農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの現場から「JAのビジョン」づくりに向けた戦略を考える(5)

「自信の強化」を土台としたマーケティング戦略
JAちばみどり(千葉県)
藤島廣二 東京農業大学教授


藤島廣二氏
藤島廣二氏
JAちばみどりを訪問して
 今回訪問したJAちばみどりは、今日の厳しい経済情勢を踏まえた厳しい対策を積極的に実施している。しかし、今回、お話を伺う中で感じたことは、そうした厳しさだけではなかった。本文中にも記したように、厳しさに加えて、組合員の家で生まれた犬や猫の子についても話ができるような間柄もしっかりと育んでいるのである。
 輸入が増え、価格も低迷している今日、国内の産地が生き残るためには、関係者が互いの甘えを断ち切る厳しさを持って経済活動を行わなければならないことは言うまでもない。しかし、その厳しさだけでは多くの人々が協力して一大事を成し遂げるに至らないことも間違いないことであろう。
 厳しさと同時に、厳しさをスムーズに実現しうる潤滑油が必要なのである。
 JAちばみどりは厳しさと同時に、そうした潤滑油となる心配りを十分に行っていたのである。今後、さらなる発展が期待できるJAであると強く感じた。

ふじしま・ひろじ
昭和24年埼玉県生まれ。昭和47年北海道大学農学部農業経済学科卒業。農学博士。平成元年農水省中国農業試験場地域流通システム研究室長、5年農水省農業総合研究所流通研究室長、8年東京農業大学教授、10年同大学院農学研究科農業経済学専攻食品産業経済論特論担当教授。


◆未来を見据えた営農指導・販売事業

ちばみどり・地図

 JAちばみどりは6年前に5農協が合併して成立した広域農協で、現在、正組合員数は約5000名。管内は園芸作物(キャベツ、ダイコン、キュウリ、トマト、メロン、等)の生産が盛んで、園芸農家1戸当たりの平均栽培規模は1.5〜2ha、JAの園芸作物年間販売額は240億円にのぼる。
 数ある事業部門の中で当JAが最も力を入れているのは、園芸作物を中心とする営農指導・販売事業である。それは、金融、共済、利用等の他の事業の顧客を獲得するのに、営農指導・販売事業が役に立つと言うこともあるが、それだけではない。農家が目先の利益追求に走らずに、長期的に将来まで見越した安定した経営を進める上で、営農指導・販売事業が大きな役割を果たす、と言う強い信念を有しているからである。

◆甘えを許さない選別とブランド化

 そうした長期的視野に立った営農指導・販売事業の柱の一つは、信用を確立する上で不可欠と言える栽培・選別技術の向上と、そうした技術の向上と軌を一にした管内統一ブランドの構築である。
 栽培技術の向上はどこの産地でも重視しているであろうが、当JAの場合、同時に厳格な選果を実施し、選別技術の向上に努めている。その具体的な方法は、検査員が出荷品の等階級を決定する際、1ケースの中で最も低規格の物にケース全体の規格を合わせると言うものである。この結果、当JAの出荷品であれば、優品のケースに秀品や良品が混じることはなく、逆に秀品のケースに優品や良品が混じることもない。
 同様の厳しさは管内で統一ブランドを形成しようとする場合にも認められる。例えば、合併前の旧銚子農協管内のキャベツは「灯台カンラン」ブランドで有名であるが、合併後、JAちばみどり管内で生産されるキャベツのすべてを「灯台カンラン」にしたわけではない。旧銚子農協管内以外のキャベツについては、生産技術の向上と厳選の実施によって旧銚子農協管内のキャベツとほぼ同等と判断できるようになった時、初めて「灯台カンラン」ブランドを使用できることになっているのである。

◆契約取引の積極的推進

 営農指導・販売事業のもうひとつの柱は、契約取引の推進である。当JAはこれによって農業経営の安定化をバックアップし、特に若い農業経営者の育成を積極的に進めようと考えている。
 当JAが契約取引を行う方法は二通りである。量販店等との直接取引と卸売市場での予約相対取引である。
 特に前者の直接取引は今後の重要な取引方法になるとみていて、現在、4名の担当者を配置している。今年の目標取引額は20億円で、まだまだ青果物総販売額の1割に満たない程度にすぎないものの、輸入物に対抗するためにも、近い将来、2倍、3倍にしたいと考えている。
 卸売市場経由の予約相対取引(契約取引)も、現在、直接取引と同程度の販売額である。卸売市場で競りにかけるとなると、価格が不安定となるため、収入の見通しを立てることはきわめて困難であると言わざるを得ないが、予約相対取引であれば収穫前から価格や数量を決めることができるため、農業経営としての安定度が格段に高まることになるのである。

◆「経済的活動+α」の信念

 以上のように、当JAは未来を見据え、営農指導・販売事業における経済的側面を重視した活動を行っている。しかし、管内農業の永続的な維持・発展に向けて、産地の団結力を強化し、JA力を強化するためには、そうした経済的活動にプラスαが必要であることも十分に意識している。
 プラスαとは一言でいえば、JA(職員)と組合員との絆、すなわち組合員の子どものことはもとより、犬や猫の子が生まれたことなども話してもらえるような間柄である。こうしたことは一朝一夕にできるものではなく、永い年月をかけて築くものであるが、当JAは合併以前からそうした点に力を入れてきた。
 こうした絆があるからこそ、当JAの経済的活動への信頼と、それに関する本音での意見の交換が可能となり、現在の当JAの十全な実力の発揮が可能になっていると言える。

(2007.12.7)


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