◆法改正要求案の経過
日本生協連(小倉修悟会長)は、既報のように6月15〜16日の通常総会で、生協法改正について次期通常国会に「(日本生協連の)要求案の方向に沿った法改正案が上程されるよう、関係方面への要請活動を強める」ことを決めた。
日本生協連は、03年から生協法(消費生活協同組合法)改正について検討を始め、「第9次全国中期計画(04年度〜06年度)」で、「生協法改正要求を確立し、議会や行政をはじめとして理解を広げるための取り組みをすすめ、法改正の実現に向けた行動に着手する」ことを確認。改正案を検討してきた「改正検討小委員会」(検討小委)は「生協法改正要求案」を答申し、昨年の通常総会に資料として配布。各地連や都道府県連、会員生協でフォーラムや学習会を開催して「法改正要求案への合意づくり」を進めてきた。
各地連で開催されたフォーラムでは「ごく一部で反対の声も出されたが、概ね“生協法改正要求案”の方向について会員生協合意ができた」という(通常総会当日配布資料「生協法改正の実現に向けて」)。
◆最大の課題は県域規制の撤廃
なぜいま日本生協連は法改正を要求するのか。
「要求案」では、「現行の生協法は、町内会単位での地域生協や職場単位での職域生協をモデルとしてつくられている」ので「現在の経済・社会や生協の状況にそぐわず、さまざまな点で現実の支障を生じて」おり、「そうした支障を取り除き、21世紀における生協の発展の制度的な条件整備を図るため」に生協法改正が必要だとしている。
改正要求案の基本的な骨子は、▽地域・職域区分と県域制限の撤廃▽員外利用禁止の緩和▽資金の貸付業務の導入▽社会貢献などICA新原則の主旨の法定▽契約者保護や経営の健全性確保等、共済関連規定の整備▽理事会・代表理事制の法定等、ガバナンス関連規定の整備▽組合員の直接利用や出資制限の緩和等、連合会規定の整備などとなっている。
なかでも「現在すでに実践上の障害となっており、今後の実践を見据えた上でも最も大きな制度的課題である県域規制の撤廃と員外利用規制の緩和」は「最重点の要求事項」として位置づけている。
◆エリア設定は生協の自治により決定すべき
「県域規制の撤廃」の必要性について「要求案」は、家業レベルや零細経営の商店がほとんだった法制定当時の小売業の状況では、生協が突出して「大きな経済規模を形成」することは望ましくないということで県域規制が設けられたが、「チェーンストアを中心に激しい競争が繰り広げられている現在の小売業の状況にはまったく適合しない」制度となっていること。
競争の激化と構造的変革のなかで「リージョナル単位での事業の統合化が必要」だが、県域規制を理由として「事業統合への業務の統合にも行政指導」による制約が加えられた経過もあり「県域規制が現実の事業活動におよぼす支障は非常に大きくなってきている」ことなどをあげ「区域(生協のエリア)をどのように設定するかは各生協の自治により決定すべき事項」だから、県域規制や地域・職域区分は「撤廃することが適切」だとしている。
これに対して「地域密着性が薄れるのではないか」、「大規模化することで民主的な運営が形骸化するのではないか」といった疑問が生協内部からもあがっている。これに対して「地域密着性」とは、県域規制とは「本来別の問題」だとしている。また民主制については、競争が激化するなか、「市場への変化対応力と効率性の一層の追求」が求められているなかで組合員ニーズに応えるためには「一定の経済規模を持つ事業展開によって効率性と専門性を飛躍的に高めることが必要になって」おり、民主制の観点から「規模の拡大自体にマイナスの評価をくだし、生協の規模を抑制する方向」で検討することは適切ではないという。
◆生協にも勝ち組と負け組が?
このように「県域規制撤廃」論は、生協の事業とくに店舗事業が、量販店などとの競合に打ち勝つために必須だと主張しているようにみえる。そして、これに通常総会でも紹介されたが、日本生協連とコープネット事業連合の仕入れ統合化を重ね合わせると、県域を超えて形成されている事業連合をより強固な単一生協にすることで、事業と経営の効率化を進めようと日本生協連は考えているのではないか。その先に見えてくるのは、イオングループなどと同じような小売業者としての姿ではないのだろうか。
また、資金力のある生協が県域を超えて他県に進出することで、生協間に競合が起こり、生協内部で「勝ち組と負け組」ができ、負け組が勝ち組に吸収されていくことも小売業という視点で見れば当然のことだともいえる。
そのときに懸念されるのは、地域に密着し生産者と協同して取り組まれている地産地消や食農教育などはどうなってしまうのかということだ。実際、ある地域生協が事業連合に加入したために、事業連合の品質基準をクリアするための設備投資をすることができなかった事業者が取引を停止されるなどの事例がみられるからだ。もちろん地域生協に提供した品物は安全で安心なものだが、地域生協と事業連合では品質基準などが異なるために起きた悲劇。しかし、事業としてみればそれはある意味で当然のことだともいえる。こうしたことが小規模な農産物産地に起こらないという保障もないだろう。
生協法改正法案が最終的にどのような形で国会に上程されるのかはまだ不確かなことだが、日本生協連が「要求案」の実現をめざして強力に取り組むことは間違いないだろう。その結果いかんでは産地にも大きな影響が生じることもありうるといえる。
また、こうした事業論中心のあり方が、協同組合としてどう評価されるのかという問題は残るだろう。
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