この2月からパルシステム生活協同組合連合会は「日本のこめ豚」シリーズを発売する。これは国産飼料米を10%配合した飼料で肥育された豚肉だ。この取組みは、JA・生産者、豚の飼育農場だけではなく、全農グループが要所要所で関わることで完成したといえる。そこで、これまでの取組みと全農グループの役割。そして飼料米についての今後の課題を考えてみた。 |
◆注目される飼料米生産
2006年以降、トウモロコシなど飼料用穀物の価格が高騰し、国内の畜産農家の経営を直撃している。その一方で食料自給率はカロリーベースで39%まで落ち込んでいる。さらに、日本農業の基幹作物である米は消費の低迷もあって米余りとなり、さらなる生産調整が必要だとされている。
そうしたなか、昨年12月に国の農政改革が見直され、飼料用米やバイオエタノール用米などの新規需要米が生産調整品目として新たに認められたこともあって、飼料用米への注目が高まっている。そして、水稲生産農家は、転作作物として麦・大豆よりもやはり水稲系の作物をつくりたいという強い希望を持っている。
飼料用米生産は、生産者にとって排水不良田や未整備田でも作付けが可能で、農地の有効利用ができること。田植えから収穫まで通常の稲作栽培体系と同じで取り組みやすく、農業機械などがそのまま使えること。さらに、麦、大豆等の連作障害を避けることができるなどのメリットがあるからだ。
しかし、米の飼料用としての利用は、生産コストが輸入トウモロコシと比較して大幅に高いことなどから、いままでの取組みは極めて限られたものだといえる。
◆決め手は行政が補助金支給を決定したこと
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飼料米の10%配合飼料で肥育される
「日本のこめ豚」
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そうしたなかでも、地域で耕種農家と畜産農家そして消費者が連携した取組みによって飼料用米の生産と利用が行われている事例もある。
その一つに本紙が今年の新年特集号(2029号)で紹介した山形県遊佐町における町・JAと稲作生産者、平田牧場、生活クラブ生協そして全農グループが連携して養豚用飼料に米を使う「飼料用米プロジェクト」(04年から)がある。ここでは米を10%混ぜた飼料で肥育した豚肉「こめ育ち豚」を06年から販売している。(07年は130ha)
そして、今年の2月からパルシステム生活協同組合連合会(以下パルシステム)が、国産飼料米を10%混ぜた飼料で肥育した「日本のこめ豚」の販売を開始する。
この取組みは、パルシステムが岩手県北地区で展開する「岩手県北地区地域循環型農業の取り組み検討会」の席上で、「畜産産地の餌として飼料米を作ってもらえないか」と岩手県軽米町へ提案。地元ではさまざまな議論がされたが、軽米町が行政として飼料米づくりに補助金を支給することを決め、それなら取組もうと農家が手をあげたことから本格的な取組みが始まった。
そして、豚の飼育については、同生協の産直産地である(有)ポークランドが取り組むことになる。さらにポークランドの地元である秋田県のJAかづのも飼料米生産に参加することになった。
◆9通りのテストを行い米10%配合を決める
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豊下勝彦ポークランド代表
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こうして飼料米生産がJA北いわて(軽米)とJAかづの、豚肉産地がポークランドという体制ができた。
全農グループもこの間全面的に協力をしてきたが、特に重要なのは、生産された飼料米を受け入れ、養豚用の配合飼料を製造し、ポークランドに供給する仕事だといえる。これを子会社である、北日本くみあい飼料株ェ戸工場で行う。八戸工場では専用タンクを設置するなど、飼料米の受け入れや製造管理体制を整えた。
飼料米は軽米で5ha、JAかづので6.2ha作付された。品種は、多収穫米種子が手に入らないことから、19年産は軽米はたかねみのり、かづのはめんこいなといずれも主食用品種が作付された。
ポークランドでは、酒米の削り粉を家畜飼料に使えないかとかいう試験をしたり、国産飼料原料への試行をしていたこともあって、パルシステムの国産飼料米を使った取組み提案に協力することにしたと豊下勝彦代表。
そして、米の配合率や給与期間を変えた9通りの給餌方法で飼育した豚肉について、PHや保水性などの理化学評価、官能評価、食味評価をした結果とコストの兼ね合いから、出荷前の約50〜70日間、10%飼料米を混ぜた飼料を与えることを決めた。飼育頭数は歩留まりを考え、2800頭とした。
◆多収穫米の種子確保やコスト低減が課題
昨年10月に収穫された飼料米を10%混ぜた飼料で肥育された豚は、と畜処理された後、JA全農ミートフーズ鰍ナ冷凍や冷蔵品に加工され、潟pル・ミート(パルシステムの畜産部門子会社)を通じて「日本のこめ豚」と命名されてパルシステムの組合員に供給される。価格は100g当たり通常の価格より約30円程度高い設定とする予定である。これを生協組合員がどう評価するかがこれから注目されるところだ。
ポークランドの豊下代表は、「飼料代はコストの4〜5割を占める。価格差が少なくなったとはいえ、まだトウモロコシよりも米は高い。この価格差をどう埋めていくかが課題」と語る。
飼料米のコストを下げるには、▽多収穫米の育成▽省・低コスト栽培技術の開発・導入▽規模拡大による生産コストの低減などが考えられる。
しかし、 「多収穫米については、種子が確保しにくい現状がある」とJAかづの小田嶋泰男畜産課長はいう。
そもそも多収穫米は飼料イネとしてのホールクロップサイレージ用の品種が主体で、飼料用玄米としての品種は少なく、また、種籾が少ない現状がある。
20年産用の種子を確保しようと県農業試験場に申し込んだところ、県内の多くのJAが飼料米に関心を持ち、申し込みが殺到しているため、実績があってもJAかづのを優先することはできないといわれたという。
生産調整品目として飼料米が認められても、それに適した品種の選定や種子の確保はこれからというのが実態だといえる。公的な機関の早急な対応が待たれるところだ。
技術的な面では、直播がいいのか、不耕起がいいのかとか、それぞれの地域で検証していくことが必要で、これにもまだ時間がかかるだろう。
大規模化は一定のコスト低減効果があると考えられるが、飼料米に適した多収穫米の種子が確保できるとか、コスト低減ができる技術が確立されないとすぐに大きな効果は生まれないのではないだろうか。
◆消費者が理解し買い支えてくれるなら
そうした課題は消費が拡大していけばある程度解決できるともいえる。パルシステムの取組みは当面3年間の実験事業となっている。JAでは、飼料米の取組みを拡大したいという意向はあるが「生協の組合員さんが買い支えてくれるかどうか」で、拡大できるかどうかは決まると、JAかづの綱木作之丞営農企画部長はいう。
パルシステムでは「環境保全型・資源循環型農業への転換と食料自給率向上を目的として、農産産地と畜産産地が協力し開発した豚肉」として、強力に販売していくことにしている。これが付加価値として消費者に理解され、購入されるのか、今後の動向に注目していきたい。
また、全農としては、水田農業と国内畜産の活性化になること、食料自給率の向上に貢献できる取組みであると考え、今後も引き続き積極的にこうした取組みを行っていくとしている。