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シリーズ 2002コメ改革 |
7月25日のJA全農の総代会で就任が決まった岡阿彌靖正新専務は、米が主食であることをふまえて長期的な視点で政策を再構築すべきことを強調した。その際、今後の政策論議では、中間とりまとめで示された「あるべき米づくり」が実現するには、「どの程度の米価」なのかは避けて通れない問題だとし、その結果、価格支持政策も必要になるはずだと指摘した。また、JAグループの米事業方式の見直し策の考え方も語っている。 |
◆米は主食―目先でなく長期的な視点で
梶井 岡阿彌専務には米政策のなかでも流通面を中心に伺いたいと思います。最初に「中間とりまとめ」について、流通部会での議論も含めて包括的な評価を聞かせていただけますか。 岡阿彌 中間とりまとめでは望ましい米づくりの姿が示されたといっても、どんなステップを踏んでそれを実現するのかがまったく抜けており、その一方、議論の過程では生産調整を選択的にするとか、流通を自由にするといった方向も感じられました。ですから、生産者にとってはこれまで懸命に生産調整に取り組んできたのに、自分たちは一体何をしていたのかという不安を持つ内容だと思いますね。 ◆米も一般商品とみる感覚はうなずけない 梶井 米について、主食という概念を捨てそうな議論があったということですが、確かに3度3度米を食べるという人は少なくなったかもしれませんが、依然、米は日本人の摂取カロリーの25%を占めています。単品でこれだけカロリーがあるのは米だけです。消費量は減っても、主食としての地位はなお揺らいでいないことをふまえて議論すべきだと思いますね。 岡阿彌 主食とは何かと考えると、人々がその土地で暮らしていくなかで、それがあったから人口が維持できたという食料のことだと思います。日本では麦はなかなかできませんが米は生産できた。主食とはいわば土着的な食料ではないでしょうか。 梶井 風土条件にあった食料を主食としているのは、どこの国でもそうです。 岡阿彌 ところが、研究会では、米は一般商品化しているものの、“主食である”という言葉を盛り込むかどうかで議論になった。ここも認識として、目先だけで考えるのか、それともロングスパンで考えるのか、根本的な問題だったと思います。 梶井 生産調整とは、本来、食料を確保し国土を保全する上で重要な水田機能を維持するための政策であり、その観点で考えるべきだと私はこのシリーズのインタビューで再三強調してきましたが、やはりそうしたロングスパンの観点での議論はあまりなかったということですね。 岡阿彌 そうだと思います。ただ、われわれにとっても目先の問題として解決しなければならないことがあるのも事実です。 ◆需給調整のコストを公平にすることが大切 梶井 中間とりまとめでは、今後の米づくりは主食用以外の業務用、加工用なども考えるべきだと言っています。その分野に目を向ければ需要はいくらでもあるというわけですね。そうなるとなおさらミニマム・アクセス米(MA米)が価格形成にどう影響しているかも問題だと思いますが。 岡阿彌 われわれとしては、業務用など低価格帯の米については、MA米価格が取引の際の交渉材料になるという影響はあるとみています。 梶井 影響がないはずはないということを基本的な認識にしなければならないですよね。 岡阿彌 今、農家には、さまざまな工夫をして米づくりをしている人も増え、消費者の評価を生産現場にフィードバックしてもらいたいと考えている人もいます。また、業務用需要に対応するための米を販売することも考えている現場もあるわけですね。 梶井 トレーサビリティ・システムの構築が課題になっていますが、米でもそれに応えられるように事業を見直すということでもあるわけですね。 岡阿彌 そういう面にも対応できると思います。また、長期契約で価格が決まっていれば、委託販売か、買い取りかという選択もできることになりますね。一定の生産を一定の需要に結びつけることが大事になってきますから、もう少し多様な取引ができるようにはしたいと考えています。 ◆先を見通せる安定した価格形成の環境作りを 梶井 JAグループの見直し方向は分かりましたが、研究会では、委託販売や共同計算があるために生産者に市場シグナルが伝わらないから需要に応じた米づくりができない、だから、やめるべきだという議論もあったようですね。 岡阿彌 先ほどお話したような特定の米というのは全体からみればわずかで、ほとんどが一般の米ですね。そこで、逆に委託販売をやめたらどうなるかを考えてみればいいと私は思っているんです。 梶井 今、米は安定的に供給されている実態があるから、消費者ももう米びつは持たず、2キロ、5キロという単位で買うようになったわけですね。それが価格が変動することになったら大変だと思います。供給体制が非常に不安定になるということですから、消費者の方が実は大変になる。 岡阿彌 今回は、とにかく今は米は過剰なんだからという目先の問題だけで議論されたと思います。しかし、いつまでも過剰というのは本当でしょうか。天候を人間が左右できるわけではないのですから。 ◆望ましい米づくりには価格支持制度が必要 梶井 戦前には出来秋に価格が下がるということに懲りて、産業組合は平均売りを実現しようと努力してきた。委託販売・共同計算方式は年間平均売りの実現なんです。その意義を見失ってはならないと思います。 岡阿彌 今、1ヘクタール程度の農家では今の米価では生産費を下回っているわけですね。農機具代は兼業所得でまかなっているという農家がたくさんいる。日本の米は採算が合わないものが50%は占めているわけでしょう。そういう人たちが作っているから食べられるという状況がある。一方、米づくりで生活していこうという人は最近の低米価でかなり打撃を受けています。 梶井 たとえば、目標価格を決めて市価との差額を財政で不足払いするという制度でもいいわけですね。あれほど効率的な経営が実現されている米国でも今年、事実上不足払い制度を復活させた。効率的な経営、イコール安定的な経営とは言えないことを端的に示したといっていい。効率的な経営が安定的になるように政策の出番があるのだということだと思います。 岡阿彌 生産調整参加のメリット措置を検討するにしても、米価との見合いで考えなくてはならないでしょう。もしそうでなければ、結局、生産調整に参加せず全部作ったほうが得だということになるわけですから。 梶井 最近は、価格支持制度はその効果が生産者に一律に及ぶ、と批判されています。確かに価格としては一様ですが、その効果は経営体によって違うのです。一律の効果というのは錯覚であって、そこを改めて押さえたうえで今後の議論を展開する必要があると思いますね。今日はありがとうございました。 |