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シリーズ JAグループに望むこと 吉野 平八郎 (株)マルエツ代表取締役社長 |
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原田 食品の安全性が問われています。首都圏最大の食品スーパーであるマルエツさんのこの問題への取り組みはどのようにされていますか。
吉野 現在、店舗数はグループで約280で毎日60万人ほどのお客様にきていただいておりますが、3年ほど前、基幹店舗に「ドクター元気コーナー」というのを設けましてね。マルエツグループは「健康」「安心・安全」「環境」に配慮したスーパーマーケットであるというキャンペーンを張り続けました。例えば、うちで販売する農産物の安全を保証するという運動でした。ところが、昨年のBSE発生以後は「本当に安全なの?」とコーナーの表示を疑うお客様も出てきました。そこで市場に確認しましたが、卸売市場ではわからないのですよ。 ◆直接契約で生産者コーナー
原田 今の卸売市場の仕組みでは安全性を証明することは無理です。 吉野 物流機能だけで、品質保証の機能まで備えていないのです。しかし、これが逆によかった。それではと今度は農家と直接契約し、今は6000人の生産者のコーナーを各店舗に設けています。生産者の顔が見えるようにして責任を持ってお客様に安全性を説明できる体制を整えているわけです。もともとスーパーマーケットの原理原則には、消費者と販売者の関係を深くしていかない限り消費者情報を生産者にフィードバックできないという基本がありますから、今後とも三位一体でやっていきます。 ◆研修に本腰新会社をつくって 原田 安全性と企業自体としての取り組みについてはいかがですか。 吉野 コンプライアンス(法令順守)とかガバナンス(企業統治)とかの社会的要請がきていますが、うちも約3万人の全従業員に対し、正直なビジネスをやっていくための教育をどうすればよいのか悩みましてね。 ◆取締役会も毎週 勉強続ける 原田 従業員の教育も、従来の売り場作りや、接客に加えて安全についての商品知識や規則、法律に重点を置く内容になるわけですね。 吉野 マルエツには創業時から「お客様のために」という基本理念がありましたが、従業員教育面が弱いため「お客本位」よりも目先の「販売」が前に出ていました。そこで教育投資を強化しようと2年前に役員自らが勉強することになりました。そこへコンプライアンスという言葉が強調されてきました。 原田 生鮮三品の現場は最近まで商品の価値判断は職人の世界でした。定評ある産地の品物でも毎年同じとは限りません。今年の品質は今ひとつなどと見分けるのは各品目のプロでした。そんな世界へコンプライアンスを持ち込むのは難しくありませんか。 吉野 いや今は少なくなった。そういう職人芸をむしろ求めたい状況です。今の世代は効率的にシステマティックに商品づくり、売り場づくりをしていくような技術者ばかりです。 原田 そうなると全農を含め農協の役割は、卸売りの機能を期待されるということですか。 ◆商品開発はJAと連携して
吉野 集荷と卸売、さらに、その上で、私どもにとっては、もうバイヤーがいらないといったほどの役割も期待されるのではないですか。 原田 コストでは中国産などに対抗できないのだから、やはり国産品は安全・安心を正面に出した戦略が決め手ですね。 吉野 一部の消費者のニーズは余りにも神経質過ぎる面があります。そこでチェーンストア協会は、このままでは今の2倍のコストをかけてもニーズに応えられなくなりますよ、と説明して消費者団体に啓蒙運動をお願いしています。農水省と生産者、販売者が共に運動して国産品愛用を訴え続ければ中国産に勝てますよ。 原田 トレーサビリティには大変なコストがかかる点やコストを誰が負担するのかも、そうした運動の中でもっと議論する必要があります。 吉野 小売業の一側面には、消費者を教育しながら販売していく責任が本来あるのです。 原田 食肉の偽装事件などの場合、その会社の製品を売り場から撤去するチェーンと、商品は売り場に置いて消費者の選択に任せるチェーンがありますが、マルエツさんはどちらの方針ですか。 吉野 いえ商品の品質と偽装事件は別の問題ですから、品質に問題のない限り撤去しないであくまでお客様に選択していただきます。買う買わないはイメージの問題ですからね。ば声を浴びせる方もありますが、品質や供給責任を説明しています。 ◆同志増やし6業態棲み分け 原田 デパートの地下食品売場が繁盛しております。マルエツさんは郊外と同時に都心部への店舗を意欲的に展開されておられますが、今後の方向はいかがですか。 吉野 現役世代の職住接近や退役世代の都心回帰などから都心の人口が増えているのに、商業施設は、この3年間に東京都民1人当たりの売場面積で10%弱しか増えていません。このためデパ地下のお客様が増え、さらにお客様の苦情に合わせて価格も下げたから繁盛しています。 原田 マルエツグループはM&A(企業の合併・買収)も含めて拡大されていますが、今後もこの方向ですか。 吉野 ええ、総合的な出店戦略からしますと、消費者の志向は2極分化ですから、もう少し高級な食品スーパーのグループ化も進め、71店を増やしました。うちにノウハウのない業態では既存店を同志にしたわけです。業態別の棲み分けが必要ですから看板はそのままで、販売も分散です。しかし管理は中央集権で仕入れも一本化しています。
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