意志決定プロセスとは評し難い。委員の選定も偏向、バランス感覚を持って議論されたとは到底思えないことも大きな問題。全般的かつ公正な見地から日本農業をよく理解している委員を選出するなど、関係者の意見を十分反映した検討体制とすべき。

◆一部の有識者の意見反映

 第三次答申では、まず「今後の規制改革の推進に向けた課題」として同会議の基本認識が記述され、農業分野も課題のひとつに取り上げられている。また、答申後半の分野ごとの記述では、同会議としての主張である「問題意識」と政府として実施すべき事項とした「具体的施策」からなる2部構成となっている。
 「具体的施策」については関係省庁の協議事項となっているが、一方、その前段である「問題意識」部分は関係省庁との協議の対象外とされ、同会議自身の主張が盛り込まれている。
 しかし、JAグループは、この問題意識とは具体的施策の前提となる考え方であり、この部分について関係省庁やJAグループなど民間団体との協議やヒアリングなどをまったく行わずに、一部の有識者の考え方のみを反映しているのは問題だと強調している。一昨年の第二次答申のとりまとめまでには、農水省との公開討論会、全中・全農からのヒアリングなどが実施されたことにくらべると、大きな違いがあり、広範な関係者の意見などをふまえるべきだと主張している。
 具体的な記述で問題視しているのは、たとえば、農業は「手厚い国境措置や価格支持政策が維持されてきたため〜、構造改革が大幅に遅れた」の部分。
 これに対してJAグループは、ウルグアイ・ラウンド合意による「例外なき関税化」によって、内外価格差をそのまま関税に置き換える算定によって関税化した結果、ごくわずかな品目で高関税品目が残った。平均関税率12%と諸外国にくらべても極めて低水準であるという実態が「意図的に見過ごされている」、と反論し、食料自給率の向上、食料の安定供給の観点から適切な国境措置の水準は今後とも維持する必要がある、と主張している。
 価格支持政策についてもウルグアイ・ラウンド合意以降、順次改革が行われ現在では価格支持によらない緑の政策等によって措置されており、米国やEU以上に改革が進められている、と指摘している。
 また、農協については独占禁止法に関連して「一部の農協において〜不当な圧力の行使が未だに行われているのではないかという疑念が払拭し難い状況」、「このような状況を放置すれば農業の活性化、農業経営者の育成に対しても悪影響を与えることになると言っても過言ではない」と記述されている。

◆実態認識に大きなズレ

 これに対しては、独占禁止法違反が多いとはいえない状況で、JAグループでは役職員に対する周知徹底に努めているなか「疑念が払拭し難い」とは一方的な見解、担い手づくり・支援を軸とした地域農業振興を掲げ組織を挙げて取り組みを実践しているにも関わらず「過言ではない」とは極めて心外である、と反論している。
 そのほか答申では「産業としての自立・競争力の向上をめざすためには国や農業団体の関与を最小限にし、イノベーションの創造や新たなビジネスモデルの出現を促す環境整備が急務」との記述もあるが、JAグループは、農業者で構成する農業団体が農業政策の立案・決定・実践の各過程に関与するのは責務、他のアジア諸国と同様、小規模・零細な家族経営が特徴であり、農業者が農業団体に結集し協同の取り組みを行ってこそイノベーションの創造や新たなビジネスモデルの出現が可能となるなどと反論している。
 こうした具体的な記述についてJAグループは総論として、「農協に対する嫌悪をあらわにした記述も散見されるなど、農業分野に関する記述の意図や偏見は明らか」、「協同組合運動に対する悪意に満ちたものと受け止めざるを得ず大変残念」などと、強く指摘し、協議の透明性が欠落している点と合わせ、今後、日本農業をよく理解している委員の選出などバランス感覚をもった議論が必要だとしている。
 同時に全国大会決議の実践による自らの改革と農業、地域社会に役割を果たしていくことも強調した。
 今後、新たな規制改革会議での協議動向が注目されるが、一方で日本農業、協同組合をめぐる実態をふまえた本格的な議論が望まれる。

◆前向きに「論陣」の構築を

【増田佳昭滋賀県立大学助教授】
 答申では意欲ある農業経営者のための競争条件の整備、という考え方が改めて前面に出てきている。意欲ある農業経営者をめぐってはその理念、実態をめぐって今後も対立があるだろう。
 今回の答申をみると「全国に点在する意欲ある農業経営者」との記述がある。かりに「点在」しかしていないのであれば日本農業は明るくないということになる。実際は多様な農業者が存在しJAグループもそこを支援してきているはずだ。競争の機会を整備することは必要だろうが、それは限られた農業経営者を選別して育成することではなく、多様な農業者が成長できるようにすべきだろう。
 こうした点にこそ反論をし、農業経営者を限定するというこの答申の発想では、日本農業の将来像は描けないはずだ、と前提になっている考え方に現場実態をつかんでいるJAグループはまずきちんとクギを刺しておく必要があるのではないか。
 つまり、日本の農業の現状についての危機感をもっと持ち、どういう規制改革のあり方があるのかと、国民的な議論をしていくべきだろう。そのリーダーシップをJAグループがとるというスタンスで前向きに議論をしていくことが望まれる。
 各地のJAは農業以外にも福祉、医療などの面で地域社会に貢献してきている面もある。そこに自信を持って反論から、今後の日本農業と農協の役割について「論陣」を張る取り組みが求められるのではないか。

(2007.2.7)
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