農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(2)

「園芸作への転換」、「多様な担い手づくり」、
「加工や消費者との連携」
−福岡、佐賀にみる「JAのビジョンづくり」−
JAさが・JAくるめ・JA福岡市
武孝充 前JA福岡中央会水田農業対策部長


武孝充前 JA福岡中央会水田農業対策部長
武孝充氏
 シリーズの2回めは福岡県と佐賀県で取材に協力していただいた3JAの現在の取り組みをレポートする。
 それぞれの取り組みからは園芸作へのシフトに努力、担い手対策への工夫、加工事業などによる付加価値創造と、生協、地元消費者との連携による販売強化などのビジョンづくりのためのキーワードが浮かび上がってくる。JA福岡中央会の前水田農業対策部長の高武孝充氏にレポートしてもらった。

こうたけ・たかみつ
 昭和25年福岡県生まれ。岡山大学農卒。50年福岡県農協中央会入会。水田農業対策部長などを歴任。九州大学大学院農学研究院博士課程修了。(農学)博士。

「新佐賀方式」で集落営農を組織化
JAさが(佐賀県)

◆経済連の事業を単位JAが承継

JAさが・地図

 平成19年4月1日、県内11JAのうち8JAが合併してJAさがが誕生した。平成6年度の第23回JA佐賀県大会で、県連機能をJAに取り込み組織2段・事業2段階制を実現し、自己完結機能を備えた「佐賀県内単一JA」を決定したが、全国連と県事業連の統合が進む中で、この10年余熟慮に熟慮を重ね、経済連の事業を承継してJAさがが設立された。
 経済事業に関しては、多くの県連が全農との統合を進め県本部となる中で、JAさがは経済連をJAに取り込むという組織2段制を選択したところが大きな特徴だ。
 これは全農に統合することによって、組合員・JA・経済連が長い時間をかけて築き上げてきたソフト・ハード資産がなくなるのではないか、という危機感から「経済連の事業は生産者から近いところに置く」(野口好啓代表理事組合長)という総意からこのようになったのである。

◆加工事業による経営への貢献

 経済連機能を取り込んだJAさがは、事業本部制を敷き、旧JA本所を統括支所として本所と連動させている。営農・経済事業と密接に関連する事業本部は、営農事業本部および加工事業本部である。営農事業本部は、農業振興計画や担い手の創出・育成を主とする営農企画部、それぞれの農産品目ごとの販売や精算等をおこなう農産部、園芸部、畜産・酪農部と資材の供給・配送およびコスト低減や配送ルートの効率化などの改革等を行う農業資材部、物流部という組織機構である。
 また、加工事業本部は、農畜産加工部と段ボール部からなる。農畜産加工部は、加工企画課、品質保証課、農産加工課、食鳥事業課の4課で構成され、単位JAとしては異色である。農畜産物価格が低迷する中でこの「加工部門をJAさがに取り込んだことが経営的に将来大きな強みになる」(野口好啓代表理事組合長)としてさらに充実をはかる計画だ。JAさがは、佐賀県産を食材にしたレストラン「季楽」を東京銀座、福岡天神、佐賀市に開設し、付加価値をつけたビジネスを展開している。野口組合長は「佐賀県産を食することは日本型食生活の模範」として自信を深めている。

◆集落営農組織を核にした担い手の育成・創出

 品目横断的経営安定対策の対象農産物は米・麦類・大豆である。その支援対象となる担い手要件を具備した対象農業者等の創出・育成状況には目を見張るものがある。
 18年産作付面積をベースに対比すると、対象農業者等による19年産作付面積のカバー率は、麦類100.2%、大豆105.4%、水稲61%である。全国平均と比べて相当高い。特筆すべきは、支援対象である経営体による面積カバー率は、認定農業者がおよそ20%であるのに対し、集落営農組織によるものが80%相当に及んでいる。大きい集落営農組織は500ha規模もあるという。JAさが管内にはカントリー・エレベーター(CE)、ライス・センター(RC)など共乾施設が38カ所存在する。集落営農組織による面積カバー率がこれだけ高いのは、従来からCEなどの共乾施設の運営はJAではなく、それを利用する生産者(共乾施設利用組合)が行っている。従って、CE等共乾施設の利用率も高い。
 こうした佐賀県の特徴を活かして、県や農協中央会も共乾施設をひとつの目安として集落営農組織の範囲を指導している。新佐賀方式といわれる方法である。
 集落営農組織は農用地の効率的な集積・利用には最も効果的な仕組みである。JAさがは、地区営農センターに「担い手対策室」を設置するとともに本所と連携して、経理の一元化や法人化は支援策の一環としてJAが行うものとし、経営の継続性についても農家経営コンサルタント事業として個別指導を実施する計画である。

組合員のニーズに応える
「食材センター」が健康にも貢献
「JAくるめ」(福岡県)

◆土地利用型農業から高収益園芸農業へシフト

JAくるめ・地図
 久留米市は人口30万人を有する県南部の中核都市である。農業も盛んで市町村単位でみた農業産出額は県内トップの位置にある。平成17年2月には、周囲の4町が合併し新久留米市が誕生したものの5JAが混在し、旧市町村単位の地域水田農業推進協議会が残っている。JAくるめは合併によって昭和55年に誕生したが、当時の農業生産額は99.7億円でうち米・麦・大豆が49.7億円(49.8%)とほぼ半分を占めていたが、近年では農業生産額は97.6億円と農産物低迷のなかで当時の水準を維持しているものの、米・麦・大豆は25.4億円と全体の約25%まで落ち込み、これをカバーしているのが施設を中心とする園芸作物であり、20.3億円から41.5億円へと2倍以上の生産額にまで成長しており、シェアも42.5%でいまやJAくるめの中心作物となっている。

◆多様な担い手の創出・育成への対応

 JAグループ福岡では、担い手の創出・育成について品目横断的経営安定対策の対象となる米・麦・大豆の担い手を「政策支援対象担い手」とし、それ以外の他作物農業者、高齢農業者や女性農業者等を「地域担い手」として位置づけている。
 JAくるめは、平成18年4月には営農経済事業部のなかに「担い手課」を新設し対応をはかってきた。米では、作付面積1700ha(うち保有米200ha)の1400haを集積し、1380haについてナラシ対策の加入となり作付面積(1700ha)対比81.2%のカバー率である(保有米面積200haを除けば92%のカバー率)。麦は1300ha、大豆は380haでともにカバー率100%である。福岡県全体の06年産作付面積に対する担い手カバー率は、麦92%、大豆89%、米24%であるから、「JAくるめ」の担い手創出・育成の取り組みは驚異的でさえある。また19年6月開催の総代会に提示された「JAくるめ農業ビジョン」によれば、担い手育成指導員を現在の11人から平成22年度までには倍増の21人まで育成する計画だ。経理の一元化指導・事務代行、農業法人化への対応を充実させる考えである。
 一方、JAの理念・存立基盤から「水田農業の構造改革に取り組み、政策支援対象の担い手の創出・育成は必要だ。しかし、JAとして女性農業者など地域担い手もまた必要だ。地域でいかに共存を図るか今後の大きな課題だ」(平田幸治代表理事組合長)の言葉は重い。

◆「地産地消」と「食育」にも力

 JAくるめは、従来から女性部・青年部活動が活発である。「地産地消」や「食育」などの活動は、彼らが積極的な役割を果たしている。「地産地消」の拠点となるのは、管内2か所の直売所とゆめタウン・Aコープ店内に開設された2か所のインショップおよび平成17年にオープンした「食JAN市場」である。このほかに、管内10カ所の朝市も好評である。
 異色なのは、「食材センター」である。多様な組合員のニーズに応え、健康で豊かな暮らしの実現を掲げて、理想的な献立に基づいた食事の素材を家庭まで届けるもので平成3年にスタートした。利用者は約1700戸で大変喜ばれているとのことだ。「食育」活動の中心は、学童農園である。青年部が積極的に対応している。
 「JAくるめ農業ビジョン」では、平成18年度学童農園実施小学校が22校(実施割合81%)であるのを平成22年度には25校(実施割合92%)まで拡大する考えである。また、行政と連携した取り組みとして「くるめ農産物地産地消推進セミナー」を開催し、地元農産物を使った料理の提案や食料・農業の大切さを地域生活者に発信する活動も定着している。

生協との連携をすすめ都市周辺の農地を守る
「JA福岡市」(福岡県)

◆「地産地消」ではなく「地消地産」

JA福岡市・地図
 JA福岡市は、政令指定都市福岡市(およそ人口133.6万人)の中心部に本店を置く典型的な金融型JAであるが、農業も糸島に隣接した西区、脊振山系のふもと早良区などで都市農業としてしっかり維持し、営農・指導事業について本店の指導部・経済部と地域の拠点としての3つのグリーンセンターとが連携して熱心に取り組んでいる。そのコンセプトは「地消地産」である。その意図は「地域の消費者が求める安全・安心な農産物、新鮮で品質の良い農産物をJA福岡市で安定的に生産・供給するという農業振興・販売戦略を示すもの」(木正夫常務理事)という。福岡市という地の利を背景にした名言であり、マーケティングの発想である。
 JA福岡市の販売高は33.7億円で、昭和44年から米中心の営農類型から園芸への転換をはかり、今では米5億円、野菜19.8億円、花卉6.2億円という都市農業の典型である。しかし、「安全・安心な農産物を生産・供給する」とするコンセプト、特に米づくりに関してJA福岡市が取り組んできた水田農業への長い歴史がある。

◆「赤とんぼ米」と生協との協同

 無農薬・減農薬栽培への取り組みは昭和47年の35年前、生産者の農薬散布による健康調査による被害が発端である。これを機に生産者が米づくりについて自ら考える組織を立ち上げた。勉強を重ねながら無農薬・減農薬栽培に取り組むようになったのは25年前からである。福岡農業改良普及センターに減農薬米を推進する職員の影響もあり、全国的にもいち早く取り組んだ。今では、農薬の年間平均散布回数は0.1回程度というから、よほどのことがない限り散布しない。
 こうして栽培された米を「赤とんぼ米」と言うのは、都会である福岡市の中心から郊外に足を向けると、昔ながらの自然とのどかな田園風景が広がっており、赤とんぼが育つほどの清らかな水と田んぼで、生産者が米づくりに励んでいるという意味をこめて命名したのだという。赤とんぼ米づくりのために、JA福岡市は独自に開発した水稲専用の有機・苦土入り肥料「赤とんぼの里」を普及推進している。
 さて、地元の生活協同組合との提携であるが、毎年生産者(JA)と消費者(生協)とで栽培基準(ランク毎)を確認しあいながら、交流活動をつづけている。具体的には、年間2万俵程度の販売予約契約活動や天候異変による不作等のとき生産者の手取りを確保するために、生協の組合員である消費者が積立金などを行っている。また、消費者が家族づれで田んぼを訪れ、消費者の児童が作った案山子を田んぼの畦に立てるなどさまざまな交流がなされている。長年培われた生産者と消費者との信頼関係がなせる業である。

◆コメの買取り販売の実施も

 JA福岡市管内には、品目横断的経営安定対策の対象となる担い手はごく僅かである。
 従って、営農指導・販売の重点は、種子の温湯消毒と無農薬・減農薬栽培米を幅広く普及したうえで、生産者の手取りを少しでも高く確保するには、確実にJAへの米集荷を増やし、年間を通じて購入契約をした消費者に届ける方法以外にない。そのため米政策改革を機に、全組合員にアンケートを実施し、米買取という販売事業改革に踏み切った。
 農家からの買取価格は市場動向を見て決めるが、「仕入れ後1週間以内に支払い、農家にはプレミアムをつける」のが基本だ。
 委託販売方式で不満の多かった精算期間の問題等は解消される。JAは買い取った米を精米加工施設で精白し、ブランド米(赤とんぼ米)として、年間契約の消費者や外食産業に直販している。また、消費者からの声を的確に把握し、生産者に伝え反映させるため消費者に米モニターを依頼し、現地や精米加工施設の視察等を実施している。

◆「地消地産」運動

 「地消地産」運動の合言葉は「博多じょうもんさんブランド」の確立である。
 「博多じょうもんさん」とは、「生産履歴、防除記録等を徹底したJA福岡市の農家が生産した青果物の愛称で、安全・安心の戦略を示すもの」と位置付けている。いわゆる、博多なまりの上物(じょうもん)農産物である。これを常設市で販売するというもので平成21年度までに常設市場を6カ所まで増やす計画である。
 また、学校給食への食材の提供も米をはじめ17品目に及んでいるが、まだまだ不足している。
 これらを継続するためには耕作放棄地を防止し、農地の維持をはかる必要がある。このため、JA福岡市は、農地保有合理化事業やJA出資農業生産法人設立への対応を着々と進めている。

(2007.11.2)


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