農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(1)

トップマネジメントの確立と戦略意思の明確化
現地レポート JAいずも・JAえちご上越・JAはが野・JA三次
田代洋一横浜国立大学大学院教授


 第24回JA全国大会決議で「JAのビジョン」づくりが決議された。本紙ではビジョンづくりに向けた課題を現場から考えるため今年7月から8月にかけて7名の農業、農協研究者に合計20JAを訪問してもらいJAトップ層にインタビューなどを行ってきた。
 今号から研究者ごとに訪問先JAの実践についてのレポートをシリーズとして掲載していく。第1回は田代洋一横浜国立大学大学院教授。

田代洋一教授
田代洋一教授

四つの農協を訪問して
 4JAを訪問した印象を二つ。一つは、いずれもトップマネジメントが確立し、戦略意思が明確な農協であり、組織再編、経済事業改革は一段落したという共通認識である。担い手支援の具体策とともに、国の担い手以外の農家も担い手に位置づけて支援する姿勢、直売所・インショップ等の隆盛、物流をはじめ全農との機能分担の徹底等の共通項も多い。
 次なる段階の課題は米依存からの脱却、准組合員を含む組合員拡大、出向く体制と支店・営農経済センター機能の確立か。しかし米経済が土台にあり、オール園芸シフトは産地間競争を激化させ、准組合員の増大はその経営参加を促し、営農経済渉外の効果はこれからだ。
 二つめの印象は、支店統合(JAいずも)、施設型事業の外部化(JAえちご上越)、経済渉外の位置づけ(JA三次)、女性理事登用(JAはが野)など(カッコ内はやらないJA)、いずれをとっても対応は実に多様である。
 それぞれの地域特性にフィットしたポリシーの確立をめざしており、全国一律パターンの押しつけは無用ということを示している。

農協・生協・信金の三面体
JAいずも(島根県)

◆支店統合せず

島根県・地図

 組合員数6万弱、出雲市の成人人口の半数を占め、准組合員の割合は8割弱。1996年に合併したが前組合長の約束ということで支店統合はせず、ガイドラインに満たない支店は職員1〜3名の「ふれあい」店舗と称し、信用事業を行わずATMを設置する。その他の支店には営農指導、経済係を1名程度置くことにしている。

◆農業振興に力を

 農産物販売額は約90億。ぶどう等が4割強、生乳や肉牛等が3割強、米などが1/4程度。市とともに21世紀出雲農業支援センターを設立し、市が5名、農協が2名の職員を出して集落営農の育成や法人化に取り組み、法人9、特定農業団体12等を立ち上げ、農協としても3法人に出資している。60代、70代はまだ後継者だという位置づけで高齢農業者も支援し、農協を辞めて就農する50代職員には支援金を出す。
 営農部内に指導特産課を設置し、京阪神を中心に米やぶどうの市場開拓を図っている。地元のソバといもを使った焼酎を開発し、地元出身者400名に通信販売を行っている。

◆経済事業の赤字克服

  経済事業の赤字ををいかに減らすかが最大の課題で、3割減を目標とし、販売手数料も1.8%から3%に引き上げ、職員の拘束時間も100時間増やして2000時間にしている。資材も全農一本ではなくメーカーと組んでPBの開発等を行っている。

◆気を吐くAコープとコンビニ

  購買事業180億の内訳は生活用品等が86%、主力はAコープ「ラプタ」7店舗で115億の売り上げ。全店に直売コーナーを設け、出荷者600名で2.2億の売り上げである。2年前から30坪のコンビニ7店舗を出店し、1日700〜800人の来店。いくつかのコンビニにはATMを設置し、また全店で自動車共済の一次受付、農協時間外の受付を行っている。コンビニでは高校生などの若者への浸透を図る。2006年秋に総合ポイントカードを導入し、これを軸に半年で1.2万人も組合員を増やした。
貯貸率40%
 貯金は2000億円強で横ばいだが、貯貸率は40%を越す驚異的な水準である。常務に地元銀行出身者を迎え、農家を中心に住宅・教育・マイカー・環境等に取り組み、住宅関連会社との連携強化を図り、また地場企業等への貸し出しも行っている。

多様な担い手支援を図る
JAえちご上越(新潟県)

◆出向く体制の徹底

新潟県・地図
  2001年に7農協が合併し組合員4万の大規模農協となり、33支店を26支店に統合。支店は金融共済を主にし、「営農経済営業」を全部で35名を置いて渉外に当たらせる。そのほかに管内5名の「専属営業」を養成しており、一人で大規模経営150程度を目途に月1回は必ず顔出しして肥料農薬の販売にあたらせ、金融共済渉外も80名程度を置き、「出向くサービス」の徹底を図る。出向く体制を強めるほど准組合員が増える傾向にある。経営管理委員会制度を取り入れ、女性委員も4名いる。

◆多様な担い手支援

 行政とともに2005年に担い手育成総合支援協議会をたちあげ、農協から2名を協力職員として派遣し、集落営農の法人化に取り組み、70を目標にしている。農協も独自に15項目の担い手支援策を打ち出し、大豆転作機械のリース、施設利用料の割引、自己販売する米の手数料引き下げ、法人出資、大口割引等を行っている。
 同時に品目横断的政策にのりにくい集落・農家対策としてJA出資法人・アグリパートナー(AP)をたちあげ、農家は APに利用権を設定し、APの作業班としてグループで農作業することで政策対象になれるようにしている。

◆米と園芸の複合化を

 管内の米は約110万俵、そのうち70〜75万俵を農協が集荷する。リスク回避のため全て全農を通しているが、結びつき販売が7割に達する。上場区分は「一般コシ」で価格的に苦戦するなかで、肥料農薬の3割減減栽培に取り組み、ほぼ9割の普及をみている。5割減減のエコファーマーの作付けも1500haに達する。減減栽培用の肥料・農薬は自ずと農協に結集することになる。
 販売額の9割を米が占めるなかで、リスク分散を図る必要があるとして、枝豆、やわはだネギ、オータムポエム、いちじく等の園芸作との複合化を必至に追求し、園芸トレーニングセンターや直売所「旬菜交流館あるるん畑」を開設し現在は約300名が出荷している。

◆経済事業改革は終わった

 価格調査を月一回は行い、農薬はホームセンターと同水準にし、価格クレームはなくなった。
 出資配当を減らし、利用高割り戻しを厚くし、価格引き下げの形で還元したい。
 資材は農協に取りに来てもらう引き渡し価格とし、配達料をもらうようにし、物流は全農委託である。
 Aコープ、葬祭、SS、クルマ関係等は基本的に直営で、営利に走らないよう会社化はさけている、残る経済事業改革はSSの地下タンクの老朽化対策のみ。

営農指導体制を再構築
JAはが野(栃木県)

◆先行する部会統一と営農指導体制

栃木県・地図
 1997年に芳賀郡6農協が合併したが、6支店への統合は今年やっと実現。むしろ部会統一を先行させ、いちご、なす、梨、にら、椎茸、春菊は統一部会を合併当初から発足させた。「共和国ではない農協になりたい」が悲願。
 2000年から営農指導体制の再編に取り組み、「広域営農指導員」7名を置いて生産部会の地域格差をなくし、共計共販も2002年のいちごを最後に確立した。2003年には「営農経済渉外員アクシュ」9名を本所に置き、認定農業者等1900戸を10日に1回は回らせる。さらに04年に品目横断的政策に対応するため「大型農家班」3名を設置、また地区営農センターには計30名の「営農相談員」を置き、販売業務と兼務する。こうして〈広域営農指導員―「営農経済渉外員」「大型農家班」―営農相談員〉の体制を構築した。

◆販売戦略の強化

 合併初年度と06年度の販売額を比較すると、米が116億から67億へ、園芸がパッケージセンターも併せて105億から131億へ、トータルで251億から228億へ、である。米の大幅減を園芸作の振興、いちご86億円の日本一の産地化でもカバーしきれていない。
 そこで2002年に販売企画専門の園芸・特産販売課4名を発足させ、取引会社の絞り込み、全農直販、スーパーチェーン等との市場外流通、メーカーとの契約栽培、コンテナ流通、インショップ・直売所の拡充、パッケージセンター2つ等を打ち出す。
 今後の課題は米。流通情勢が厳しくなるなかで囲い込みを図りたいとして、カントリー1基5000tの増設を計画している。

◆果敢な経済事業改革

 経済事業の赤字部門はできる限り農協本体からは切り離す方針で、2001年にはSS・クルマ・ガスを子会社「はが野サービス」に移行させ、08年には全農との一体会社に移行させる。06年に観光部門を県旅行センターに経営委託、07年に農機、食材を全農にそれぞれ運営・経営委託する。
 2002年には物流を全農に委託する県域物流システムに移行し、委託料1.16億円差し引きで8200万円のコスト削減を果たした。これらに伴い0.5〜2.0%の大口取引値引きをしている。
 経常利益は農業関連1.9億の黒字で、営農指導事業も賦課すれば農業関連も1千万円弱の赤字にはなるが、ほぼトントンに近い。
 また部会組織は確立したが、今後は地域組織の強化や女性理事の登用が課題である。

外貨と組合員の獲得に成果
JA三次(広島県)

◆担い手支援

広島県・地図
 1991年に7農協が合併して誕生。支店は7、8年かけて10支店に統合した。金融共済支店だが、6支店には小さな資材店舗が併設されている。営農振興を中心にいかに組合員に必要な農協になれるかを追求し、まず担い手の育成・法人化を目指し、2004年に営農振興課を設立。現在18を手がけており、3法人に出資、また5つの地域営農集団協議会を組織している。大型経営にはライスセンター料金の割引、米出荷助成、法人からの米の買取販売、資材の大口利用割引をし、法人・集団には500万円以上は7%の割引にしている。

◆外貨を稼ごう

 農産物の販売額は合併時の72億円が40億円に減り、うち米の減が1/3、それをカバーするためアスパラに取り組み、現在は40ha、2.5億円で関西一の産地になった。
 生きがい対策と所得増をめざして、「外貨を稼ごう」と広島市のアンテナショップ、スーパー、デパートのインショップを開拓し、5.5億円の売り上げで、部会員は一挙に300名増えて950名になっている。それらの委託販売を買取制に移行させた。営農指導員は支店配属だったが、地域担当とアンテナショップ等の専門担当に再編した。

◆経済事業改革

 資材価格で勝てないのは[予約→早期引き取り→奨励金]のシステムだとして、早期引き取りはやめて奨励金を仕入価格引き下げに回してもらい、配送は全農の三次配送センターに委託した。グリーンセンターが営農センターに併設されたものを含め3つあり、普及OB等の相談員を置いて営農指導等の相談にのる。
 経済事業は農機を除いては黒字だったが、LPガス、SS、クルマ関係は子会社化、農機は近隣3農協と全農で会社化、葬祭はJA庄原と共同の子会社・アスクスの設立、Aコープは広域のAコープ中国に経営移管した。組合員に不評の生活関係の推進はやめた。

◆進む組合員拡大

 中山間の高齢化地域ということで合併から2004年までに組合員が1845人も減った。そこで2005年度から組合員拡大運動に取り組み、後継者や女性の複数組合員化、准組合員の拡大を、職員1人当たり10人を目標に取り組んでいる。結果は差し引き初年度1752名増、06年度1139名増、今年1900名の計画である。「若い人が入ってくれるので将来が楽しみ」としている。

(2007.10.29)


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