シリーズ 農協運動の前進のために「農協改革」を考える ― 3 |
“マネーゲーム”を問う姿勢こそ 系統信用事業の未来、どう構築するか |
農協系統の信用事業改革はなぜ必要なのか? しばしばその理由は、「大競争時代」に対応するためと語られる。農協系統の金融業務を「一体化」させるべきとするJAバンク構想もそうした問題意識に基づいているといえるだろう。しかし大競争時代とはそもそも何なのか。そして、今後の事業はどうあるべきなのか。「横並びの競争ではなく住み分け」こそ求められており、また、「マネーゲームでよいのかと問う」姿勢を持つことを三輪昌男國學院大學名誉教授は提言している−−。 ◆ JAバンク・システムの不思議、預貸機能の無視
三輪 要するに系統一体体制を作れ、ですね。一体の具体的イメージとしてあげられているのは、IT投資とそれに基づく金融サービスの一体化。もう一つ、系統一体の早期是正措置の自主ルール。この二つです。 ‐‐どちらもイメージが浮かびます。
三輪 だけど自主ルールは、それをめぐって他と競争する機能ではないですね。ITのほうはそういう機能です。そして競争する機能としてあげられているのはそれだけ。これは奇妙です。 ‐‐金融サービスに含まれているのでは? 三輪 広義の金融サービスは預貸機能を含みますが、ITの金融サービスは預金機能・貸出機能そのものを含んでいません。預貸機能の充実に寄与する機能は含んでいますが。預貸機能そのものとは別の一群のサービスの機能です。 ‐‐預貸機能とIT金融サービス機能は別なんですね。
三輪 ただし、金融ジャーナリズムでは、将来、預貸機能は消滅する、預金取扱金融機関は他の機能で生き残りをはかる以外にない、という主張がみられます。 ‐‐しかし、IT革命が進展すると…。 三輪 その見通しは水掛け論ですね。今、個人金融資産の5割強が預貯金という日本で、また、個人金融機関である農協について議論する場合、預(貯)貸機能の無視・軽視は許されません。 ‐‐ところが無視、というわけですね。
三輪 それだけでJAバンク・システム構想は撤回すべき、となる。だけど、さらに議論しましょう。貯貸機能の系統一体イメージはどういうものか。 ◆ 一体体制の現実的な見直し ‐‐農協・信連・農林中金を単一法人にする、ですか。
三輪 極限はそうですね。しかし「ひとつの金融機関」として機能するような一体化だから、単一法人化の話はなしですね。 ‐‐人事の一体=一元化。 三輪 そうです。人事を単一法人と同じにする。しかし単協での合意が難しい。給与格差が大きい。だから現実性はないですね。 ‐‐とすると、中金から単協へ出向する。
三輪 せいぜいそんなところ、になってきますね。それを一体体制というとして、しかしそれにメリットがあるでしょうか。 ‐‐それでも指導力があるからメリットが……。
三輪 指導力が本当にあるでしょうか。
貯金業務・貸出業務は地域性を持っています。農協には固有の地域特性がある。他の金融機関との競争での、農協の勝負手はこれです。地域特性を掘り起こし磨いて勝負する。 ‐‐結局、メリットなしで取り止めになる。 三輪 そう思います。 ◆ 指導力でなく調整力、地域特性で勝負時代 ‐‐中金は単協貯貸業務に関して無能ですか。 三輪 必ずしもそうではありません。全国段階にいるから、調整力はあります。 これまで中金(推進部)は信連と連携して「推進方策」を作ってきましたこの強化が課題になります。 これまでは、全国画一的な単一の方針の作成・提示の趣のものでした。単協貯貸業務の地域性に留意するとき、そうでなく、経験交流の場作り、方針の選択肢の提示、に変わる。これは調整力の発揮です。 ‐‐一体体制といっても、現実にはそれくらい…。 三輪 そう思います。しかし一体体制とは別に、信用事業系統のあり方については、さらに議論が必要です。あとでやりましょう。 ‐‐一体体制のつづきですが、全中会長ほか農協系統会表者などから成る「農協金融中央本部」を、農林中会に設置せよ、という話があります。 三輪 全中会長たちが構成するのだから指導機関。とすると私には理解できない話です。理事会がある。そのチェック機関として新たに経営管理委員会を設ける。対応する両者が系統一体体制を構築し指導する。ここまでなんとか理解できる。ところが、それを指導する。屋上屋ですよ。 ‐‐自主ルールの運営に当たるような話もあります。 三輪 それだと、全中会長たちで構成するのはおかしいですよ。どちらにしても、全中会長たちが構成する組織を農林中金のなかに置こうとするから、無理が出るんじゃないですか。 ◆ IT化目的留意事項、上すべりの議論を排す ‐‐先に進む前に、IT投資に戻って、必要な議論をしてください。
三輪 IT投資一元化は必要なことです。政府にいわれてでは情けないですね。 ◆ 「大競争」の乱用悲し、「対等の」競争でなく「住み分け」の競争 ‐‐大競争時代に他の金融機関と対等に競争するためのJAバンク・システム構想。それは疑問ばかり。別の構想を議論してください。
三輪 「大競争」の使い方が気になります。元はメガ・コンペティションの訳語です。この英語はグローバリゼーションと不可分のもの。巨大多国籍企業の世界制覇の戦いをさします。それを農協が参加する国内のローカルな競争に使う。文化水準が疑われる。聞くと、私は悲しくなります。 ‐‐「対等の競争」ではなく、住み分けの競争と発想すべきなんですね。住み分けに成功する方法は……。 三輪 自分の特徴に注目することです。弱みを解消し、強みを磨いて勝負する。 ◆ 異常な低貯貸率を直視、これにどう取り組むか ‐‐農協の弱みはいろいろありますね。 三輪 システムの議論に関連している一番の弱みは、貯貸率が異常に低いことです、膨大な余裕金の運用難で悩んでいます。その弱み。 ‐‐低貯貸率だから不良債権が少なくてすんだ、という人がいます。 三輪 その人は相授資金を全部使って始末しなきゃならないほど不良債権が多いといっていましたね。そして、低貯貸率についてはそういうだけで、異常さ、弱みを問題にしていない。極楽トンボですね。 ‐‐低貯貸率の原因は。 三輪 いろいろあるけれど三つだけあげます。(1)個人金融機関だから。(2)土地代金が貯金として歩留まっている(分母大)。(3)農林公庫資金のような政策融資が、農協の貸出をへこませている(分子小)。 ‐‐どう克服するか。 三輪 (1)は変えられませんね。(2)は土地代金がある限り貯金として確保しておきたい。(3)は政府の考え方で左右されることです。 それぞれに即しての解消は難しい。 ‐‐弱みはつづく……。
三輪 貸出の拡大に努力する道があります。 ‐‐どう取り組むか。 三輪 前に触れましたが、農協固有の地域特性を生かすんです。 ‐‐具体的にはどういう?
三輪 ▽地域で農業を営む人たちを中核とする地域住民の協同組合である。▽集落を基盤にしている。▽小学校区に活動拠点(支所)を持っている。 ◆ 県一円の信用事業統合も選択肢の一つ ‐‐他の農協との経験交流も大切ですね。
三輪 信連の調整力の発揮が期待されます。 ‐‐農林中金はどういう位置づけになりますか。 三輪 今がそうであるように、農業関連産業融資と、機関投資家の機能を持つ組織として、系統の全国段階に位置する。前に話した調整力の発揮機能は保ちつづける。それから系統一体のIT関連の統括。 ‐‐系統全体のイメージについて他に何か……。
三輪 一体体制を作れば、合併して今や数行になった大手銀行と横並び競争できる、という発想があるように見受けますが、それは幻想です。単位農協が異常な低貯貸率。その克服の道は固有の地域特性の発揮。単純に合計して資金量が匹敵するから対等、というわけにはいかないんです。 ◆ 公的金融のあり方も視野に入れて展望拓く、それが政府の役割 ‐‐うかがわせてください。
三輪 金融情勢について、大競争時代がくるといい、もっぱらそれを与件にして、どう対応するかを議論している。受け身の議論です。私は、それで終始するのでなく、金融情勢の変化に自分から進んで関わる姿勢での議論が必要だと思います。 ‐‐公的金融のほうは…。 三輪 金融ビッグバンといっても公的金融に関する話はごく少ないですね。それを問題にすることです。 |