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シリーズ 生協―21世紀の経営構造改革−−7

コープかながわ専務・大谷信博氏に聞く

「お役立ち」を中心において
大手スーパーの再建論議をみる


インタビュアー・元(財)協同組合経営研究所研究員 今野聰

 コープかながわは、組合員は100万人を超え、総供給高1298億円(2001年3月末)は全国第4位(日生協『生協の経営統計』)、コープとうきょうに次ぐ全国的影響力を持つ生協である。しかも、創立が1946年。まさに戦後の混乱のなか、戦前の消費組合運動の伝統を引き継いだ生協である。それだけに、その21世紀改革の方向には限りない興味がある。(今野)


(おおたに のぶひろ)昭和24年熊本県生まれ。横浜国立大学経営学部卒。昭和47年横浜生協入職、59年商品部常務補佐、61年商品部長、62年業態企画室長、平成元年グローサリー商品部長、2年(株)コープシステムズ社長、6年コープかながわ理事・横浜北地区本部長、8年ユーコープ事業連合理事・商品本部本部長、10年コープかながわ常務理事・専務補佐、11年同専務理事

 今野 最初に、大手小売業ダイエーの再建計画が1月中旬、日生協・全国政策討論集会の後、まとまりました。生協として、どう思いますか。

 大谷 ダイエーの再建については、「マイカルはつぶして、ダイエーは再建」ということに対して批判があります。そういう批判があることに賛同はしますが、個人的には高木社長と平山副社長には頑張って欲しいという気持ちを持っています。
 高木さんと平山さんが瀕死のダイエーに身を投じて、現場の社員やパート社員を激励し、奮闘している姿に共感を覚えています。

 今野 中内オーナー時代から変化したということですか。

 大谷 中内さんは、カリスマ的にやってきましたから、高度成長期には通用したが、変化が求められる現在には通用しないことが多いということでしょう。
 高木さんと平山さんは、育ててくれたオヤジに、「元気でいては欲しいが、おれたちに任せてくれ」という心情でしょう。

 今野 昭和30年代の安売り哲学から始まって、日本一になり、経団連副会長に。それが今回の銀行管理下に。中内反骨・反権力は、これで変質するのではありませんか。

 大谷 高度成長時代は、安売りと独占価格に対する抵抗で消費者の支持を得たと思います。また、他の小売経営者にも影響を与えたと思います。
 しかし、これは成長が止まった段階で「消費者の味方」から「自分の企業の存続」の立場に変わった。どこもそうですよ。私企業には限界がありますよ。

◆この1年間「役立つ組織になろう」と事業と活動をすすめてきた

 今野 さて、この10年間の変化、みなさんの生協の変化は――。

 大谷 わが生協もこの10年間、何をやってきたのか。90年代を「失われた10年」といわれていますが、わが生協の90年代も「失われた10年」の言葉で表現せざるを得ない。今、この「失われた10年」という言葉に対置して「構造改革」という言葉が氾濫していますが、構造改革とは何か?夢のない痛みだけを意味しているのか?社会的な認識を一致させるべきではないか、と思っています。
 高度成長から現在まで蓄えてきた生産力や技術を、その過程で犠牲にしてきた国民の暮らしの豊かさや日本の農業風景の保存などに使う。そうして日本の経済を安定した発展に導くことこそ構造改革ではないのか?わが生協も含めて「寂しい対応」をしてきた10年という反省があります。

 今野 ようやっとみなさんの勢いが戻ってきた。足元の改革はどうなっていますか。

 大谷 1987年に長期計画をつくりました。この計画は、事業伸長計画というより、どんな生協になりたいかがテーマでした。それなのに、事業活動での実際は量的な拡大になってしまった。「もっと組合員の暮らしのお役に立つ」という提供する商品やサービスの質、経営の体質的な強化が不十分でした。結果として供給高も落とし続け、剰余も減少しました。
 今、全国の生協から「コープかながわ、がんばってくれ」という声が聞こえてきます。今、各地の生協の経営が苦しいなか、とかく「構造改革」という大義名分のもとの対策で、事業が組合員の願いから離れ、供給の減少を起こしている。そういう状況のなか、「もっと生協の事業の価値を高めたい」と思ってはいますが、実際はなかなかうまくいかない。「コープかながわ、がんばってくれ」ということは、「コープかながわが昔のように実例を示して欲しい」という意味を含んでいます。

 今野 現在進行中の改革は?

 大谷 構造改革の中身は、実は「お役立ち度を改めて点検すること」だと思っています。
高い人件費の構造を変えるだとかで、損益の構造を変えることが「構造改革」の中心ではなく、組織の存在価値をいかに時代と地域社会に合わせて変えるかが構造改革の中心テーマですよ。
 コープかながわでは、確かに賃上げもやらず、秋・冬の賞与も減らし、不採算店舗の閉鎖も行なってきました。しかし、中心の課題は組合員の願い(家族の笑顔が目に浮かぶような商品と品揃え)に応えられる事業にすることです。このことを「もっと社会や組合員のお役に立つ」という合言葉で事業を行なっています。
 もっと美味しく、もっと鮮度の良い商品だとか、1人や2人暮らしの組合員のために少量パックの商品も提供できるようにすることです。価格も市価よりも安く提供して組合員の家計に貢献することです。
 今年はそういう気持ちで事業をすすめ、共同購入・個配は2ケタ伸びていますし、大型店16店舗も2ケタ近い伸びになってきています。まだ、剰余の改善にはいっていないのが問題ですが。

 今野 「お役立ち」という言葉は、すでに定着しているのですか。

 大谷 3年くらい前から言い続けています。組合員にもっと喜んでもらうことをやろうと。それが生協の価値を高めることだと。
 組合員に喜んでもらうと仕事のやりがいが高まる。生協の価値を高めることは、職員1人1人が自分の役割を発揮し、自分の存在価値を高めることでもあるのです。

 今野 わかりやすい。「顧客満足度」論とは違うようですね。組合員はオーナーであって、顧客ではない。「お役立ち」とはいいですね。

 大谷 この考えは1987年につくった長期計画にもあったんです。この長期計画以前は、「組合員主権」という考えで、売れる・売れないも組合員の問題。利益が出る・出ないも組合員の問題とも言っていました。
 組合員はサービスをする対象ではなく、生協運動をともにすすめる仲間だったんです。そうすると、専従の役職員の責任は何か、あいまいになりがちでした。

 今野 接客サービスという概念との関係は?

 大谷 接客というと、組合員は商品を売る対象としてのお客様になります。生協の場合は組合員をお客様という認識よりもコープみやざきで表現しているように、「オーナー」という認識が良いと思います。
 「接客サ−ビス」という認識よりも「オーナーに対するお役立ち度を高める」という認識が生協の場合はふさわしいと思います。

 今野 昨年の総代会で、大型店の典型的な問題として城山店の赤字が問題になりました。これは解決しつつありますか。

 大谷 城山店は年間供給高が11億円で大きな赤字店舗でした。年商11億円では、経費を減らして黒字にできるレベルではありません。約1年間、組合員に役立つことを中心に対策を打ってきました。その結果、組合員の支持を広げ、年商15億円に近づいています。まだ、黒字には遠いですが、中期的な見通しはついてきました。

 今野 でも1キロ先にAコープ城山店(愛称・さざん)があります。コープとJAとの協同組合店舗同士らしい企画提携をすすめるべきだと言ってきたのですが、どうですか。

 大谷 提携の気持ちはずうっと持っています。地元にそれぞれの機能が協同してお役に立ちたいという考えは変わりません。今は協同の取り組みはないが、いずれやれればと思っています。

◆事業連合はどうなる

 今野 今回の生協の政策討論集会にも、事業連合見直しがありますね。みなさんのユーコープと首都圏北半分のコープネット。さらにコープネット事業連合と日生協が一緒になって全国商品の共同開発をやろうという部分もあります。

 大谷 日生協の場での共同開発は積極的にすすめたいと思っています。しかし、すべてのコープ商品を日生協に集中しようとは思っていません。それはユ−コープエリアでロットをまとめれば共同開発と変わらないか有利な場合があるからです。

◆社会的なポジションは

 今野 さて、食品衛生法改正運動を含めて、これからの社会活動をお聞きしたいのですが。スーパーと違って、厚生労働省が生協対応ですから。

 大谷 食品衛生法の改正は、われわれ生協の働きかけが大きく影響し、社会的な生協の価値を発揮したひとつだと思っています。
生協はもっと事業の面で地域社会と住民にお役に立つことが重要だと思っています。店舗や共同購入・配個や、福祉事業、助け合いの共済など、今や地域と組合員になくてはならない存在になっています。生協が破綻をしたからといって、厚生労働省や金融機関が助けてくれる状況にはありません。全国の生協が「自助・自立」を前提に経営危機に備えるセーフティーネットは必要であると思っています。

◆産直運動も地域に役立つことから

 今野 最後に、全国各地農業・農協へのメッセージを。

 大谷 なんといっても、昨年全農の協力を得て、青果物のセットセンターを設置することができたこと。全農が、野菜の鮮度、価格対応など、一層努力してもらったことを評価したい。

 今野 10年前の提携事業がゴタゴタになった時、私は現役だったから、今回の前進はうれしいですね。そこで、協同組合間提携という国際原則との関連ではどうですか。かつてこれが全国モデルでしたから。

 大谷 まず県内、地域で実際の事業で関係を深めることが大切です。今、神奈川県内の45店舗くらいで地元産の野菜を扱っています。店舗によっては青果物の構成比で地元産が10%になってきました。鮮度が良いから組合員に支持されています。これこそ組合員の目に見える提携です。もっと伸ばしていきたい。経済連や単位農協もここにもっと目を向けて欲しいですね。
 今、農協以外の生産者団体や個人とも取引を行なっています。いずれ、生協と農協の大きな提携強化に至る「踊り場」にあると思っています。セットセンターのように双方に価値ある提携や地場産での提携強化を行ないながら、農協組織との関係を強めていきたいと思います。





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