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シリーズ 2002コメ改革
不公平感を解消する抜本対策を
米政策の改革は生産者の理解と納得こそ

現地レポート
不公平感をなくすには全生産者が拠出金を
法制度も必要

JA十日町
 今回の「コメ改革」は、「一歩間違うと、専業農家が壊れ、農村が崩壊する危険性」があると、「魚沼コシヒカリ」の産地・JA十日町の高橋信雄常務は危機感を持っている。そうならないためにも、急いで決めるのではなく「具体的な施策が出てからも、じっくり時間をかけ、シッカリと組織決定する必要がある」と、同席した生産者も強調した。
 また、中山間地の多いこの地域の経験から、日本のコメづくりは、兼業農家も含めた集落・地域を単位とした生産組織を基盤として考えていく必要があるとの指摘もされた。

◆専用肥料や生産指導の徹底で「売れる米づくり」

地図

 JA十日町は、新潟県中魚沼の十日町市・川西町・中里村と東頸城郡の松代町・松之山町を管内とする広域合併JAだ。
 正組合員戸数は13年度末で、8641戸。そのうち稲作農家は4600戸、平均耕作面積は約70アール。専業稲作農家は1%程度で、ほとんどが兼業農家だ。
 品種は90%以上がコシヒカリだが、中魚沼郡のものは「魚沼コシヒカリ」として販売され、東頸城郡のものは一般の「新潟コシヒカリ」となる。これは、魚沼コシヒカリとして上場するときに、北・南・中魚沼郡内で生産されたコシヒカリに限定した経過があるためだ。JA内に同じコシヒカリで2つの銘柄があり、これをどう販売していくのかが、担当する高橋信雄常務の悩みだ。
 高橋常務は旧中里村農協の組合長時代に、魚沼コシヒカリを新潟コシヒカリと別立てで上場した仕掛け人でもある。食管法から食糧法へ変わる中で、時代を読んだ販売戦略としての上場だったが、それは均質なコメを生産するために、魚沼用の肥料をつくるなど「生産指導からキチンとしてきた」上に立ったものだったと、中里村で5.4haの稲作を経営する服部安英さん(JA理事)はいう。13年産米の魚沼コシヒカリは、JAS法の影響もあって2万6000円台で取引きされ、「売れる米づくり」を実現しているわけだが、そのためには、長年にわたる、生産段階からの地道な努力の積み重ねがあったということだ。

◆個人ではなく集落・地域として判断することが大切

服部安英理事(左) 柄澤和久下島生産組合長(中) 高橋信雄常務理事(右)
服部安英理事(左) 柄澤和久下島生産組合長(中) 高橋信雄常務理事(右)

 これまで魚沼コシヒカリの生産者の生産調整達成率は100%だが、「農業者自らの主体的な判断で取り組む」ことになれば、価格が2万円までなら、ほとんどの生産者が「いまよりもたくさん作るようになり、収拾がつかなくなる」と高橋常務はみている。服部さんも、川西町で6haを経営する柄澤和久さん(JAの理事)も同じ意見だ。
 その結果、価格が2万円で止まればいいが、最低価格米として輸入米がある以上、それ以下に価格が下がる可能性があり、そうなれば「一番困るのは、大規模なコメ専業農家だ。価格が下がれば、大規模農家は、倒産に向かっている」ようなもので、地域の核である彼らが「壊れれば、農村は崩壊する」という危機意識を高橋常務はもっている。
 柄澤さんは、川西町の2集落112戸で組織する「下島生産組合」の組合長でもあるが「判断は、個人ではなく集落や地域で考えてするべきだ。そのほうが力になる」と考えている。そうした力を結集して、JAが販売をしていけばいいとも。
 中山間地で稲作経営を営み直接支払いを受けている服部さんも「棚田保全や農業の多面的機能の発揮といわれているが、地域は個人ではなく、集落全体がかかわって維持されている」ので、「最近いわれていることは、これと矛盾する」と指摘する。
 周囲に同じ環境の人がいるから、日本の土地利用型農業が成り立っているのであり「一人に手あつくするのは、ムラとしては好ましくない」と、柄澤さんも集落営農の実践を踏まえていう。

◆公平な過剰米処理は国の責任で

生産調整を30年続けてきたにもかかわらず、大量の「余り米」がでたのは「国の需給量の見込み違い」で、行政の責任ではないか。今後は「第三者機関による需要量の設定と調整」というが、この第三者機関はどのような責任をもつのか不明だ。「国が手を引いていくのなら、それまでに、国の責任で、納得のいく仕組みをつくるべきではないか」という意見だ。
 そして、価格低落を防ぐためには、MA米を減らすべきだとも。
 JAでの過剰米処理のための経費が、流通経費とみなされているために「JAは高い」といわれている。生産調整未実施者も含めて公平にこれを負担しなければ、実施者の「不公平感」を拭い去ることはできない。そのためには、稲作にかかわるすべての生産者から拠出金を出すような「法律を国がつくる以外にないでしょう」という。そして、余ったコメは、ODAなど援助米にまわすのが一番いいのではないかとも。
 また、生産調整をポジ配分(数量配分)にしても、「コメは工場製品とは違うのだから、この田んぼで何キロと決めても、田んぼの条件や天候でその通りにはできない」「余分にできたコメが地下にもぐって出回り、それがまた値崩れの原因になる」可能性があるので、好ましい方法ではないと高橋常務は心配する。

◆進まない農地の集積

 農地の集積は、かつては進んだがいまはほとんどなくなったという。それは、「1町歩借りれば、地代は1町歩分払わなければならないが、作れるのは生産調整分を引いた面積で、採算があわない」からだ。服部さんや柄澤さんのところにも話がくるが断っているという。中里村で専業農家を営む高橋常務は、実際に経営している息子さんに「話をもちかけるけれど、これ以上は広げたくない」と話に乗ってこないという。
 断る理由のもうひとつは「10haの規模にしても、実際には、コストは下がらない」こともある。大規模化ということが長らくいわれているが、アメリカなどとは違い、中山間地や傾斜地が多い日本では、規模の拡大が必ずしも経営の効率化や低コスト化にはつながらないということだ。
 高橋常務は、アメリカのような大規模ならば「自己責任でできるが、日本では欧米のような大規模化はできない」「そういう日本の特殊性を理解し、それをどう活かしていくのか」が、これからの日本の稲作農業を考えるときのポイントではないかという。
 それは、服部さんや柄澤さんたちが築き上げてきたような、兼業農家も含めた集落・地域単位の生産組織を基盤とした「米づくりのあるべき姿」をつくりあげていこうということになるのではないだろうか。
 いずれにしても、今回の「コメ改革」については、具体的な施策が出されてきても「15年産からなどと考えず、じっくり、シッカリ、組織討議をしていく必要がある」とJA十日町では考えている。




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