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シリーズ 「再生21」への挑戦―コープこうべ

新ビジョンは「第3の創業」
時代を切り開く思想

今野 聰 元(財)協同組合経営研究所研究員


野尻・新理事長の時代認識
店舗展開は生鮮品の力で
店舗展開は生鮮品の力で
 経営トップの話を聴くことができた。野尻武敏新理事長、1924年生まれ。神戸大学名誉教授で、昨年から非常勤の現職である。実に穏やかな話し方であった。だが戦中、戦後混乱を体で知っているからか、熱意は並々ならぬものを感じた。以下力説された要点を紹介しよう。
 (1) 以前に96年から10カ年の長期ビジョンを創った。しかし事業経営は97年、98年と不況時代に入った。そのため、新たに2003年以降を発展期ととらえた10年後の「中長期ビジョン」策定に取り組んでいる。これは21世紀初頭に向けた「生協運動の発展のシナリオづくり」である。
 (2) 原案はこの秋以降、地区総代会で提起、組合員・職員の討議を深めていく。
 (3) 新ビジョンは、時代の転換と生協の危機を認識した上で、生協の原点回帰は欠かせない。その意味では体制を改革して、戦後の焦土からの再建に続く、「第三の創業」を行うというものになる。
 (4) その場合、「自発・自立・自治の共助組織」として「誠実」と「他者への配慮」という1995年のICA「アイデンティティ声明」を根底におくことになろう。
 (5) これからは三元社会になる。そこでは行政でも企業でもない、さまざまな協同組合が入った国際NGO組織が大きな働きをすることになる。
 (6) 更に食品偽装事件に典型的だが、消費者が生産者を選ぶ時代になろう。
 (7) ここに共助機能をもった生協が対社会的機能として、地域コミュニティづくり、生活直結法規制対策、平和運動などに大きな役割を果たすことが求められる。
 さて、こうした箇条書きによって、理事長の熱意の全てを紹介できるか、やや心配である。そこで格好の文献を借りる。創立80周年記念事業に『コープこうべの理念を考える』(2002年3月発行、全文119頁)の冊子がある。その中で、理事長は以上の箇条書き風な報告をしている。その上で、重要な部分を補足引用しておこう。
 「生協で働くものには、もちろん報酬も問題だろうが、しかしそれ以上のものがあるのでなくてはならない。(中略)生協で働くことは社会的な助けあいと新しい時代を拓いていく大事業に参加していることにもなるはずだからである」
 しばらく忘れていた言葉だ。明らかにこれからの生協での未来労働を語っている。生協に人生と命をかけるとはそもそも何かと問いかけてもいる。その労働とは、おそらく漢字で表記すれば「協働」となろう。ニュアンスとして、ここには現代資本主義が創造したテーラーシステムのごとき工場制分業労働ではない。戦前を含む過去80年を集約した上で、理念付きの未来労働である。その下で労働賃率を決めよう。その方法の革新も語っているのだろう。ここで賃率技術論には敢えて入らない。その代わり、理事長とコンビを組んでいる小倉修悟組合長(1943年生まれ)に登場してもらおう。前述の冊子でこういう。
 「私たち専従の役職員は、組合員から給料をいただくプロの集団である。140万組合員の280万の目は、いつでもどこでも厳しく光っている。この人にできて、あの人にはできていないということは、絶対に許されない」
 アメリカの百貨店研修の折り、顧客第一主義に出会った。一見さんにすぎない自分に応対された経験があってのことだ。夕方の懇談の席で、私は小倉組合長に労働理念と意欲の源泉は何かと問うた。「エートスでしょうな」。エエッツ?40年前就職してから、すっかり忘れていた言葉だ。広辞苑を開く。ギリシャ語で「ある民族や社会集団にゆきわたっている道徳的な慣習・雰囲気」とある。このニュアンスを理解すれば、「モラール」などではない。「働く意欲を歴史的、日常的に表現するコープこうべの道徳規範」とでも言えば良いか。店内での接客態度とか、生協理念を日常化した組合員応答とかを当然含む。だがおそらく言葉の問題でもあるまい。日本中の生協・農協が経営者として、不況だからがまんして働いてくれとお願いする類とは次元を異にする。労使が共通のテーブルで合意するシステムとか、労働評価情報がルールのもと公開されるなどの規定など、実際には簡単ではあるまい。事実ここ2年ほどの報告書に、希望退職の提案と応募の結果が触れられてもある。苦渋もみえる。だがこれ以上詳述はしない。



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