◆5年前と比べすべての世代で減少
17年度白書が分析した年齢・収入階層別の食料消費実態のデータは、総務省が行っている「全国消費実態調査」に基づいている。この調査は5年ごとに実施されており、白書が取り上げたのは16年調査だ。分析の結果、同一年齢でも年齢層によっては収入により食料消費に2倍もの差があること、その一方で収入が高いにも関わらず家計に占める食料消費支出が高い(エンゲル係数が高い)層もあることなどから、食の位置づけは個々人で多様化していると指摘していることを前回は紹介した。
しかし、気にかかるのは単年度の実態ではなく、この間にどのような変化がおきているのかということである。
そこで11年調査のデータを白書と同じように分析して比較してみた。
図1に示すように、すべての年齢層で11年調査よりも1人1か月あたりの食料消費支出は減少していることが分かる。図2は11年調査を100とした16年調査の比率を見たものだが、平均値で90.3%(40〜49歳層)から93.3%(70歳以上層)となり、9%から7%程度減っている。もちろんデータは食料消費支出額だから物価の影響も考えられる。しかし、11年と16年の消費者物価指数の差は総合指数、食料指数とも、2.7ポイント程度の下落にとどまっており(図3)、物価下落幅より食料消費支出の下落幅のほうがはるかに大きい。
もっとも収入階層別にみると16年調査のほうが支出額が増えている層もわずかだがある。30歳未満の500万円以上の層や、30歳〜39歳の1250万円以上の層、70歳以上の500万〜800万、1250万円以上の層などである。
一方、年収の少ない階層では支出が減少した層がほとんどで、その減少率も10%を超える層が目立つ。逆に年収の多い階層では減少はしてもその割合が小さい傾向がみてとれる。全体の減少には、年収の低い層の消費減がより大きく引き下げに影響していると考えられる。
◆格差も拡大傾向を示す
17年度白書では、食料消費消費支出の傾向について「30歳未満層では、1000〜1250万円層が200〜300万円層の約2倍の高い水準となるなど同一年齢層でも収入間格差が大きい」と指摘している。
白書では「約2倍」と紹介しているが、元のデータから計算するとこれは「2.17」となる。ちなみに白書と同じように11年調査で30歳未満層(1500万円以下)の最低支出額と最高額との格差を調べてみると「2.02」という結果が出た。格差は拡大しているのである。
これを他の年齢層でも計算してみると、30〜39歳層では11年の「1.61」が16年には「1.89」に、40〜49歳層では「1.48」が「1.77」に、70歳以上層では「1.68」が「2.41」へと、いずれも拡大していた。縮小を示したのは60〜69歳層だけであり、ここでいう格差は総じて拡大してきたといえるだろう。
◆食と農の距離いかに縮めるか
17年度白書では、世代だけではなく、収入階層や就業形態などによって消費者の食料消費志向がさまざまになっていることから、ニーズを明らかにして「きめ細かく、丁寧に対応していくこと」が生産、流通、販売のうえで重要になっていると指摘している。
その一例として「生鮮コンビニ」の急速な広がりに着目。営業時間の長さ、販売単位の小分けに加えて、100円程度の安い単価の設定が若者から高齢者まで評価されていることを紹介している。
一方、日本生協連の06年度の総会議案では、同生協連の全国家計費調査で組合員世帯の月平均収入は、00年度以来減少を続け、04年度は前年比98.4%となったことを報告。消費支出は名目で6年ぶりに増えたが消費税の総額表示の影響が考えられるため、実質は引き続き減少したと考えられると指摘している。
さらに税金と社会保険料が収入に占める割合は2年連続で増加し組合員の負担感が重くなっていることも強調した。
日本生協連が指摘するような「縮小する家計」をふまえると、食をめぐる状況は、多様化というよりもまず食料消費支出全体が縮小していることこそ課題としなければならないのではないか。全国消費実態調査の食料消費支出の11年、16年比較はその点を浮き彫りにしている。国産農産物の生産の課題として、しばしば付加価値を高め消費者に支持されることが強調されるが、先に触れたような格差拡大状況を考えると、その供給先は限られた層だけということになりかねない。全体としては食料消費自体が伸び悩む状況が懸念される。
安全性、健全な食生活へのニーズは確かに高く、また食育についても認識が広まりつつあるのは確かだ。しかし、そのニーズを本当に実現するには、農業・食料政策のみで可能なのか。今や「食」を確保するための基本的な社会政策が必要になってきている――。このデータはそれを物語っているのではないか。
[17年度「食料・農業・農村白書」(上)]
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