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シリーズ・インタビュー 21世紀の日本農業を考える

   

営農指導こそ農協本来の姿
全国大会を機に大転換を


 自由民主党政務調査会長代理
 衆議院議員
 前農林水産総括政務次官

 谷津義男氏に聞く

  インタビュアー: 東京農工大学学長 梶井功 氏

谷津義男氏

 21世紀を目前に控え、本紙では、政界、財界、農業団体、研究者などへのインタビュー企画「21世紀の日本農業を考える」を今号から定期的に掲載していく。今回は前農林水産総括政務次官の谷津義男自民党政調会長代理に、特集号の趣旨に合わせて今後の食料、農業政策の展望とJAグループへの提言などを聞いた。なお、このシリーズのインタビュアーは、梶井功東京農工大学学長にお願いした。

◆国のあるべき姿考えれば 哲学、理念あっていいはず

 梶井 先日、『日本農業新聞』を読んでいましたら、先生が日本の商社も国益を考えて行動しなくてはいかん、とお叱りなったとコラム欄に載っていました。

 谷津 その発言は商社と限定するつもりはなかったんですが、どこの国でも国のあるべき姿を考えることと、儲かれば何でもやるということとは違うと思っていまして、だから商社も哲学を持って事業をやってほしいということを言いたかったんです。 たとえば、一つの例として、ゴボウなんて中国では食べないんですよね。それなのにあれだけ輸入されるというのは、商社が現地で作らせているからでしょう。あるいはオーストラリアの牛肉にしてもこう育てなさいと指導して輸入してくる。

 こういうことは、日本の農業に携わっている人たちからみれば、まさに日本はこうあるべきだという方向を根底から破壊するような商売であって、これは何事だということになる。そこにはやはり哲学、理念があっていいはずだということを申し上げたんです。

 梶井 昨年の暮のWTO(世界貿易機関)のシアトル閣僚会議の報道をみても、国益を考えて報道してもらいたいものだという感じを一部の報道にもちましたね。  

谷津義男氏 谷津 もちろん何が何でも国益を守れという話ではないですよ。しかし、少なくともお互いの国が発展できるように考えていくのがWTOの一つの精神だろうと思っていますから、何でもかんでも自由経済でやるというのは違う。
 米国も、農業問題だけでいえば昨年は86億ドルも農民保護予算を増やし、その前は57億ドルも追加した。その一方、WTO交渉の場に来るとそれを否定するようなことを言う。

 これはとんでもないことだとわれわれはEUとも意見が一致したんですよ。EUは連合体ですがWTO交渉に臨む哲学をしっかり持っている。それは、お互いに国益を守りながらそのなかでお互いが発展できるような方策を見つけだしていくのがWTOの精神じゃないかということです。

◆食料は人間生活の基本 農業者も意識改革をして

 梶井 谷津先生は総括政務次官も努め農林行政の中枢におられたわけですが、今後の日本の食料、農業、農村については、何がいちばん問題だと今考えておられますか。  

 谷津 ひとつは、農業をやっている人たちはもっと自信を持っていただきたいということです。というのもこれまでは被害者意識的な面が強く打ち出されて、工業製品の犠牲になって農産物の輸入が増え価格が下げられいる、そういうマイナス要素ばかりではないかとおっしゃってきた。けれども、これからは意識を変えてもらいたいと私は思うんです。
 食料というのは、人間生活の基本ですし、国家の基本でもあるわけですよね。ですから、食料生産に携わっている人はもっと誇りをもって仕事をやってもらいたいです。

 当然、所得は大きな問題ではありますが、所得を得るためには知恵が出せると思うんですよ。その知恵は個人の知恵の場合もあれば、農協という組織もあるし、あるいは自分たちで仲間をつくるということもあるでしょう。そういうことにもっと能力を使ってもらいたいと思うんですよ。
 何といっても農業者の方は、工業製品と違って、米一粒、麦一粒、自ら生きようとする生命力あるものをいかに収穫にもっていくかというものすごい難しい仕事をやっている。ときには天文学者でなければならない、ときには生物学者でなければならないわけですし、そうしたあらゆる要素が集積したものが農産物だと思っています。

◆WTO交渉では日本を理解してもらうこと

 梶井 ところで、今度の新しい基本計画では食料自給率を当面45%にすることを目標にしましたね。
 そこで思い出すんですが、1973年の国際的に食料危機が問題になったときに、三木内閣が国民食料会議を開きました(1975年)。そのときに私は仲間の研究者と一緒に、穀物自給率60%はやりようによっては可能だと提言したのですが、その基礎になった知見を『食料自給力の技術的展望』という本にして出版しました。問題にすべきは自給率ではなくて自給力、なんです。今回の45%という自給率目標は、目標としては明確になるからいいのですが、私としては、それを達成するために一体どういう農業生産力を持つかをはっきりさせることが非常に大事だと思うんです。

 谷津 おっしゃるとおりです。実は、われわれも自給率の議論が出てきたときに、率ではなくて自給力ではないかという議論をしていました。自給率とは結果としての率なんですね。しかし今回は、まず自給率ありきの議論になってしまった。
 そうすると、率を追いかけるがために下手をすると農政の根本を崩す原因を作りかねないと思いました。自給力をいかにつけるかという議論をして、そのうえでいろんな施策を展開していくことが大事じゃないかというのが、我々の当初の主張だったんです。
 もちろん現在は、自給率目標を決めたわけですから、それに向けて政策を展開するわけですが、基本の精神は自給力だと思っています。

梶井功 氏 梶井 そのためにどれだけの耕地を将来とも保全していくのか、あるいはそれにともなってどういう技術を用意していくのか、主体としてはどういう主体を想定していくのか、そのへんのところが大事だと思います。

 谷津 そうですね。それと今おっしゃった1973年というのは私どもには忘れられない年なんですよ。なぜかといえば、大豆の輸入がストップし豆腐がものすごく高騰して、パニック状態になったときですから。
 われわれは今WTO交渉のなかでアメリカと話し合うときに1973年のことをよく言うんですよ。あのときアメリカは自国優先で輸出をストップしたじゃないか、生産国として間違いなく輸出するんだと言うが、こういう事実があるじゃないかと反論しているわけです。

 それから、日本は今景気が悪いと言われていますが、世界からみると食料を買いあさっているじゃないかという印象を持たれていて、とくに発展途上国、貧困な国々から批判を受けるわけです。日本が大量に買い入れるために国際価格が上がっているではないかと。日本のように自給できる体制にある国は、まず自分の国で自給率を上げなさいよと国際会議でも言われるんですよ。まったくそのとおりだと思いますね。

 梶井 ウルグアイ・ラウンド交渉のときに日本政府は基礎的食料がなぜ重要であるかというステートメントを出しました。あれは非常にいい内容だったと思います。ところが、あまり諸外国の同調を得られなかった。それはなぜかと言えば、やはり国内政策がそれにふさわしい政策じゃなかったからですね。

 谷津 そうなんですよ。実は、日本は口では言っていても国内の体制がそうなっていないじゃないかと指摘されたこともあるんです。ですから、今回のWTOの交渉にあたっては、日本の姿勢を各国に理解してもらうことがいちばん大切だと思いますね。

 梶井 そのため今回は基本法をつくり基本計画をつくり、まさに食料自給率向上など国内政策としてしっかりやっているんだということをバックにしてWTO交渉に臨むという点で、前回とは全然違うわけですね。

 谷津 しかもこれは政府だけでやっているんじゃなくて、農業団体やNGOの人たちも議論に加わり国民世論として日本の主張をまとめていくという形にしたわけですからね。

◆まず国が姿勢を示す そして生産者に協力を

谷津氏と梶井氏 梶井 その場合、国内政策で具体的にもっとも要になるのが、大豆、麦の本作化です。この成否がものを言うだろうと思いますね。

 谷津 ええ。今度、政務調査会長代理就任していちばん最初に手がけたのが5000億円の予備費の配分だったんですが、このときに麦、大豆の生産振興を図るには水田の汎用化を図らなければならないという議論に改めてなった。今、汎用化している水田は50%そこそこだというんですから、これでは自給率目標はとてもじゃないが達成できないぞと。

 そこで予備費のなかから食料自給率向上のための基盤整備費として425億円を確保したんです。まず国が姿勢を示す。これは今後の予算や政策のなかでも、きちっと通していき、そのうえで生産者に協力してもらうという方向にもっていかなくてはならないと思っています。

 梶井 もうひとつの問題として麦、大豆を本作化していくには農村での組織的な取り組みが非常に重要になります。そのためには農協の営農指導の力が決定的にものをいうと思っているんですが。

 谷津 農業団体は政治活動も大事ですが、もっと大事なのは自分たちのなかからどう生産性を上げていくか、要するに営農ですね、そこに力を入れなくてはならないと思うんですよ。今、農協のあり方を見ていますと、商社になっているんじゃないか。私はこれはとんでもない間違いを起こしていると思います。

 営農活動に力を入れれば、農協そのものの経営がおかしくなるという人がいるんです。しかし、本来の農協のあり方、営農指導に力を入れるという姿勢を堅持したうえで、なおかつ経営的におかしくなるというなら、そこは国がなんとかしてやろうじゃないか、やるべきではないかと私は思うんです。

 梶井 私も、営農指導事業というのは、独立の事業として、組合員みんなの協同事業として仕組まれるべきだと思います。それでも経営的に難しかったら政府で援助するということも考えるということですか。

 谷津 私はそう考えています。ただ、今のように利益を生むような事業にばかり力を入れているんであればとても国としては面倒見切れない。ましてや協同組合であり、組合員はそうでない人よりも少なくとも利益を得られるということでなければなりませんよね。それが全部とは言いませんが、経営のことを考えるあまり農協以外からものを買ったほうが安いなんてこともあると聞きます。
 農協の本来の姿はそうではないんだから、もう1回営農指導に力を入れるよう見直してもらいたい。そうでなければ自給率45%などとても達成できません。これは今度の大会を機に本来の姿へ大転換を図ってもらいたいですね。私はそう思っています。

 梶井 ありがとうございました。


インタビューを終えて
 さき頃まで農水統括政務次官として農林行政の中枢におられた先生だけに、問題点の把握は的確だし、農政の舵取り役としての自信もしっかりと持っておられると感じた。商社にも自社の利益追求のみに狂奔するのではなく”国益”も考える”哲学”をもてというあたり、わが意を得たり、と思う人も少なくないであろう。私もその一人である。
 このところ農政展開に当たっては、”国民合意のもとで”ということがしきりに強調される。が、それはむろん弱者への憐れみを求めてではあり得ない。非農業者にも、自分たちの食料・農業・農村を大事にしなければ21世紀の日本はないんだという”哲学”をもつことの要請であるべきなのである。わが意を得たりという所以もここにある。

 JAへの注文としての、”本来の農協のあり方、営農指導に力を入れるという姿勢を堅持したうえで、なおかつ経営的におかしくなるというのなら、そこは国が何とかしてやろうじゃないか、やるべきではないかと私は思うのです”という発言は重要である。
 21世紀へ向けてのJA組織のあり方を今度のJA全国大会は決めようとしているが、いま与党政務調査会会長代理の座にあり、前歴からいって、ことさらに農政に大きな影響力をもつ人のこの発言は、JA組織の本来のあり方を模索しているJA構成員に訴える多くのものがあると私は思う。組織討議のなかで、そして大会の場でも、おおいに議論してもらいたい論点である。(梶井)   


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