(財)日本穀物検定協会は、5月26日に理事会および評議員会を開催し、常務理事の伊藤元久氏を新たに理事長に選任した。
同協会は昭和27年、米流通の円滑化のため政府と民間の間に介在する公正な第三者検定機関として設立され、以来行政委託を中心とした検査業務を行ってきた。しかし、食管法の廃止、米流通の自由化などの米を取り巻く環境変化に伴い、行政からの支援・援助はなくなり、財団法人としての制限はあるが民間と変わりなく、特に、協会発足以来実施してきた政府米の入庫検定業務が17年度末で廃止され、厳しい競争環境にさらされている。
伊藤新理事長に協会を取り巻く状況、今後めざすべき方向などを聞いた。 |
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伊藤理事長 |
−−現在の検査機関を取り巻く状況は。
BSE問題などによって、食の「安全」「安心」への関心がかってないほど高まっていると同時に、規制緩和で食のグローバル化が急速に進んでおり、安全性の確認や適正表示などに消費者の関心も高く、第三者機関の客観的なデータに基づく評価や確認が求められています。
こうした状況で、協会が今まで積み上げてきた穀物検査のノウハウを生かし、消費者等のニーズに対応していけるか、実力を問われていると思います。また、食に関しては美味しさ、栄養価などの評価も求められていますから、我々も米の食味ランキング実施の経験を生かしてそれらのニーズにも応えていきたいと考えています。 ■今後は理化学分析なども視野に
−−協会としては具体的にどういう方向を考えていますか。
従来は穀物の等級などを検定する業務が中心でしたが、今後は残留農薬、カビ毒、重金属などの安全性の分析業務、また、東京分析センターでのDNA鑑定、遺伝子組み換え食品などのバイオ関係の理化学分析業務、農産物検査にかかる成分分析などを対象に業務を行います。ただし、これらの分析業務を行う場合、どこまで分析コストの削減を図り、競争力が持てるかで今後の方向が決まると思います。
分析技術については、我々がすべて自前で行うのではなく、民間の検査会社、食品会社の研究組織、ベンチャー企業などとも積極的に業務提携を行い、我々の技術力を磨いていきたいと考えています。先駆的な技術を確立して、厳しい競争に打ち勝つ覚悟です。
■産地でJAと行う『協調検査』に期待
−−検査・分析業務で従来とは異なる動きはありますか。
米中心の検査から、他の穀物について検査を行えるような体制整備が当面の目標です。他の検査等については、先に述べたとおり慎重に進めていきますが、状況を見極めて大胆に踏み込むことも必要だと考えています。森元前理事長時代に既にそういったことも見越して、東京分析センターなどには相当な設備投資をしてきており、基礎はできていると思います。
有機認証、生産情報公表JAS、地方公共団体が行う認定業務などについては、人材不足でニーズに応えきれていません。今までは消費地での検査が中心でしたが、今後は農産物検査、安全性分析業務など産地からの需要も掘り起こしていきたいと考えています。
そのモデルとして考えているのが、今年実施予定の産地JAと一緒に行う『協調検査』です。18年産米の検査をJAと一緒になって行うもので、広域的で大がかりな検査です。米の検査は法律に基づき行われますが、精度にバラツキがあるなどの問題が出ています。『協調検査』では我々が今まで蓄積してきたノウハウを生かし、我々の存在感を示していきたいと思います。
また、産地段階での検査が実施できれば、安全性や食味などはその後の流通さえ特定できれば、「米の情報提供システム」によって追跡でき、安全性などが確認できる米が容易に手に入ることにもつながるので、我々が産地に入る意味は大きいと期待しています。
−−そのために必要なことはなんでしょうか。
優秀な人材を確保することです。組織や体制づくりも大切ですが、やはり人材です。そのため、研修や他団体と人事交流を進めていこうと思っています。また、人材と並んで重要なことは、我々は事業開発活動と呼んでいますが、“営業力”だと思います。その場合、我々が持っている分析能力に合った営業を行うことが大切で、分析機器や人が常に有効に活用されている状況を作りだすことが重要です。
■トップダウンで活性化した組織を
−−それに合わせた事業体制をどうつくりますか。
本部に「事業開発戦略会議」を設置し、各支部レベルに「業務開発グループ」を設けました。
「業務開発グループ」を拠点として、事業開発活動を積極的に展開し、トップダウン方式で戦略会議の方策がすぐ行動につながるような活性化した組織をめざします。また、同会議は役員を中心にそのつど部課長を加えた構成とし、例えばポジティブリスト制導入後の国内産農産物の検査にどう対応していくかなど、協会としての方針を打ち出し全員が一丸となって取り組めるような体制をめざします。
当協会は現在、行政からの援助や補助は受けておらず、事業収入のみで運営しています。公益法人という制約はありますが、実質的には民間会社と同じで、競争して生き残ることが求められています。検査・分析の仕事は入札で決まり、我々が優遇されるということはありません。全職員がこのような問題意識を共有し、危機感を持って仕事に取り組まなければなりません。
−−適正な第三者機関として信頼されるためには。
検査依頼については、効率性を考慮せざるを得ません。また、公正で適正な検査を行うためには、厳格でなければなりません。信頼がベースにあり、そのうえで仕事をしているのだということを常に意識することだと、常日頃職員には言っています。
人が見ていないから、人に分からないからこれくらいで良いのではないか、というような安易な考えは持たず、検査は厳しくあるべきです。長い歴史のもとで諸先輩方が築き上げてきた信頼を拠り所として、これからも一層信頼される検査機関として、最大限の努力を払っていきます。
多くのみなさまの益々の支援、ご協力をお願いします。
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