農業協同組合新聞 JACOM
   
解説記事

飼料用稲生産拡大の課題
―福島県・東西しらかわ農協の取り組みから―
北出俊昭 元明治大学教授



北出 俊昭氏
北出 俊昭氏

 米価下落が激しいため、「米緊急対策」が講じられた。その1つに全農による10万tの非主食用(飼料)への処理があった。12月に入り、本年度補正予算で「地域水田農業活性化緊急対策」がとりまとめられたが、そこでも飼料用だけではないが、「非主食用の低コスト生産」への支援対策が示されている。
 これまでも、生産調整では飼料用稲生産が重視され、そのために助成措置も講じられてきた。その理由は、1.稲なので湿田や中山間地などでも栽培できること、2.栽培技術や農機具もそのまま利用できること、3.水田の利用集積も他作物より容易なこと、4.飼料としての価値も他の飼料穀物と変わらないこと、にあった。
 しかし、主食用への混入防止が困難なことなど管理問題のほか、何よりも生産振興には多額な財政負担が必要なことと搬送問題などもあり畜産農家との間に需給のミスマッチが生じるため、あまり普及しなかった。したがって、今後、飼料用稲の生産拡大を図るには、このような問題に如何に対処するか、が重要課題となる。ここでは、福島県・東西しらかわ農協の稲発酵粗飼料(WCS)の取り組みを紹介し、今後の対応策について考えてみたい。
 同農協は、これまで、「みりょく満点ブランド」を基本に、稲作、園芸、畜産の振興を図ってきたが、本年度は新たに「耕畜連携水田活用対策事業」を導入し、WCS生産に取り組んだ。具体的には、ロール機、梱包機、サイレージ積込機を導入し、参加者16名、実施水田面積13.7haの事業で、その収支結果は次の通りであった。

生産の収支・表

 ここでの収穫費用は、生産量を10a当たり5ロール(1ロール300kg)として計算しているが、それは平均が4.7ロールだったからであり、販売代金は農協で設定した価格である。なお、生産量は通常の苗移植では高く、直播は低かったが、その理由は直播での水管理不良による発芽不良と除草剤の適切な散布ができなかったためであるという。
 本年1年だけの結果であるが、この表から、WCS生産だけでは困難だが、一定水準の助成金があれば生産継続が可能とみることができる。しかも、この地域の助成水準であれば、主食用米とほぼ同じ所得が確保できるのである。実際、この事業に参加した生産者の一人は畜産農家であるが、自分の水田で生産したWCSを家畜に与えることができるのでコストが安く、安心であるという。当然、新規事業の継続を強く希望していた。
 また、これまで大変困難な刈り取り、梱包、積み込み、運搬の一連の労働が、この事業で導入された農機具により合理化され、軽減されるので、今後はもっと生産拡大も可能だという。これは、助成金の水準だけでなく使途にもかかわる重要な意見である。
 東西しらかわ農協ではこの事業実施により、今後遊休農地が解消され、水田利用率の向上も期待されるとしているが、この経験は全国的にみても、WCSをはじめとする飼料用稲生産対策に重要な示唆をあたえるものといえる。
 今年度から実施されている品目横断的経営安定対策では、産地づくり交付金の使途と金額は、地域で策定した水田農業ビジョンに基づき、地域の自主的判断で決定できることになっている。前掲の表で助成金に一定の幅があるのは、このためである。
 農業政策でも地域の自主的な取り組みを強めることは大切なことで、今後一層重視する必要がある。同時に、低下している水田利用率を高め、飼料自給率を向上させていくためには、飼料用稲生産についても国の責任ある統一した対策強化が不可欠なのである。
 大切なのは、地域の自主的な取り組みとそれを支援する国の対策の両方が相まって、総合的な効果を発揮できるようにすることである。

(2007.12.18)

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