農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(3)

農業振興の「原点」の重視と多様な販売の創意工夫
JA新岩手・JA東西しらかわ・JA三ヶ日・JAあいち知多

北出俊昭 元明治大学教授


北出俊昭 元明治大学教授

北出俊昭氏

四つの農協を訪問して
 調査した4農協にはそれぞれ特徴があるが、とくに次の3点が共通して指摘できる。第1は農業振興に真剣に取り組んでいることである。地域条件にあった農産物の選択、栽培方法の改善、肥料・飼料などの独自開発と普及などとともに、販売の多様化にも創意工夫が発揮されている。これは信用・共済事業を軽視することでなく、農協の「原点」が改めて認識されていることを意味する。
 第2は「JA新岩手」の「組合員の手取額の増加」など、組合員本位が重視されていることである。このため「JA東西しらかわ」の米の買取制など農産物販売の改革、「JAあいち知多」の生産資材の供給改革による価格の引き下げはその好例で、「JA三ヶ日」の「柑橘出荷組合」も同様である。こうした取り組みは、近年進んでいる組合員の農協離れの改善に役立っている。
 第3はとくにリーダーに強い危機意識と改革意欲があることである。経済事業改革、支所・支店の統廃合、農協運営の改革などは、「従来の惰性」や「事なかれ主義」と決別したリーダーの強い意志が成功の「鍵」となっている。
 全国には貴重な実践が多くあり、農協の今後にも展望があることを痛感した。

きたで・としあき
昭和9年生まれ。京都大学農学部卒業。昭和32年全中入会、営農部長、広報部長を経て58年3月退職、同年石川県農業短期大学教授、61年〜平成17年3月明治大学農学部教授。「農業協同組合新聞」論説委員。


営農指導を基本とした農協運営で成果
JA新岩手

◆「一歩ずつ、真っすぐに」を基本理念

新いわて・地図

 当農協は盛岡市玉山区を含む2市3町1村からなり、現在、組合員は正・准合わせて16590であるが、そのうち正組合員は68%を占めている。したがって、管内は都市近郊、純農村、山間地が混在しているが、主要な産業は農業である。
 そこで農協は、「一歩ずつ、真っすぐに」を基本理念に、「地域農業の創造と基盤固め」など4つを目標とした「第四次3カ年計画」に取り組んでいる。

◆地域に対応した営農指導

 農協管内は南部、西部、東部の3つの地域に分かれるが、当農協では営農指導こそは「農協の生命線」と位置づけ、各地域に営農経済センターを設置し、それぞれ課を設けて地帯、農産物によるきめ細かい営農指導を行っている。具体的には、米では標高差を活かした品種選択と栽培方法の徹底、野菜では用途などにより収穫期を決め、他産地との差別化が図られている。
 この結果、米をはじめ農産物の販売額は270億円水準を維持しており、とくにキャベツ、ホウレン草、リンドウの主力3品は、単品で10億円を上回っている。

◆「農家手取額の増加」をめざす

 当農協では「農家の手取額を増加させること」を重視し、米穀、園芸、畜産のバランスのとれた農産物の販売活動を基本に、「農家・利用者満足度」の追求による農協運営が目指されている。このため販売においても大手量販店、生協、メーカーなどとの提携を強めるなど、マーケティングが重視されている。

◆地域貢献も重視

 「第四次3カ年計画」の基本目標の1つに、「目に見える地域社会への貢献」が明記されていることからも明らかなように、当農協は農業生産と同時に「地域社会」への対応も重視している。このため、廃止予定の支所・出張所の再活用について地域で徹底した話し合いが行われている。

組合員に選ばれる農協への改革をめざして
JA東西しらかわ

◆「みりょく満点」統一ブランド確立を重視

東西しらかわ・地図

 当農協は7農協が合併し、現在、正組合員7106、准組合員2759である。その特徴の1つは、基幹作物である米を中心にトマト、キュウリなどの野菜について、「みりょく満点」統一ブランドの確立に取り組んでいることである。栽培方法の徹底、オリジナル肥料の開発と普及、地域の有機質資源を活用した不良土壌の改良などを進めている。これは生産物の有利販売につながっており、また、韓国農協中央会と提携し、本格的なキムチの開発・普及にも努めている。

◆農家からの米買取制度の実施

 当農協は事業改革の一環として、合併を契機に03年から農協販売高の42%を占める米について農家からの買取制を本格化し、独自販売を強化している。委託販売では農協独自の自由な事業展開が制限され、それが他業者との競争を不利にし、農家の農協利用率を低下させている、と判断したからである。買取制は農家と農協との真剣勝負であり、職員のコスト意識が重要となる。なお、生産資材でも入札を行い、価格引き下げに努め、農家の農協利用率を高めている。

◆廃止出張所の有効活用

 組合員の経済的メリットとともに、地域の発展に貢献することも農協の重要な役割である。このため当農協では、広く地域住民を対象とした活動を強め、また、文化・カルチャーなどのソフト面を重視している。一方、廃止した出張所は「ふれあい店舗」として活用し、農協OBを配置し人材の有効活用を図るとともに、組合員・非組合員が自由に利用でき、地域の連絡先や渉外活動にも役立てている。

◆役職員教育と計画的推進

 当農協は07年〜09年を期間とした「第2次かがやきプラン」、「第2次農業振興実践計画」の3カ年計画を樹立し、事業の計画的推進に努めている。この計画を実践していく上で組合員サービスの向上が重要であるとして、職員を減らさず収益向上を目指している。このため役職員教育を重視し、本年3月からは2週間に1回の常勤役員の外務の日を設定し、運営改善に努めている。

ブランドみかんで総合経営を堅持する
JA三ヶ日

◆未合併でみかんのブランドを守る

三ヶ日・地図
 07年3月現在、三ヶ日農協の組合員数は2844人(正組合員1743人、准組合員1101人)で、1961年以来合併せず今日に至っている。その基本は「三ヶ日みかんのブランドを守る」ことにあった。当農協もはじめから「合併反対」ではなく、合併するとブランド確立のための長年の努力が水泡に帰し、組合員にとってもマイナスとなるからであった。その後、この組合員と一体になって地域農業の振興を図ることが基本理念とされている。

◆組合員主体の生産・販売

 農協にとっては、みかんの生産・販売対策は最重要課題であるが、そこには、(1)三ヶ日みかんの市場調査を徹底し、肥料など独自の生産資材を開発普及している、(2)全園をマッピングしてデータ化し、個人ごとの生産指導を充実している、(3)光センサーシステムの導入など選果を充実している、(4)1960年に「三ヶ日柑橘出荷組合」を結成し、農協と専属利用契約を結び、みかんの生産・出荷対策を組合員主体で行っている、という特徴が指摘できる。

◆総合経営を活かした農協経営

 当農協の組合員一人当たりの貯金高、長期共済保有高は、いずれも全国トップクラスである。しかし、信用・共済事業で成果が得られるのは営農・経済事業により組合員所得を維持向上させているからで、「信用・共済で稼いだ分は営農に回す」理念が徹底している。これが組合員の信頼と結集を強めているのである。
 「第十次3か年計画」(2005年度〜2007年度)策定による計画的推進に努め、また、「農地銀行」などによる後継者対策への取り組みも行っている。

◆地域住民への対応と農協の役割

 当農協の農協祭には農協理念に基づいた5つの目的が明記されている。その内容は、農協祭だけでなく、農協の日常的な運営でも重視され、地域で農協の存在価値を高めている

広域JAだからこそ原点回帰で新たな挑戦
JAあいち知多

◆農業を基軸とした広域大農協の挑戦

あいち知多・地図

 当農協は知多半島全域の5市5町を区域とする、正・准組合員合計で6万人を超える広域大規模農協である。管内に名古屋南部工業地帯や中部国際空港などがあり、都市化した地域を擁するが、「農業を基軸とした協同活動」を農協運営の基本としている。その理由は、組織が大規模化し、近年、組合員から「農協らしさや親近感がなくなった」などの意見が聞かれるからである。当農協はこれを「原点回帰と新たな挑戦」と位置づけているが、本来あるべき農協を目指した取り組みとして、他の広域大規模農協に重要な示唆を与えるものである。

◆営農LAの設置と生産資材価格引き下げ

 当農協は広域農協であるため、管内に4つの基幹営農センターとそのもとに7つのセンターを設置している。同時に「出向く活動」を重視して各センターに営農LA(購買中心)を配置し、一般の営農指導員(販売担当)と協力し、地域にあった指導を徹底している。また、経済連とも協力し、野菜苗の供給事業など農産物のブランド化を進めている。
 一方、配送拠点として物流センターを整備し、農家が予約した生産資材については引き取り日を月2回設定しその価格を値引きし、全量引き取った場合は代金決済も6か月延期するなど、生産資材価格の引き下げに努めている。

◆地域内販売の多様化と「げんきの郷」

 当農協は「『集荷』から『販売』へ」を基本に、農畜産物加工センター(あぐり工房)によるカット野菜や弁当供給、量販店への販売、産直・地産地消などに取り組んでいる。
 その一環として、代表的な農産物8種類(野菜6種類、果実2種類)を使ったレシピ集を作り普及し、また、05年に開港した中部国際空港内には「花工房あぐりす」を開店している。
 一方、直売所「JAあぐりタウン げんきの郷」の売上高は、開店時の4億円が現在では22億円になっており、温泉施設などを含めると38億円の取扱高となる。
 「げんきの郷」が成功したのは、新鮮な農産物・食料を売るために職員が必死に働いている姿が、地域の利用者に感銘を与えたからである。

(2007.11.16)


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