農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

食料自給率向上の意義を強調
−18年度食料・農業・農村白書



 政府は18年度「食料・農業・農村白書」を5月25日の閣議で国会提出案件として了承し公表した。
 18年度の白書について農水省は「攻め」の姿勢の観点から「農業を21世紀にふさわしい戦略産業」とするために、国民の食・農への意識や関心を喚起するよう解説したと強調。とくに世界の農業・食料事情を解説し、食料自給率の向上や国内農業の体質強化の課題を記述するとともに、バイオマス利用の加速化、農産物輸出の促進など農業・農村の「新境地の開拓」についても力点をおいた。ただ、白書全体の「まとめ」の記述がないことや、各種データについての要因分析が十分でない点があるなど迫力不足の面も否めない。

◆農産物輸入、過去最高

 18年度白書は柱のひとつに「食料自給率の向上に取り組む意義」を据えた。
 冒頭では世界経済のグローバル化が進むなか、農産物貿易も拡大し04年には貿易額約4000億ドルと過去20年で倍以上に膨らみ、FAO(国連食糧農業機関)は06年の食料輸入額は過去最高と予測していることを紹介。なかでも世界最大の農産物輸入国である日本は06年に5兆41億円と過去最高の輸入額に達した。
 一方、人口増加と開発途上国の経済発展にともなって穀物の消費量は増加しているが、世界全体の生産量の伸びは鈍化、06年の穀物期末在庫率は15.7%と異常気象で大豆禁輸が行われた70年代はじめの低水準になっている。
 さらに、引き続き開発途上国での人口増加による食料需要は増大する一方で、エタノール生産など食用以外の需要も増大していくことも指摘。開発途上国の穀物需要は99年−01年平均の11億トンが2050年には21億トンまで増え、それに対応するには開発途上国は3億トンの食料輸入をせざるをえないという。また、米国ではトウモロコシのエタノール需要が全体の3割を超えると予測されており「世界の食料需給に大きな影響を及ぼす可能性がある」と警告した。
 こうしたなか日本の農産物輸入は米国、中国など上位5カ国で6割以上を占める特定国依存体質となっていることから、一部の国の作柄・作付け変動の影響を受けやすいという問題をあげ、温暖化による農業生産への影響などもふまえると「自国の農業生産の持続的な発展を基本」に食料の安定供給を図る必要があると強調している。

◆「関税」の意味を強調

 食料自給率向上の課題をめぐっては、WTO農業交渉や豪州とのEPA交渉などについてもページを多く割いた。とくに交渉の現状を紹介したうえで「関税のもつ意味」をコラムで取り上げた。
 関税は、他国にくらべて競争力が弱い産業を保護する「保護関税」としての機能が重要視されており、WTOでも認められている「正当な措置」だと強調。現行の米、麦、乳製品等の税率はウルグアイ・ラウンド合意に基づき内外価格差から設定されたもので、かりにこれらの関税を撤廃すると、農業算出額の4割にあたる3兆6000億円が減少し、カロリーベースの自給率が12%まで低下するという経済財政諮問会議に提出した試算をこのコラムに盛り込んだ。そのうえで「いのち」の源である国内農業を維持発展させるため「関税のもつ意味は非常に大きい」と指摘している。
 一方、わが国の食料自給率の低下については、これまでと同様、畜産物や油脂の摂取が増えたことや、冷凍調理食品やそう菜の利用といった食の外部化の進展など食料消費形態の変化が影響したと分析。
 昭和60年のプラザ合意以降の円高進展を背景に海外の安い農産物の輸入が増えたことも指摘している。しかし、それは当時生じつつあった「食料の消費形態の変化に照応したもの」とし、加工・業務用などの需要の高まりという変化に国内農業が対応できず、農業産出額が減少してきたことも自給率低下の一因と指摘した。
 そのうえで「食料自給率の向上は食料安全保障の観点から重要」だとし、食品産業との連携で消費者ニーズに即した国産品の割合を高めるなど、自給率向上への取り組みは「国民一体となって取り組むべき重要な課題である」と指摘した。

◆経済事業改革の遅れ指摘

 「農業の体質強化」の章では農業構造の分析を行っている。このなかで5ha以上層の農家数の動態を今回初めて紹介した。
 それによると平成2年−7年までの5年間で35%増加したが、7年−12年では22%、12−17年では16%と伸び率が鈍化している。12年からの5年間では5ha以上層に規模拡大したのは約1万6800戸とそれ以前の5年間よりも多いが、一方、5ha以上層から脱落した農家が約9800戸とそれまでよりも増えていることが伸び率を鈍化させている。(図1)
 問題はこうした伸び率の鈍化、とくに一旦は規模拡大しながらも規模縮小してしまった原因は何かだが、その分析は白書ではなされていない。たとえば、農産物価格の低迷がどう影響しているのかなど、こうした要因分析から今後の取り組むべき政策の課題も見えてくると思われるだけに今後の分析が期待される。
 また、稲作単一経営について、作付け延べ面積規模別に損益分岐点の分析を行っている。
 それによると、2−3ha層からは収益が発生し、規模が大きくなるほど、損益分岐点は低くなることが示された(図2)。傾向として大規模層は効率的で収益力が高い経営を行っていることがわかる、と白書は指摘している。しかし、グラフに示されているように5−7ha層は3−5ha層にくらべて、損益分岐点が高くなっている。このふたつの層を収益力の高さという点で比べれば、3−5ha層のほうが高いことになり、規模拡大とともに単純に収益力が上がるわけではないようだ。ただ、この点の要因については今回は記述されていない。
 白書では、食料供給コスト縮減の課題についても解説した。
 そのなかでも「生産資材の供給や農産物の販売において農協は大きな役割」を持っていることを指摘。JAを通じた農家への生産資材供給のシェアは化学肥料で9割、農薬と農機で6割を占め、米、野菜の取り扱いは5割にのぼるとして、農協系統の経済事業改革が食料供給コストの縮減につながることを強調している。
 しかし、白書ではJA全中の実施した青年部、女性部へのアンケート結果をもとに、生産資材購買への満足度は低下しているとして、経済事業改革の立ち遅れを指摘した(白書123ページ)。また、全農改革では、生産資材手数料や米の流通コストの削減などの取り組みが進んでいるとしながらも、「全体としては改革の成果が農業者、とくに担い手に実感されるに至っていないのが現状」とし、改善計画の徹底を求めている。

(図1) 5.0ha以上層農家の動態
(図2) 水田作作付延べ面積規模別の稲作単一経営の損益分岐点比率

◆食農連携による地域活性化を強調

 「農村地域の活性化」も柱のひとつとした。農業集落の動向として、中山間地域での過疎化と高齢化の進展、都市的地域での混住化の進展で「集落機能を喪失する集落の発生」が生じていると指摘した。
 一方で、平成17年時点で過去5年間に農業集落内に転入した者がいる集落は57%あり、集落外からの移住者がいる集落のほうが、地域活性化への取り組みが実施される傾向が高いことを「農村集落調査」の分析から示した。ここでは「UJIターン者」が集落の活性化に深くかかわっていると指摘している。
 しかし、平成の市町村大合併が農業集落へどんな影響をもたらすのかについての分析には手がつけられていない。
 白書では、大合併による影響として、集落と行政との地理的・心理的距離の拡大や、きめ細かな要望を反映した政策構築の困難化、コミュニティ活動の弱体化などが懸念されていることも上げているが、今後の方向として「特徴ある地域資源等を活用しつつ地域全体のブランド化を図る」こと指摘するにとどまった。
 ただ、地域経済活性化の点から、今回は食農連携の重要性について試算を示した点は注目される。
 農水省が行ったのは、食品産業が食材の調達で地元産の割合を高めると、どれだけ地域のGDPに影響を及ぼすかというもの(同157ページ)。この試算によれば、地元産の調達が増えれば農林水産業の生産だけでなく、生産資材製造業などの関連産業でも生産が増え、地域の人々の所得の上昇、消費拡大にもつながる経済効果が示されている。
 白書では食農連携にはさまざま障害があるとしながらも、それを克服して連携の成果を上げていくことが重要、と指摘した。

(2007.5.28)
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