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シリーズ 農協のあり方を探る−1 |
本紙ではJAグループの経済事業のあり方などを含め今後の農協を考える「シリーズ・農協のあり方を探る」をスタートさせる。この秋に開催されるJA全国大会に向けての議案も組織協議が開始されるが、本シリーズでは現場の事業改革などに役立てるよう専門家などから提言してもらう。今回は、3月末に示された「農協のあり方についての研究会」の報告書をめぐって、同研究会の委員でJA経済事業刷新委員会座長の小島正興氏と梶井功東京農工大学名誉教授に話し合ってもらった。研究会の議論が、協同組合としての農協をふまえたものだったのかどうか、問題指摘が続出した。 ◆検討に欠かせなかった組合員たちの声 梶井 農協のあり方研究会の報告書は、農協についての問題を指摘し、広く国民各層から評価される農協系統になることが求められる、としています。
小島 たしかに研究会の問題意識には非常に大きな問題があると思います。規制緩和や独禁法の問題など、他の行政部門から農協への批判や問題の投げかけがあって、これに対して考えなくてはならないという問題が出てきたことと、もう1つは農協の農産物に対する国民の不信、とくに産地偽装問題や無登録農薬問題などがあって、これに対する対応、つまり、国民の農協不信に対してどう対応するかという問題があったわけです。 ◆農政の責任は明確にされたのか 小島 ただ、この点についてはそれでは「何時、そういう農政に転換したのか」と研究会でも問題になりました。転換したことがはっきりしないのに、なぜ農協だけ問題にされるのかと。ずいぶん問題になりましたね。農政の転換と農協のあり方は非常に関連しているはずなのに、農協の責任なのか、行政の責任なのか、はっきりしないまま農協の経済事業のあり方を改革すべきだという議論はおかしい、とかなり議論にはなりました。
梶井 産地偽装表示問題など農協にとって反省しなければならないことはありました。それは確かですが、反省して今後どうするのか考えるなら、コンプライアンス(法令遵守)を強調する程度ではすまないのであって、本来、農協の事業とはどういうものか、に立ち返っての議論こそが必要だったと思います。 小島 農協の事業自身をどうすべきかを考えるといいながら、どこに事業としての問題点があるのかという議論はあまりされていないですね。本来はそこを反省しなければならなかった。ところが、ここにうまくやっているJAがあります、一方、うまくいっていないJAも多いですね、では、うまくやっているJAをみんなが目指しましょう、という話でしかなくなった。これでは新しく農協の事業としてどこに課題があるのか、明示されたとはいえないと思います。 ◆協同組合の原則を改正農協法はふまえているのか 梶井 協同組合の本来の性格からして農協の事業はこうあるべきという点についての反省がない。実は、この点についての農水省の責任もあると思っています。 小島 そうした議論がまったくなかったわけではありませんが、最終的な報告書ではそれが反映されていませんし、そのような問題意識を持っている委員が少なかったということですね。 ◆「平等から公平へ」の転換は組合員との議論で 梶井 農協は担い手を中心とした事業に切り替えるべきという指摘が報告書にありますが、かねてから農協は高能率の生産単位をどうつくるかを課題とし、そのためには、農業構造の現実に立って集落組織を重視すべきという考え方でした。 小島 ただ、行政だけではなく農協にも問題がある。農協側自身がそういう議論をやりたがらないわけです。改革は必要で、ごく小規模な農家に対しても、大規模農家と同じように平等な経済的メリットをいつまでも与えなければいけないということはありえないわけですから。 梶井 その経済的メリットの与え方にしても、まさに農協の事業としてどうするのかは組合員と議論して決めるべきことですね。 小島 そうです。うまく行っている農協をモデルにしてある規範を作り、これに従おうということでは事業改革は進むはずがないと私も思っています。 ◆全農が先頭に立ち全中が後押しすべき 梶井 非常に気になったのは中央会が経済事業版自主ルールという規範をつくるという点です。経済事業については、その事業主体の全農が規範をつくって改革をすすめるべきということならまだ分かりますが。 小島 それはそのとおりで、本来は全農がやるべきことです。教育とか指導というと全中の仕事だと思ってしまっているわけですよ。それは戦後の農協運動では、米の問題で米価闘争など全中のほうがリーダシップを取り始めたという経緯があるからだと思います。そのために全中の役割が非常にクローズアップされてきた。逆に全農は、輸入の飼料作物や肥料を扱うようになるなど、商社的になってきたわけですね。これが今までの経過だったと思います。そこで農水省としては経済事業について新しい規範を設けて改革をしていこうというときに、全中が指導すべきだろうという認識になっている。 ◆農協の財務基準の見直しも課題に 梶井 ところで、報告書では、経済事業は赤字で信用、共済事業の利益の補てんで農協の経営が成り立っているという分析になっています。ただ、私は部門別純損益の出し方について、各部門損益から共通管理費負担分を差し引いて純損益を出すことになっているわけですが、その共通管理費の負担のあり方が実態に合っているのか見直してみる必要があると考えています。 小島 ただ、共通管理費の配賦基準に問題はあるとしても、管理費が高いことは事実です。管理費が高いということがどうして明らかになるかといえば、やはり部門別損益を厳しく見ていってはじめて管理費が高いことが出てくるわけですね。それを共通管理費の配賦という形で薄めてしまうと、本当の損益が分からなくなってしまう面はあります。だから、ある程度不合理な配賦基準であったとしても、それを問題にするよりは、逆に共通管理費をいかに引き下げて節約していくかという話にならなければいけないのだろうと思います。 梶井 ご指摘の点は分かりますが、部門損益それ自体をどうきっちりと詰めてみていくのかという議論は必要だと思います。 小島 それはそうでしょうね。まさにそこが今後の改革の中身ということになると思います。 ◆強大なバイイングパワーにどう対抗するかこそ課題 梶井 また、報告書では、経済事業改革の方向としてJAによる直接販売の拡大を提言して、全農はJAの補完機能に徹するべきとしていますね。なぜこういう提言になるのか私は理解できません。 小島 同感ですね。不経済ですよ。スーパー・マーケットでもコンビニでもナショナル・チェーンがこれだけ大きくなって、向こうのバイイングパワーがどんどん大きくなっている。それなのにJAが個別に販売していくというのは、価格交渉力から言えば月とすっぽんの差になってしまうわけです。 梶井 それこそまさに全農がしっかり販売しなければ市場対抗力はない。卸売市場の機能が低下してきて、スーパーなどのバイイングパワーが強くなったという状況変化があるという分析が議論の際には大事なんですよね。それをベースにしないで、消費者ニーズに対応するためにJAの直接販売の拡大を、というだけでは全然迫力がないですよね。 小島 どうも消費者団体と生産者団体が細々と議論しているような雰囲気があって、本来、今の経済の実態を大きく支配しているのは大資本なんだという認識が不足していましたね。大資本に対抗していくためには、協同組合はもっとまとまっていかなければならないという議論が出てくるべきですよ。 梶井 大資本に対抗していくためにこそ協同組合ができたんですから。 小島 それに関連することですが、研究会で議論しなかったことは、系統経済事業の主体である全農全国本部と県本部、経済連のガバナンスの問題です。経営指導、指揮・命令、あるいは責任の負い方などをどうするかですね。こういうガバナンスの問題をクリアして、一体として運営される必要がある。経済事業の不祥事もそこに問題があったわけですが、研究会では一切議論してこなかった。 梶井 引き続き議論を巻き起こしていかなければならないと思います。ありがとうございました。 (2003.4.23)
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