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シリーズ JAグループに望むこと 聞き手 原田 康 農協流通研究所理事長 |
失われた信頼を回復するために、消費者や生産者が参加する「経済事業刷新委員会」(JA全中)で今後の経済事業のあるべき姿を検討するとともに、JA全農は今後こうした問題を起こさないために「食品安全管理室」を設置するなど、消費者と生産者からの信頼を基本に事業の抜本的な刷新をはかるとともに、役職員の意識改革に取り組んでいる。 そこで本紙では、JAグループが信頼を回復するために、何を考え、何をしなければならないのかを、各界から提言してもらう「JAグループに望むこと」をシリーズとして企画した。 第1回は、JAグループとの協同組合間提携を積極的に進めてきた日本生協連の竹本成コ会長にお願いした。聞き手は、原田康農協流通研究所理事長。 |
◆渾身の努力で、国民から信頼される組織に
原田 BSE(牛海綿状脳症)が発生以降、食品の問題が次々に起きています。とくに、農協組織が本来一番大切にしなければいけない生協組織との間で、全農チキンの問題が起き、直接的には全農と関係はありませんが、産直の先がけとして評価していた茨城玉川農協と特定の生協の取り引きで考えられないようなことが起きました。これをどう受け止めておられますか? 竹本 こういうことがないために、全農と生協との取り引きを始めたわけです。協同組合組織同士の取り引きですから、非常に大事にしてきましたし、格別の思いを私たちはもっていました。そこで起こった問題だけに、非常にショックでしたし、残念至極です。 ◆当該者だけの問題にせず全組織の問題として体質改善を
原田 いまのお話は、農協の事業のあり方、その基本の部分を見直さないといけない。事業を大きくして市場経済の競争の中でだけ残る協同組合の事業のあり方そのものを反省をしないと、問題の基本が直りませんということですね。 竹本 私自身も過去の長い間には失敗をして、大きく反省を迫られ、これは自ら変わらねばというケースに直面してきました。自己改革することは、なかなか難しいことです。表層的なレベルではなく、本当の反省というか、本当に自ら振り返って、どこに間違いがあったのか・・・・。 竹本 今回の偽装問題は、年末に予定以上の注文をもらい品切れするおそれがある。品切れしたんでは大変だから、外国産を混ぜてでも量を間に合わせようと、最初は考えたんだと思います。一、二度そういうことをしても「うまいこといっているじゃないか」ということでイージーになり、契約をして取引条件や仕様を文書で交わしているにもかかわらず、そこに流れていってしまったというのが実態かもしれません。 ◆一人が百歩行くのではなく、百人が一歩進むこと 原田 生協は創立時の一人が百歩行くのではなくて、百人が一歩進むんだという精神。平和があって生活者の豊かな生活が保障されるという精神がいまでも活きていますね。農協は、どうしてもビジネスに流される面が強いので、そういう気持ちを忘れてしまい勝ちな面がありますね。 竹本 運動と事業が乖離していく面があり、残念だと思いますね。 原田 今回の問題では、組織として組合員にとってマイナスになることをしたわけです。農協のビジネスとしての厳しさと同時に、協同組合として踏み越えてはいけない則(のり)というか砦があるわけです。その砦を守るには、組合員の協力をえなければならない。それは鶏の飼い方や残留農薬ひとつとってもそうです。組合員が「よし分かった。俺たちも反省して農業というものの正直さで、消費者にもう一度話をしよう」となるには、いくら文書を書いてもダメですね。 竹本 長い歴史を積んでこられているので、一挙には、奇麗事ではいかないと思いますが、しかし、そういうことをやっていくことが、本当の意味で農業をつくる道だということが、社会から問われているのではないでしょうか。 ◆生協も供給者責任があり厳しい自己反省と点検を実施 原田 今回の偽装問題によって、産直についてもう一度見直そうという動きがありますね。 竹本 いろいろ考えるとわれわれの側にも問題がありました。最近は事故がなかったからとか、協同組合同士だからごまかしはないよと、商品点検マニュアルにもとづいた定期的な点検がキチンとされていなかったとか…。そのことで、偽装した会社を許すわけにはいきませんが、われわれの側としてどういうことが反省されるのかという自己点検を厳しくやっていますし、責任をとらせました。 原田 品切れ、欠品の問題もありますね。 竹本 全農チキンの原料調達力や加工供給能力以上に注文が集中すれば、当然、限界があります。そのときに、代替物でごまかして間に合わせても結果は大変なことになります。最終的には組合員に迷惑をかけるわけですから、「誠にもうしわけありませんが、今回はどうしても納められません。われわれは、絶対に確かなものしか納めません」と、お許しいただく、ということまで点検・反省をしています。そして、今後、こういう問題を起こさないためにどうしたらいいのか、全国の産直担当者も参加して、検討しています。 原田 一度問題を起こせば、信頼回復するのはなかなか難しいですからね。 ◆消費者から見離されれば企業は潰れる 竹本 私も長い間、生協や経済活動に参加してきましたが、いったん消費者の不信をかい、消費者から見離された企業は潰れるということを、初めて目の前にしました。 原田 雪印食品ですね。 竹本 消費者の間では雪印のスノーブランドがどれだけ信頼されていたか・・・・。しかも、いまでこそ株式会社ですが、もともとは北海道の農民運動の中から協同組合の組織としてつくりあげられてきたわけです。これは、農民のスピリットが長い間、営々として育ててきた歴史ですね。ところが、雪印食品の前に牛乳の集団中毒が起き、社会的な批判を浴び、企業として人の健康を守ることの意味が問われたにもかかわらず雪印食品が問題を起こした。だから消費者は見離したんですよ。不信ではなく見離したんですね。見離されたら潰れるんです。 ◆命と健康の問題として「食」を考える千載一遇の機会 原田 最近は、目新しさとか手軽に金を儲けることが助長されていますが、その中で食に対する哲学なりポリシーをもって仕事をするには、人一倍努力をしないといけませんね。 竹本 そうですね。BSEから始まり、数多くの偽装問題など一連の食品問題は、国民に大不安を起こしました。そして偽装問題にみられるように、使ってはならないものを使い、分からなければいいじゃないかという営利至上主義、あるいは消費者を軽視というよりも「無視」といったほうがいいと思いますが、そのことが、国民の前に曝け出されたわけです。そして、消費者が見離したら企業は潰れるということも明白になりました。 原田 これからの生協と農協組織とのあり方について最後に一言お願いします。 竹本 大失敗をし、けつまずいて、額を摺りむいて大怪我をした。そのときを大事にし、これをチャンスにしてお互いが誠意を持って解決し、乗り越え、出直しを双方の組織でやり、それを新しい出発にする。これは形だけではダメです。形だけでは何にもする意味がありません。文書ではなく、そういう実態をつくりあげること。それが私の気持ちです。
インタビューを終えて |