◆低米価と高齢化で農地集積が課題に
JA新ふくしま管内の稲作地帯、福島市松川町。米づくりをする生産者は、約800戸いる。平均耕作面積は50アール程度で、ほとんどが兼業農家である。 同JAの水稲専門部会長の植木昭吉さんはこの町で水田農業と酪農を営む。
農地は約5ヘクタール。転作は加工用米と飼料作物を中心に取り組んできた。 転作率が高まったころ、地域では転作作物を定着させようと畑地化に取り組んだ。しかし、粘土質が多く、湿度も高い地域でほ場が乾燥せずなかなか思うように機械作業ができないなどの理由で、飼料用のデントコーンなどの収量も通常の半分程度にとどまった。米づくりには向く土地だが、畑地化は難しかった。
さらに労力の問題も考え、転作分の多くは加工用米として対応してきた。今年からは、地域の農業試験場の依頼でホールクロップサイレージの栽培も試験的に始めている。
ただ、地域全体でみると転作の強化にも関わらず米価は低落し、高齢化も進行しているため米づくりをやめて農地を人に貸す人が増えてきた。10ヘクタール以上を借地で経営する意欲的な担い手も地域で5、6人だが現れてきた。
皮肉なことに低米価で零細な米づくりをやめる人が増えてきたことが農地集積の傾向を生み出した。
「地域の農業を守るには本気でやる若い生産者に農地を集めるしかない」と植木さんも考えている。
しかし、農地の集積は必ずしも計画的に行われているわけではないという。
◆商系業者の主導で非効率的農地集積に
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植木昭吉部会長
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意欲的な担い手へ借地の情報をいち早く伝えるのは、集荷業者として登録している商系業者だという。多様な販売ルートを持っており量の確保のため、生産者の借地の情報を提供して規模拡大を奨めていく。その対応は素早いが、米以外の作物づくりを視野に入れているわけではないため、効率的な農地集積にはなっていないという。
また、最近では生産調整への取り組みが農地集積の壁にもなってきた。
地域の生産調整達成率は、約60%。小規模な生産者では生産調整を実施せず、計画外流通米として販売している。そうした生産者に若い担い手への農地集積の話を持ちかけても、生産調整を実施しなければならないとなると、農地の貸し出しに二の足を踏む。すべて米を作付け自由に販売したほうが手間がかからなくて済む、となるからだという。
◆生産調整への不公平はより深刻になっている
「規模拡大していこうという人こそまじめに生産調整に取り組んでいる」のだが、未実施者に対する不満が表だって現れることはない。
「不満はあってもみな外には出しません。逆に言うとそれを言ってしまえばおしまい、という気持ちがあるからです。それだけ地域にとって生産調整の不公平感は深刻だということです」。
計画外流通米の価格も、生産調整実施者の過剰米処理などの負担で維持された相場で決まる。
「生産調整を実施せず自由に販売する人は、いわば無傷で利益を受けているようなもの。何としてもここを解消しないと、もう自由な生産でいいのでは、という気持ちが出てきてしまう」と植木部会長は強調し、解決策としては「米を作付けしたら需給調整の負担が発生するという仕組みにするしかない」と訴える。現状で生産調整を生産数量配分に転換すると、計画的な生産ではなく、「個人で流通ルートを確保しておけばと、過剰生産になりかねない」と危惧する。
◆うまい米づくりで結束深める生産者
JAの米の集荷量は、約3万5000俵(60キロ)。農産物販売額70億円のうち、米は6億円。合併した平成6年には11億円だった。減少の原因は、米価の低迷もあるが、集荷率の低下も大きい。
計画外流通米が増えたのは、この地域の主力品種、コシヒカリの評価が高いことに加え、食糧法施行のとき、作る自由、売る自由が喧伝されたことが影響した。近郊都市の住民への直接販売や集荷業者への売り渡しが増えている。
一方、植木部会長は生産者が結束しJAを通じてより有利に販売するため、水稲部会に6年ほど前に「うまい米会」をつくった。参加しているのは40人ほどの生産者。展示ほ場をつくって会員で現地検討会なども行い、おいしく、安全な米づくりの努力を続けている。成果も上がって、同会員の米は高い食味値を示すようになったという。
こうした取り組みは消費地の卸で評価され、“松川コシヒカリ”の引き合いが高まってきた。昨年は、卸の評価と要望を聞くために会員で愛知県の業者を訪問したという。
「自分たちの米は業者が商品化するブレンド米の柱の銘柄になっていたことに自信を深めた。とにかく味が良くなくては。JAを通じてこういう流通ルートを確保しておけば産地として大丈夫ではないかと思っています」。
今後はこのルートを「できるだけ太くすること」が課題だと考えている。そのためにJAの米事業に望むのは、「努力して評価を上げた生産者の米がきちんと扱われるような仕組み」だと強調する。
◆具体的担い手育成策のイメージ検討を
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渡邊藤三組合長
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同JAの渡邊藤三組合長もJAとして米の販売力をつけることが今後は大切になると考えている。その際、植木部会長らの取り組みのような業者との結びつきのほか、地産地消も鍵になるとみる。福島市内の学校給食では昨年度から米飯給食回数が1回増えて3回となったが、3回とも市内産の米が供給されている。
一方、担い手育成対策も大きな課題だが、「米価が下がって苦しいのは専業農家。機械の更新もできないほどだ」と実情を話す。そのため、意欲ある生産者が共同で作業受託する組織づくりが重要で、JAとしてはその支援を行いたいたいという。
「そのため、たとえば担い手の組織には機械化への助成を思い切って行うなどの支援策が必要ではないか。まず具体的な担い手育成策のイメージを検討すべきだと思う」と大宮勝博専務も話す。
◆はっきりした国の対策示すことが必要
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大宮勝博専務
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松川町はかつては、養蚕の盛んな地域だった。それが輸入で壊滅し、米づくりに転換した。植木部会長は「このままでは養蚕が全滅したときのように米もなるのではないか」とさえ最近は思うという。
「食料政策として米をどう確保していくのかという視点が絶対にあるべき。中間とりまとめでミニマム・アクセスについてまったく触れていないことに、現場では不満、不信が生まれている。若い意欲ある担い手を育てるには、たとえば、土地改良に対する自己負担をなくすなど、はっきりした国の対策が必要ではないか」と強調している。