WTO農業交渉は4月30日にファルコナー農業交渉が新文書を提示、それをめぐって5月に入ってから主要国の閣僚級会合や事務レベルでの交渉が行われている。新文書では、市場アクセス分野の重要品目(センシティブ品目)の数について、関税分類品目(タリフライン)の「1%〜5%」と極めて厳しく提示する一方、米国の国内支持について現行水準額も「議論の重心」のなかに含めるなど「明らかにバランスを欠いている」と日本は評価。今後の交渉で是正を求めていく。
JAグループは5月12日から17日にかけて宮田JA全中会長を団長に代表団を欧州に派遣。13日にはG10農業団体による共同宣言をジュネーブで発表、議長新文書は食料輸入国の提案を無視したものであり「拒否されるべき」と訴えた。JAグループは6月に東京で3000人規模の集会を開き、農産物貿易ルールづくりに向けた国際交渉が広く国民的な課題であることをアピールしていく。 |
●ファルコナー議長新文書の概要
【市場アクセス】
関税削減率:平均削減率50%以上
(重要品目)
数:タリフライン(関税分類品目数)の1〜5%、関税削減率:一般品目削減率の1/3〜2/3、
関税割当拡大:最小限の関税削減の場合、国内消費量のX%拡大を「標準」
(上限関税):(06年6月議長案に)「特段加えるべきことはない」
(特別品目)
数:5〜8%、取り扱い:「削減なし」は認めない
【国内支持】
(全体削減)米国の国内支持190億ドルより低く100億ドル台より高い水準
【輸出競争】
(輸出国家貿易)先進国の輸出独占は禁止 |
◆バランス欠く「議論の重心」
ファルコナー農業交渉議長が4月30日に提示した新文書では、議長が考える交渉の着地点を「議論の重力の中心」として示した。
提示された「重力の中心」は主要国それぞれにとって厳しいとされるものの、日本は輸出国にとっては幅が広く、日本など輸入国にとっては、「一方的に絞り込んでいる」と明らかにバランスを欠く内容と評価している。
そのひとつ、貿易歪曲的な国内支持の削減では、米国がどれだけの全体削減に応じるかが焦点のひとつとなっているが、新文書では「190億ドルより低く、非常に低い100億ドル台より高い水準」が重力の中心とした。米国は削減後の水準を220億ドルと主張しているため、一見、米国に厳しいようだが、190億ドルは現在の支出水準だ。それが「重力の中心」の幅に含まれている点は日本も問題だとしている。
ただ、5月7日の農業交渉非公式会合で、ファルコナー議長はこの点について、100億ドル台から180億ドルで、中間は150億ドルと発言したという。
一方、市場アクセス問題では絞り込んだ案となっている。
関税率の高さによって階層化し関税削減する一般品目について、各階層の削減率の平均は50%以上が議論の重心とした。日本などG10の主張は平均30%程度だ。
議長文書では関税削減率の議論の重心は米国とEUの間としている。最上階層の削減率は米国は85%を主張、一方、EUは60%が限度と強く主張していることからこの案はEUにとっても厳しい。
◆重要品目数、日本「受け入れらない」
さらに一般品目とは関税の削減率を少なくする重要品目については、「タリフラインの1%超5%以下」が重心とした。
日本などG10は10〜15%を主張していた。EUは8%の主張を5%としたとの見方もあったが、ここでもそれを裏付けるように1%という従来からの米国の主張とEUの主張を議論の重心だとして、G10などの主張が反映されていない。
日本のタリフラインは1326。コメで17、乳製品で47、砂糖で56ある。かりに5%となれば60品目にしかならない。
ただ、米国にとっても1%は非現実的だ。1%なら米国は18品目になるが、重要な品目である砂糖と綿花だけでも60品目を超える。
松岡農相も会見で「米国も現実問題として、事実上それはあり得ないということになっているにもかかわらず、1%とファルコナーペーパーは捉えている」と批判、「われわれは到底受け入れがたい、これはもう基本的な立場」と強調している。絶対数を考慮するなど公平なものとすべきと主張していく。
また、新文書では重要品目の関税削減率は、一般品目削減率の1/3から2/3までが議論の中心とした。関税割当の拡大について、その幅の水準は明確に示されていないが、最小限の関税削減の場合は、市場アクセスを改善するために、国内消費量のX%を拡大するという「代償」を求める考えを示している。
上限関税については昨年6月の議長案に「付け加えることは何もない」と記されており、わが国は不利益となる内容がなかった点については評価。ただし、今後の議論を注視する必要がある。
そのほか新文書では途上国が求めている市場アクセス改善の例外とする特別品目(SP)で途上国にとって厳しい内容を示した。SP品目数は重要品目数の1%〜5%を前提に、5〜8%とした。その選択基準について途上国は自国基準を主張してきたが各国が検証可能なデータに基づく選択とすべきとしたほか、関税の削減なしという選択肢は認めないとしている。
また、輸出競争の分野では輸出国家貿易について「先進国の輸出独占は禁止」を新たに提示。これは輸出国家貿易を行っている豪州とカナダにとって厳しい内容だ。
◆6月初めに改訂版か?
5月7日にジュネーブで開かれた非公式特別会合では、日本、G10、EUは関税削減率や重要品目の数についての「重力の中心」の捉え方が適切でないことや、国内支持とのバランスがとれていないことが問題と主張した。一方、米国は市場アクセスこそ交渉の鍵と主張。また、途上国はSPなどに途上国の立場が反映されていない不満が表明された。
この日の議論をファルコナー議長は「ずべての加盟国に否定されたということは、加盟国にとって均等に痛いところを突いたことになる」と話し、21日以降に大使級、首席交渉官級の会合で議論を行っていくとした。6月のはじめに改訂文書が提示される予定とされている。
◆G10農業団体は「拒否」
JAグループは5月12日にWTO閣僚会議対策代表団を欧州に派遣。13日にはジュネーブで韓国農協中央会、ノルウェー農業者連盟、スイス農業者連盟とともにG10農業団体の共同宣言を発表、「ファルコナー新文書は拒否されるべきである」と宣言した。
G10農業団体は、新文書が先進国、途上国を問わず食料輸入国の提案を無視したものと批判し、新文書の内容は食料輸入国の農業に「深刻な悪影響をもたらすことは疑う余地がない」として、今回示された議論の「重力の中心」は拒否されるべきであると強調した。また、新文書は市場アクセス改善に過度に注意を払っているなど、輸入国の利益を尊重していると指摘、一定の食料自給率を維持するためにすべての国に国内消費のための食料生産の権利が確保されることや、上限関税の拒否などの事項を満たしていないような「悪い合意なら合意しないほうがよい」と訴えている。
JAグループは6月12日に東京でWTO・EPA対策で全国集会を開き国民的な運動の展開をめざす。
●G10農業団体共同宣言概要(5/13)
−『新文書は拒否されるべき』−
・(新文書で示された議論の)「重力の中心」は加盟国の3分の2を占めるG10、G33など食料輸入国からの提案を無視。この「重力の中心」は拒否されるべき。
・新文書が十分なバランスを欠き、ケアンズ・Gや米国、G20など食料輸出国の利益を尊重していることに失望。
・一般品目の大幅関税削減、重要品目と特別品目数の絞り込み、重要品目指定に求められる代償の点で食料輸入国の農業者にとって受け入れられない。
・以下の事項を満たさない悪い合意なら合意しないほうがよいと改めて確認。
―すべての国に国内消費のための食料生産と加工の権利が確保されるべき。
―農産物貿易ルールはすべての国にとって公平であるべき。
―上限関税は受け入れられない。
―各国が適切な数の重要品目、特別品目を指定できるようすべき。十分な柔軟性が与えられるべき。
―関税の大幅削減は認められない。
―特別セーフガードが先進国・途上国ともに維持されるべき。 |
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