農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

地域の協同活動からJA生活活動の再構築を
3月末に報告書 JA生活活動研究会



 第24回JA全国大会決議では「くらしと地域を支える事業の仕組みづくりと担当者の育成」を掲げ中央会は体制づくりのための検討を始めるとした。これを受けて今年1月にJA全中に「JA生活活動研究会」(座長:石田正昭三重大学生物資源学部教授)が発足、2月までに4回会合し、今月の会合を経て月末に報告書をまとめる予定だ。報告書では「生活活動の見直しはJAの存在意義の問い直しにつながる」との提言も盛り込まれる。これまでの議論のポイントをまとめてみた。

◆位置づけの明確化を

 JAの「生活事業」は「収支が明確な生活購買事業」(とりまとめ案より)であり、一方、「生活活動」とは「女性部支援活動など組合員・地域住民へ満足を提供する取り組み」(同)と一般的には整理されてきた。
 前者は葬祭、旅行、介護、生活資材購買などの事業であり、後者には女性部を中心とした助け合い活動や料理教室などの文化的活動、環境保全活動などだろう。
 しかし、研究会ではこのふたつの領域はあいまいで、同じ取り組みであってもJAによって生活事業とすることもあれば、生活活動と呼んでいることもあるとして、「生活活動の位置づけの明確化が求められている」との議論になった。
 その点を明確にするために「生活事業」という一括りの名称を廃止し、それぞれ葬祭事業、加工事業など個別事業名とすべきではないか、との提言も検討されている。
 そうすることで「これから求められる生活活動とは何か」をより明確にする考えだ。

◆「両輪論」も議論に

 生活活動は昭和45年にJAグループが打ち出した「生活基本構想」で営農活動と並んでJAの原点となる活動として位置づけられている。報告書では、当時は8割以上が農家という集落が全体の半数で、非農家が9割以上という集落はわずか3%に過ぎなかった時代であり、「農家のくらし」を営農活動と生活活動で支えるという考え方に違和感はなかったと指摘。実際、「営農」と「生活」はJAにとって「車の両輪」だとする考え方もよく聞く。
 しかし、現在、農家が8割以上の集落は10%を切り、一方で9割以上が非農家という集落が20%を占める。研究会では今後の生活活動を検討するにあたって、この「両輪論」をめぐる議論もあった。
 組合員の家計ですら今や農外収入中心になっているような地域では「両輪論は時代に合わず」、営農よりも生活ニーズを満たす事業を地域に浸透させることをJAは柱にすべきではないか、といった指摘があった。
 しかし、農業が盛んな地域は現にあり、そこではたとえば高齢者介護という「生活」支援は介護の負担を少しでも減らし家族が「営農」に専念できるような支えとして、まさに「両輪」となっている現実を指摘する意見も。現在の集落の状況を平均的みれば、「営農か、生活か」、という単純な議論になりがちだが、そこに陥ることなく、むしろ農業が盛んな地域でも生活活動は重要になっている、と提起をしていく視点も必要だとの意見だ。
 さらに、混住化の進行という集落の変容だけが問題なのではなく、この間に、消滅の危機にさらされている限界集落が増えてきた実態も見据えるべきだとの意見もあった。そうした地域では両輪論の是非どころか、JAがそもそも地域に関わっていこうとしているのかどうかこそが問われている、「暮らしを守る」という役割をJAは今こそ全面に打ち出すべきだという考え方も示された。
 石田座長はこうした議論をふまえてJAの役割の前提を「暮らしを守る」とし、そのなかには「営農」も含まれると整理してはどうかと提起した。

◆コミュニティがキーワード

 研究会では「暮らしを守る」活動がJAの役割として重要になっている背景として「コミュニティの衰退」をあげる。
 コミュニティという言葉は分かりにくいとの声もあったが、「結」(ゆい)など人と人とのつながりで課題を解決するような人々のまとまりをコミュニティだとすれば混住化の進行や過疎化でそれは衰退、あるいは崩壊しかけているのは事実。逆に多様な価値観を持つ人が暮らすのが地域社会であることを今後は前提としなければならないが、そうなると願いやニーズはますます多様化することになる。
 報告書案では、こう整理したうえで、その多様化する願いやニーズを行政や企業だけで実現できるのかと疑問を投げかけ、「協同活動」による実現が必要とされる分野も増えてくるのではないかとしている。
 石田座長は「極端に言えば、コミュニティが維持されているときにはコーポラティブ(協同組合)は必要がなく、コミュニティが傷ついてきたときこそに求められる」とも話した。
 こうした議論をふまえて「JAの生活活動を見直すことは、地域社会に暮らす人々に何を貢献できるかというJAの存在意義を問い直すことにつながる」と提起する。

◆目標設定など実践への課題も

 もちろん研究会は、このようにJAにとって生活活動の必要性を示すだけでなく、実際の活動・事業、体制づくりまで提言することを目的としている。
 実際の活動・事業の姿としてキーワードになっているのがコミュニティ・ビジネスだ。農産物直売や加工、高齢者福祉などすでに多くのJAで事業化されているものには、組合員の自主的な活動から始まり事業化されていったものも多い。地域に根ざした「活動」から「事業」が生まれる、こうしたコミュニティ・ビジネスは、組合員・地域住民の願いやニーズに応えるばかりか、雇用創出、生きがいづくりなど活性化ももたらす、とする。その実現のためには、今後は少数の組合員が始める小さな協同活動や、あるいは地域で活動するNPOなどとの連携も重要になるとの指摘も出ている。
 JAの強みをどう発揮するか、が生活活動の見直しとJAの組織・事業基盤の強化につながるとの認識だ。
 一方でJAが取り組むべき生活活動・事業化の範囲、活動のための財源、人材配置などの体制づくりといった点では実践にあたって多くの検討課題がありそうだ。
 研究会ではたとえば財源について、生活活動が、新たな組合員加入促進や事業利用増加を目的にしたものであれば、JAの事業全体で経費を負担すべきとの意見も出ている。また、体制についても生活活動を担当する部署をJAの経営全体に関わるものとするため、総合企画部署に設置すべきとの指摘もある。とくにこれまで生活活動、イコール女性部事務局という捉え方が強かったことから、女性参画、女性部活動といった部門とは切り離すべきとの提起もある。
 事業量や組合員数の減少が見込まれるなか、現状のままの事業で生き残れるか、また、地域住民も含めたニーズに応えていくことができるか、が生活活動の見直しの前提にある。少なくとも既存の「生活事業」の見直しではないことを明確にした議論がJAグループには求められるだろう。

JA生活活動研究会のおもな論点

◆今なぜJA生活活動の見直しなのか
◎「生活基本構想」では営農活動と並んでJAの原点活動と位置づけ。しかし、JA広域化、拠点統廃合などで組合員との距離が拡大。
◎地域では人々の願いやニーズも多様化。行政、企業だけではその実現は困難で「協同活動」が必要とされる分野が今後増大する。
◎生活活動担当者は組合員・地域住民とJAを結ぶ。また非組合員との共生に向けたコーディネーター。「運動家」であるべき。

◆生活活動に取り組む必要性と重要性
◎協同組合の使命を「コミュニティの維持、発展、創造」と捉え地域社会を活性化することにつなげる。
◎農産加工、直売所など新たな事業を切り拓く可能性を秘める。
◎縦割り化する事業を結ぶ横糸の役目果たす。
◎地域の雇用創出、生きがいづくりや組合員、職員の活性化に結びつく。

◆JAとしてめざすべき姿
◎地域に根ざした「活動」から「事業」へのコミュニティビジネスの展開は民間企業ではまねのできないJAの強み。
◎JA本来の優位性には相互扶助に基づく地域住民との密着性、「食と農」を核にした活動への信頼も重要。
◎「優れた強み」をつくるには小さな協同活動や「食と農」などへの志が同じグループ活動との協力・連携もはかるべき。

◆実践にあたっての課題
◎地域を超えたコミュニティにもJAが関与することは可能か。
◎生活活動の目標設定のあり方。
◎生活活動の目的を組合員加入促進、事業利用増大とすれば経費はすべての事業で負担、と考えるべきではないか。
◎「生活事業」名称は廃止すべきか。
◎組合員組織の自主的参加への仕掛け。
◎「生活指導員」名称の廃止、職能資格制度の変更、担当部門・者の適正な配置。

(2007.3.13)
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